26──魔王の味覚
「ほう、この竜田揚げとかいう食い物。油で揚げたのか。ククク、そう言えば俺を暗殺しようとした奴らを一気に釜茹での刑にした事もあったな。それを思い出す味だ美味い」
「い、いえ~い······あのー、魔王様? 魔王らしい感想なのは大変結構なんだけど、もう少しこう、こう、こう······こうっ、どうにかならないかな!?」
「何がだ?」
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:新月の鷹・『なんだか気分が······』
:あああああ・『これは食レポなのだろうか。それともルキファス氏の演劇会なのだろうか』
:芋のポテト・『魔王様、食欲が無くなってきたでござる(涙)』
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魔王の食レポ配信から数十分が経過した。
空になったカップは10近くになり、袋だけになった菓子パンも数を増やしている。
しかし、その食レポはというと······。
「ふむ。この甘い香り。血の海のむせ返るような甘い臭いに──」
「ストーップ! ストーップ!」
リヴルが待ったをかける。
「ルキファスさん、個性的な感想は本当によくやってくれてると思うわ。でもっ、ちょっと、ちょっとね!? あたし達のチャンネルにはそぐわないような表現が多いと言うかね······?」
「?」
仕方がないと言えばそれまでであった。
ルキファスにはそもそも食レポという概念が無い。そして、元々食物などロクに摂らなくても生きてゆける体質であるため、料理の味や質にこだわる事もなかった。
故に、美味いかそうでもないか。それしかルキファスには無いのだ。美味くなくても必要なら食し、美味くても必要なければ食さない。
そんな者が、他人の共感を得たり食欲を増進させるようなコメントを残せるはずがないのだ。
それだけならまだマシだったかもしれない。が、配信は何とも言えない奇妙な空気になっていた。
ルキファスは彼なりに食レポを工夫したのだが、それは最早食レポではなく凄惨な殺戮の回顧録。
赤い食べ物は血肉となり、シュガーコーティングは白骨となり、ホットドッグは引き裂かれた人間の腸となるのであった。
それを静かな笑みで口にするのだから、聴く方は何とも言えなくなる。ましてや、この配信枠は食事を摂りながら聴くリスナーも多いのである。
「魔王様~、もうちょっとグルメっぽく出来ないのー?」
「グルメとは何だ?」
「グルメってのは······美味しい物いっぱい食べる人!」
「なら俺はグルメではないな。人間では無いからな」
「こらー! 屁理屈言うなー!」
リヴルの思い通りにはなかなかならないのである。
「ぐ、ぐぐぐ······一体どこで間違えたのかしら、あたしの完璧なプランは······」
「まあまあ。仕方ないよ。ルキファスさんは予測不能な人だし······」
しかし、そこは配信者魂が逞しいのかリヴルはめげずに立ち直った。
「こうなったら! 次の配信のためにとっておいたんだけど、あれを使うしかっ······」
バタバタと部屋から出ていくリヴル。ラヴィがカメラの前に出て頭を下げる。
「すみません、皆さん。少々お待ち下さい」
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:妹推し紳士・『むしろこの画面のままやって下さい!』
:No.35zako・『お、放送事故か?』
:チェックメイド・『どこ行くねーん』
:芋のポテト・『つうか、魔王様ってめちゃくちゃ食うんだな』
:あああああ・『↑な。表情変わってねえけどフードファイターやん』
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ほとんど時間も経たずに、リヴルが部屋に戻ってくる。
「みなさん! このままではあたし達人類は魔王様に負けてしまいます! 我が人類の叡知の結晶である料理が貶されているのです!」
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:greencha・『叡知(コンビニの商品)』
:新月の鷹・『貶してはないと思うけど······』
:あああああ・『何の勝負をして、何故負けかけてるんだ俺らは』
:芋のポテト・『この世の終わりじゃ~!』
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「しかし! ご安心を! このまま負けては大昔に戦ってくれたご先祖様達に顔向け出来ません!」
「ほう?」
横で小さくニヤッと笑うルキファス。
「なので切り札を出します!」
リヴルはテーブルの上にタンっと一つのカップ麺を置いた。
「ライバー秘技っ、激辛シリーズ! これを持ってして魔王を倒します!」
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:あああああ・『おおー!』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『ついに切り札を使う時が!』
:チェックメイド・『この微妙に旬からずれてんのがリヴルクオリティ』
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リヴルが取り出したのは少し前に動画配信者達の間で流行った激辛シリーズと呼ばれる商品の一つである激辛カップ麺であった。
「そうっ! 皆さんご存知激辛シリーズ『シンジャラス(死んじゃうほど辛い!という加工食品を売りにしたメーカーの名前)四天王』の一角! さしもの魔王様もこれは耐えられまい!」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん。そのシリーズはマジでヤバいよ。前に二人で挑んで酷い目にあったの忘れた?」
姉妹は以前にこのシリーズの別食品『シンジャラスクラッカー』に挑戦する生配信を敢行したが、二人で半分も食べる事も出来ずに敗北した。
残ったのはカレーにスパイスの代わりに少しずつ投入して何とか処理した苦い─もとい辛い記憶があるのだ。
「いーのっ、いーのっ。それに、ルキファスさんが辛さに悶える瞬間、少し見てみたいじゃん」
「もう、知らないからね······」
──ペリッ、コポポポポ······──
「ほう、またカップ麺か。小娘、用意が良いな」
「まーね。それより魔王様、結構食べたけどお腹はまだ大丈夫そう?」
「問題ない」
すぐに三分経ち、激辛ラーメンが完成した。
「くっくっく。悪く思わないでよね魔王様。これも配信のため。犠牲になりなさい! みんな、生け贄タグはこの時のために付けておいたのだー!」
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:リヴルちゃんすこすこ侍・『マジかよ! リヴルちゃん天才だな!』
:芋のポテト・『ここにきての伏線回収とか激熱、激辛』
:greencha・『まさかの伏線かよwww』
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配信の空気が浮き立ち、いよいよルキファスがすする。
──ズルルル──
「······!」
そこでルキファスの表情が変わった。
「どうですか魔王様!」
「······美味い」
「え?」
「クハハハっ、美味いではないか!」
魔王は上機嫌に高笑いを上げた。
「これは他のよりも抜きん出て美味いではないか。ふむ、この味、血が沸き立つような魔の味だ」
絶賛しながらすすり上げていく魔王。辛さに悶える事はなく、代わりに爛々と瞳を妖しく光らせた。
「ククク、クハハハッ! なんと愉悦な味だ! 褒めてやるぞ小娘。いや、リヴルとやら。今度から俺のカップ麺は全てこれにしろ」
「え、えぇ? え、ええぇ······?」
果たして撮れ高のある展開なのか、それとも拍子抜けなオチなのか。
リヴルもラヴィも困ったような顔を見合せ、コメント欄にも同様の言葉が流れていった。
結局。
この日、リヴルの用意した激辛『シンジャラスシリーズ』を全て満足げに制覇したルキファスに、周囲は驚愕した。
お疲れ様です。次話に続きます。




