28──ゲームが分からない魔王
『ぼうけんの ほん ができました』
「これでよーしっ! さ、始まるわよ~」
──テテテーテーーテーテテテッテー──
画面が暗転し、ドット絵によって彩られた世界が広がった。
そこは王城。物語の始まりの場所であった。
画面上に表示されたNPCが言葉を紡ぐ。
『おお ゆうしゃよ えらばれし ちをひくものよ そこのたからばこから そうびを もっていきなさい』
「なんだこれは。文字が流れている。これも配信というやつなのか?」
「違うって。これはゲーム。その言葉とかは誰かがリアルタイムで書いてるんじゃなくて、そのゲームの中にプログラムされたデータよ」
「?」
「えっと、つまり······」
何一つ理解してなさそうなルキファスにラヴィが補足を入れる。
「これは作り物の世界なんです。映像や音があるけど、実在はしない。絵とか本とかと同じ物だと思ってもらえれば」
「ほう。変わった技術だが、これは何のために存在しているのだ?」
「それはもちろん娯楽のため──」
と、言いかけたリヴルは少し考えてからニヤリと悪戯っぽく笑った。
「いや、違うわ! これは、魔王討伐の訓練のために作られたの!」
「お、お姉ちゃん?」
突然妙な事を口走る姉に困惑するラヴィ。それには構わずにリヴルはノリノリで続けた。
「魔王がまたいつか現れるかもしれない。そう考えた人類は対魔王シュミレーターの開発をしたの。つまり、作り物の世界で魔王の倒し方や攻略方法を練習出来るようにしたの!」
「なんだと?」
ルキファスが感心と驚きを交えた声を漏らす。
「なるほど。技術力が上がればそんな事も可能になるのか。ククク、面白い。人間どもめ小賢しい事を考えつくではないか」
「でしょ~? そこで、そのシュミレーターの出来栄えを当の敵であるルキファスさんに評価してもらおうって訳」
「いいだろう」
リヴルの言った事はもちろん全て口からでまかせの嘘であったが、彼女の思惑通り当のルキファスは興味をそそられ、やる気になっていた。
(奴ら人間がどの程度魔王の事を警戒しているか、理解しているか。その程度が分かれば戦いを有利に運べるかもしれんしな)
魔王には魔王の思惑もあった。
ともかく、画面の中に展開される奇妙な光景は現実に存在するものではなく、作り物であり、その用途目的は魔王──つまり自分を倒すための訓練装置であるとルキファスは受け入れた。
「はい、コントローラー持って」
リヴルがルキファスにコントローラーを渡す。
「これは何なのだ?」
「コントローラー。これで画面の中のキャラを操作するのよ」
「?」
「その十字型のボタンの右を押してみて」
よく分からずひっくり返したりするルキファスの手をとってボタンに押させるリヴル。
「こう。ここを指で押すの」
「こうか?」
「そうそう」
しばらくリヴルによるコントローラーの扱い方がレクチャーされた。横でどこか羨ましそうに見ていたラヴィも加わり、魔王は姉妹から手取り足取りコントローラーの扱い方を教わった。
「ふむ······」
画面の中の勇者が動く。ルキファスが上に行くボタンを押せば上へ行き、下へ行くボタンを押せば下側へと下がった。
上下左右。勇者は魔王の意のままに動いた。
「なるほど。変わった魔法だな。この魔道具を使えばこの中の世界の者を意のままに操れるとは」
「ふふ、今操ってるのは勇者よ~?」
「ほーう。それはいい。どのボタンを押せば自ら喉を掻き切るのだ?」
「そんな自殺コマンドあってたまるかーいっ!」
姉妹にあれこれ指示を受けながら動かしていくルキファス。
最初の装備が整い、いよいよ冒険が始まった。
「何をすれば良いのだ?」
「んーとね。まずはお城を出て、町へ行こっか」
ドット人間達で賑わう町へと下る勇者(プレイヤーは魔王)。アイテムショップへと入る。
「傷薬は必須アイテムだからね。ここは惜しまずに用意しとこう」
「そんな物はいらん。俺は勇者を殺すために操作しているのだからな」
「ちょいちょーいっ! 主旨が違うわよ!」
「どうやったらこの勇者を殺せるのだ?」
「だから殺せないって! まあ、外に出てモンスターと戦えば負けて死んじゃう事はあるけど」
「そうか」
町の外へ出る勇者。
すると、早速。
──ピロロッ──
『スライムがでてきた!』
「む?」
「あっ、モンスターとエンカウントよ。ルキファスさん、初めての戦闘よ!」
画面に少しコミカルで愛嬌のあるスライムモンスターが現れた。
「なんだこいつは。これのどこがスライムなのだ。第一スライムに顔など無い」
「そんなひねくれた子供みたいなイチャモンつけないでよ! そんな事より、ほら初戦闘よ初戦闘っ」
「コマンドを選んで戦ってください」
「?」
教えられながらコマンドを選んでいく魔王。
──ザシュッ──
『スライムをたおした! けいけんちを3ポイントてにいれた!』
「おい小娘」
「なに?」
「なぜ自由に戦えんのだ。俺は真っ先にあのスライムもどきを捻り潰してやろうとしたのに、その動作が出来なかったぞ。それに攻撃される前に続けて切りつけて殺してやったのにそれも出来ない」
「RPGだからそんな事は出来ないの! ターン制なの!」
「なんだ、俺を倒す練習のための道具の割には不自由だな。こんな物やっても仕方あるまい」
と言って、魔王はコントローラーをその辺に捨ててしまった。
「あっ、もう! 本当に魔王なんだから!」
しかし、リヴルはそれでもめげずに他の作品もプレイさせてみたが、ルキファスはどれも『不自由だ』と言って止めてしまう。そもそもゲームという物の性質を理解してないのである。ターンやコマンドという物の意味や意義を理解するほどの概念が欠除しているのだ。
例えゲーム史に残る名作であっても、そもそもゲームという物への理解が無ければ真価も分からないものなのだ。
「ぐぬぬ~! ならっ、そこまで自由に動かしたいって言うなら! これしかない!」
痺れを切らしたリヴルが最後のゲームをセッティングしにかかった。最新のハードがセットされ、今日買ってきたカセットが挿入される。
「あ、それは」
「ええ。本当はあたし達姉妹が最初にやろうと思ってたんだけど仕方ないわ」
リヴルがルキファスをキッと睨む。
「思う存分これで暴れさせてあげるわ魔王様!」
そう言って起動されたのは二ヶ月ほど前に発売された『セルバの伝承』というシリーズの新作であった。
「無駄だ小娘。また同じような物なのだろう?」
「今回のはご要望に応じてアクションゲームよ。これなら自由に動かせるわ」
「ほう?」
画面にタイトルが表示され、自動的にオープニングムービーへと入っていく。
「むっ。今度のは人の声がするぞ」
「そうよー。ゲームの進化も日進月歩だから、ほんの二十年とか三十年でここまで変わるのよ」
美麗な映像、クリアな音声。
リアルな世界観にはさしもの魔王も思わず興味を示した。
「ほう。これも作り物とはな」
「ほら、動かせるわよ」
これまた姉妹のサポートにより操作していくルキファス。さながらラジコンプレイ魔王である。
「ほう。なるほど、今度のはさらに意のままに操れるな。この小僧が勇者か。こいつを殺すにはどうすればいいのだ?」
「だから~、殺さないでよ。ともかく最初は外に出るところから始めればいいのよ」
言われるがまま、導かれるがままプレイしていくルキファス。
魔王のゲームはまだ続く。
お疲れ様です。次話に続きます。




