2──“ダンジョン配信”
本文中に、インターネットのユーザー名的な名前が多く出てきますが、実在の名前を拝借してる訳ではなく全て架空の物です。
ですが、万が一、同じ名前のユーザー名を使用している方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
───約一時間前······───
「ねえ、やめようよ~」
「いいから来るの!」
不気味な洞窟の入り口で二つの影が揉めていた。二人の少女であった。
辺りは民家一つとない、鬱蒼とした森。
「こんなとこ大したダンジョンじゃないよ~、それに、もし大した事あったらどうすんの······こんな人里離れた所······」
そう言って、片方の少女が小さく身震いする。ふんわりと膨らんだサイドポニーが、その不安を表すかのように忙しなく揺れた。
「だーから穴場なんじゃん! 文字通り! こんな所普通見つからないって!」
その不安そうな少女の手を掴んで引っ張るもう一人の少女。髪色は似ていたが、こちらは短くボブに揃えている。
「あたし達のチャンネルはやっと登録者が8000人もいったのよ? 今『アレグリア』で一番勢いのある“ダイバー”だと言っても過言じゃないっしょ!」
「勢い余って転んで、転げ落ちてくのがお姉ちゃんじゃん」
「黙らっしゃい!」
お姉ちゃんと呼ばれた少女が、相手の頭をパシッと叩いた。
この二人は姉妹である。
嫌がる妹の手を強引に引っ張って目の前の洞窟に入ろうとしているのが姉。
嫌がって足を踏ん張って拒否しているのが妹。
姉の名前をリヴル。妹をラヴィと言った。
「今の時代、何をやるにしてもバズりよ、バズり! とにかくバズったもん勝ちなの! お金が欲しければバズり。イケメンの彼氏が欲しかったらバズり。限定スイーツを毎週食べたければバズり。アイドルみたいに人気者になりたいならバズり。人生バズった者勝ち! つ、ま、り~、こーんな人里離れた山ん中にある未発見のダンジョンなんて、バズり間違いなし! 再生回数200万はかたいわね!」
「そんな浅い思考で深い穴に潜るのは無謀だと思うけど」
姉リヴルの固められた拳が妹ラヴィのこめかみをグリグリと苦しめた。
「おっほん! とにかく、あたし達だってダイバーなんだから、話題になりそうなネタを見つけたら積極的に突っ込む。これは当たり前っしょ?」
「私はダイバーやりたいなんて一言も言ってないんだけど······」
「シャラップ! 妹は姉に絶対服従! これは人類史が始まってからの真理!」
「生まれるのが5分遅かっただけで死ぬまでの数十年に影響が大き過ぎる······」
「て、訳で······配信ポチっとな!」
強引に話を進めるリヴル。渋々従うラヴィ。
リヴルが手に持つ小型のタブレット、通称『マイフォン』の小型ライトが光り出す。
通話機能を始めとし、インターネットと呼ばれる世界中のデータへのアクセス、写真や動画の撮影、保存。他にも細かな機能を供えた科学驚異の産物だ。
この現代社会に無くてはならない必須アイテムだと言っても過言ではない。
リヴルがそのタブレットを腕いっぱいに伸ばして自身から離し、上部に付いたカメラレンズに向かってニコッととびきりの笑顔を向ける。
「いえ~いっ! 皆見てる~? “アレグリア”所属の新星ダイバーのリヴルと~······」
「··················いたっ!? い、妹のラヴィです」
ラヴィの太ももをつねっていた指をピースにして掲げるリヴル。
「今日はなんと新しいダンジョンはっけーん! 今まで誰も配信した事ない穴場の中の穴場!! 前人未到のその深淵へあたし達姉妹が果敢に潜りま~す! これはもう人類史に残る記念すべき配信だよー!」
妹のラヴィが自分のマイフォンを取り出して、動画配信サイト『ユアクリスタル』通称ユークリと呼ばれるサイトを開き、たった今始まった姉のライブ配信を視聴する。
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:芋のポテト・『キタ~~~!(゜∀゜)』
:摂氏50℃のゴミ箱・『始まっちゃ!』
:greencha・『キターーーー!!』
:あああああ・『イエ~イッ!!』
:婚約破棄おじゃる令嬢・『いえー!』
:チェックメイド・『キターーーーッ!』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『久しぶリヴル~!』
:操之命大神・『靴下以外脱いで待ってました!』
:sunaip13・『緊急配信と聞いて』
:新月ノ鷹・『かわいいー!』
:tissuekenja19・『下アングルが見たいでござる!』
:妹推し紳士・『ラヴィちゃんかわええええ』
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「たくさんコメント来てるね。いつもありがとうございます」
ライブ配信動画には、チャット機能というものが備わっており、今この配信を見ている視聴者がコメントを書けるのだ。
「ど? ラヴィ。ちゃんと映ってる?」
「うん、大丈夫みたい。もう150人も来てくれてる。ツブヤイター見てくれたのかな」
「やっほー! みんなありがとね! 今日も最高にワクワクでキラキラな配信をお届けするから最後まで見てってねー!」
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:チェックメイド・『みるみる~!』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『この世の終わりまでリヴルちゃんだけを見るよ!』
:あああああ・『リヴルちゃんとラヴィちゃんが居るだけでキラキラしてるよ』
:新月ノ鷹・『今日も楽しみっ!』
:tissuekenja19・『スカートの中身も見せてごわす』
:妹推し紳士・『ラヴィちゃん、頑張って!」
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配信の正常な動作を確認し、リヴルが洞窟へと足を踏み入れる。
「え~、入った瞬間ちょっとひんやり。ダンジョン特有の空気がふわ~って感じです。なんか、すごーくダンジョンっぽい空気がバーって感じです!」
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:あああああ・『初手下手くそレポ助かる』
:sunaip13・『相変わらず下手過ぎるレポ』
:芋のポテト・『IQ溶けるレポ』
:操之命大神・『初心を忘れない下手くそさ』
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「お姉ちゃん、今日も実況下手くそだって好評だよー」
「うおおいっ! ちょっとみんな! あたしのどこが下手なのよ!」
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:チェックメイド・『配信と実況とカメラワークかな』
:摂氏50℃のゴミ箱・『↑致命的じゃねえか!』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『この下手くそさが俺を明日へと導く』
:新月ノ鷹・『少しずつ上手くなってるよ!』
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「と、とにかく! ここはきっとすんご~いダンジョンに違いない! なんたって、今の今まで誰にも発見されなかったんだもん! そんな凄い場所を独占生中継するんだから、みんなチャンネルは変えちゃ駄目だからね!」
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:greencha・『期待』
:婚約破棄おじゃる令嬢・『楽しみ過ぎて夜しか寝れません!』
:sunaip13・『とりま、はよ』
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「それじゃあ侵入~! ほら、ラヴィ行くよ!」
「やだなぁ······」
「おっと。アンテナ刺さないと」
そう言い、リヴルが入り口の土にパイプのような物を突き刺す。これはダイバー専用の特殊な機器で、通常は電波が届かない地下や洞窟内に電波を送る中継基地のような物だ。
「これでよし!」
二人の少女達は全く正反対の気持ちを抱きながら、暗闇の喉へと潜っていった。
「楽しみだねー! 皆もワクワクしてきたよね! あたしもめっちゃワクワク! ここはきっと凄い場所だよ!」
「そんな凄い場所ならとっくに誰かに発見されてるか、国が管理してるよ······」
「なーに言ってんの! どうする? 神話にある魔王と関係あるダンジョンだったら」
「ないない」
無邪気な声と、冷めた声が二つ奥へと入っていく。
そう······。
ここが本当にとてつもないダンジョンだとは知らず······。
長い間護られてきたにも関わらず、忘れ去られてしまった禁断の地だとも知らず······。
お疲れ様です。次話に続きます。




