27──RPG
次の日。
「ルキファスさん、コーヒーです」
「ああ」
魔王は朝からまた教科書などに目を通していた。おおよその文字は読めたが、知らない単語なども多いためラヴィに時折説明してもらいながらの勉学であった。
「おい、この『民主主義』とは何だ?」
「えっと、簡単に言えば王様とかが支配している社会ではなく、国民が主役というような意味合いです」
「なに? そんな狂った考え方があるのか」
「このシャラヤを含め、今は君主制ではない国の方が主流です」
「なんという事だ。人間など愚かな存在なのは知っていたが、まさかそこまでとは」
ルキファスの浮世離れした言動にも苦笑いくらいは返せるようになりつつあるラヴィ。そこにリヴルの姿はなかった。
リヴルは朝から出掛けており、今はルキファスとラヴィの二人が留守番をしている状態だ。
最初はルキファスと二人きりになる事に不安を抱いていたラヴィであったが、今はだいぶ落ち着いていた。言動はともかくとして、ルキファスは特に危害を加える気配はないからだ。
むしろ······。
黙っているルキファスの横顔は、まだ年頃の乙女なラヴィからすると、思わず見つめたくなるくらいには整っていた。
それは美しく、妖しい。時おり垣間見える瞳の奥の光は魔性の何かを秘めているかのよう。
──本当に魔王だったりして──
そんな風に思っては一人でクスリと苦笑いするラヴィなのであった。
静かに読書を続けるルキファスの横で、ラヴィはそっと様子を眺めながらマイホで自分達のチャンネルやツブヤイターをチェックするのであった。
そんな静かな時間が過ぎていき······。
──ガチャッ──
「たっだいま~! 美しき姉リヴルさんのお帰りよ~! おーっほっほっほ!」
騒がしい日常が帰ってきた。
リヴルが二人の前に袋を置く。
──ドンッ──
「奮発したわよ~! 魔王様の世界征服のためにね!」
「ゲーム?」
見慣れた袋にラヴィが言う。その袋は姉妹でよく行くホビーショップのものであった。姉妹は大抵そこでゲームを買うのだ。
「ふっふ~ん。その通り。今後のルキファスさんのために色々と見繕ってきたのよー」
ガサガサっと中身を取り出すリヴル。
「まずは~、やっぱ外せない王道のこれ!」
「『ワイバーンアドベンチャー』?」
出てきたのはゲームカセット。それを手に取って名前を言うラヴィ。超有名な名作RPGのゲームカセットであった。
「レトロなの買ってきたね」
「まだまだ! さらにこれ!」
「あ、『ラストストーリー』も」
「んで、こっちはレトロじゃないけど新作!」
「あっ、『セルバの伝承・プレスオブザマイルド』! 高かったでしょ?」
「まあね~。でもっ、これも投資だと思えば安い、安い!」
そう言いながらリヴルは、キョトンとしている魔王に笑いかけた。
「ルキファスさん、あたし達のチャンネルの運命は貴方にかかってるのよ!」
「?」
「どいうことお姉ちゃん。あ、もしかして」
「そう!」
リヴルがパンっとテーブルにノートを叩きつける。それは昨日も披露されたルキファスの配信プランノートであった。
「新プロジェクト、『魔王、勇者改造計画』よ!」
「なに?」
この言葉にはルキファスも驚いたような顔を見せた。
オフィスこと配信部屋にて、ノートを広げながらリヴルは二人にプレゼンを開始した。
「まず、新企画の説明の前に昨日の配信の振り返りから始めるわ。昨日の企画は失敗とまではいかないけど、成功かと言われると微妙ね。企画そのもの、アイディアは悪くなかったけど、ルキファスさんの“魔王キャラ”との相性が上手く噛み合わなかったわ。まあ、激辛シリーズを制覇したのは凄かったけど」
「うん。よくルキファスさん平気でしたね」
「美味かった。おい、またあのカップ麺を用意しろ」
「シャラップ! この会議が終わったら用意してあげるから待ってて」
リヴルが話を続ける。
「そこで考えたの。ルキファスさんの持ち味は何か。そう、それは言うまでもなく完璧とも言えるほどの魔王キャラよ」
ノートにトンッと指が押される。そこには大きく『魔王様』と書かれていた。
「つまり、みんなが魔王に求める事は何か。魔王が本当に現実に居たとしたら、人は何を求めるか。もちろん、世界征服とか侵略とか物騒な物以外でね」
「?」
怪訝な顔を浮かべるルキファスにニヤッとした笑みが送られる。
「あたし達人間が求める事はそう、『もし、魔王様が勇者になったら?』よ!」
「············ごめんねお姉ちゃん。よく分かんない」
「耳を立ててよ~く聞きなさいっ、マイシスター!」
リヴルは買ってきたカセットを広げて説明した。
「つまり、本物(偽)の魔王様が昨今のRPGとかのゲームをプレイして、魔王目線から勇者や魔王の評価をしながら実況配信するの! 勇者、そんな体たらくで我を倒せるか~!みたいな感じでさ!」
「ごめん、やっぱりよく分かんないけど······要はルキファスさんにゲーム実況してもらうって事?」
「そうっ! ど?」
キラキラ目を輝かせる姉に、ラヴィもコクコクっと頷いた。
「けっこう面白いかも。それに、ルキファスさんがゲームをどうプレイするかも気になるし」
「でしょ~? ね、ねねっ、どうルキファスさん」
迫るリヴルにルキファスはしかめ面のまま
「どうも何も貴様らが何の話をしているのか全く分からん」
と答えた。
「しかし、魔王や勇者という言葉が出てきたな。まさか、この時代にも勇者が居たのか?」
「居るよ! たくさんね!」
「ほう。どこだ? 今の内に葬りに行ってやろう」
「それは~······ここ!」
──ガチャチャッ──
積み重ねられるゲームカセットたち。
ルキファスはさらに怪訝な顔をした。
「なに? その中に居るのか? そんな小さな人間が居たのか?」
今は絶えた小人族ですら、普通の人間の手くらいの大きさはあった。とてもカセットの中に収まるとは思えなかった。
「ふふーん。ま、やれば分かるわ。いえ、思いだすかもしれないわね。ルキファスさんもどれかしらのゲームはやった事あると思うわよ」
話を飲み込めない魔王には構わず、リヴルはゲーム機器をガチャチャといじりだした。
「さあ、どれからやる? やっぱりワイバーンアドベンチャーから?」
「よく分からんが、俺は今から勇者と戦うのか?」
「正確には勇者として戦うのよ!」
「なに?」
「うーん。迷うけど~。やっぱここはワイアドからでしょ!」
古い型のゲーム機器が引っ張り出され、そこに買ってきたばかりのカセットを差し込んでゆく。
「王道RPGと言ったらこれ! あたし達は最近のシリーズしかやってないけど、実況動画で予習済みだからルキファスさんのプレイの補佐もバッチシよ」
「小娘、さっきから何の話をしているのだ」
「ルキファスさんに、いや、魔王様にゲーム実況してもらうっていう話!」
ゲーム用のモニターの電源が入り、ピコピコと独特な電子音が流れ、画面には四角い角で形作られた大きな文字が貼り出された。
「今夜の放送枠とっておいたから。その前に予行演習よ! さっ、魔王様。世界を救うために冒険だー!」
「???」
こうして、魔王初めてのロールプレイングが始まったのであった。
お疲れ様です。次話に続きます。




