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25──ままならない理想

 



「えー、それでは。始める前に魔王様に今日の意気込みを聞いてみましょう。どうですか魔王様。みんな魔王様のご飯配信に沸き立っていますが」


 手で作ったマイクジェスチャーにルキファスは怪訝な顔を浮かべた。


「他人の食事に興味を抱くなど俺には理解出来んが、貴様らが満足なら好きに見ていくがいい」


 ────────────────────

:芋のポテト・『ははーっ! ありがたき幸せ』

:新月の鷹・『わ、わーい』

:リヴルちゃんすこすこ侍・『態度悪www』

:greencha・『魔王様ー!』

 ────────────────────


「さて! という訳で、みなさんこれを見て下さい! じゃじゃんっ!」


 カメラの前に、先ほど用意した食物をラヴィが乗せていく。


「ご覧の通り、みなさんのアンケートを元に買ってきました! 今宵、これらは魔王様の供物として成就するのだ~!」


 ────────────────────

:あああああ・『い、生け贄だ~!』

:No.35zako・『供物やんけwwwww』

:妹推し紳士・『タグの生け贄ってこれかいw』

:チェックメイド・『今きたんだけど、なんか儀式始まってて草』

 ────────────────────


「てな訳でー······さ、魔王様。どれから召し上がりますか?」


 そう言われ、ルキファスは机の上の品々をじっと見つめたが、すぐに答えを出した。


「カップ麺だ」

「はいはーいっ。ラヴィ、ラーメン一丁!」

「はーい」


 電気ケトルはすでにスタンバイ済み。すぐにお湯がゴボゴボと音を立て始めた。


「それじゃあどの味にしますか?」

「これだ」

「はいっ、みんな大好きソイユ味! これが基本だよね~」


 お湯がカップに注がれると、濃い琥珀のスープが満ちた。ソイユと呼ばれる、豆を使った黒いソースによる色だ。


「では、三分間お待ち下さい」


 ────────────────────

:チェックメイド・『魔王がカップラーメンとは······』

:芋のポテト・『魔王様を前にすると黒魔術の鍋に見えなくも······いや、ただのカップ麺だわ』

:リヴルちゃんすこすこ侍・『きぃ~! 俺もリヴルちゃんの手料理が食いてえ!』

 ────────────────────


 ──ペリリ······──


 蓋が剥がされる。


「さあ、全世界初! 魔王様のお食事風景です!」


 ルキファスの後ろでやかましく騒ぐリヴル。当の魔王本人は気にも留めずにラーメンをすすった。


「······ふむ。やはり美味い」

「で、出ましたー! 魔王様の『美味い』! これはどんな美食家や偉い人の感想よりも貴重です!」


 ────────────────────

:greencha・『魔王にしては俗な舌で草』

:あああああ・『魔王様もカップ麺の味には舌を巻いたか』

:No.35zako・『実質、カップ麺は勇者って事でおけ?』

:新月の鷹・『お腹空いてきちゃった』

 ────────────────────


 流れるコメントを見送りながらリヴルは満足そうに頷いていた。


「おい、小娘。次は無いのか?」


 早くも完食したルキファスにリヴルはビシッと敬礼した。


「ははーっ! 魔王様! 次はどれにいたしましょうか?」

「これだ」

「キターっ! シーフードバター味! 今一番の売れ筋!」

「早く用意しろ」

「ははーっ!」


 ────────────────────

:リヴルちゃんすこすこ侍・『リヴルちゃん、すっかり眷属になっちゃって······』

:芋のポテト・『普通にパシられてるwww』

:チェックメイド・『やはりリヴルンはクソザコか』

 ────────────────────


 また別の味のカップ麺が出され、それを口へと入れるルキファス。


「ふむ。美味い」

「キター! 魔王様の美味い! 人類はこれで二度の美味いを頂きました!」

「ズズ······次だ」

「どれにしますか?」

「どれでもいい。カップ麺ならな」

「それではこれいきましょう! カレーチーズ味! 今年一番の新商品だー!」


 ──ペリッ、コポポポポ······ペリリッ、ズルル──


「魔王様っ、感想は?」

「美味い」

「え、えっとー。うえ~いっ! 三連続美味い! これは実質我ら人類の三連勝だ~!」


 ──コポポポポ······ペリッ、ズルルル······──


「感想をどうぞ!」

「美味い」

「······」


 ──コポ、ペリッ、ズルッ──


「どうです──」

「美味い」

「······み、みんなちょーっと待っててね!」


 カメラをタオルで塞ぎ、マイクをミュートにするリヴル。


「ちょいちょいちょーいっ! 食レポになってないじゃん! 真面目にやってよルキファスさん」

「? 感想を言えば良いのだろう? 美味い」


 カップ麺の空を見回して感心したように言うルキファス。


「どれも不思議だが美味だ。俺の感想は美味い、だ」

「そうじゃなくて! 何がどう美味しいのかをちゃんと説明して欲しいの!」


 リヴルが困ったように言う。


「美味しいって言うだけなら誰でも言えるわ。そうじゃなくて、『このバターの香りが良くて美味しい~』とか『この濃厚なスープが美味しい~』とか『麺との絶妙な絡み具合が美味しい~』とかさ」

「その例えも結局『美味い』と言いたいだけではないか」

「うぐっ、そ、そうだけど!」

「お姉ちゃんもレポ下手だから······」

「ともかく!」


 ゴミを片付けて仕切り直しをするリヴル。


「美味いだけじゃなくて他にも何か言って。ほら、例えば······『こ、この美味さは前世の記憶が甦る~』とか、『昔食べたお母さんの味だ~』みたいな」

「よく分からん」

「もうっ! なら、今までの自分の体験を交えた感じでもいいから。例えば『この美味さ、初めて自転車を漕げた時の感動だ!』みたいなので良いから」

「ふむ」



 カメラとマイクが回復する。


「みんな、ごめんねー! ちょっとGが出たから戦ってたんだ! もう大丈夫!」


 ────────────────────

:新月の鷹・『大丈夫?!』

:greencha・『魔王とGどっちが強いのかやって欲しかったな』

:芋のポテト・『実質Gは魔王みたいなもんだしな』

 ────────────────────


「それでは、魔王様。次の感想を」

「ズルルル······」


 トマトリゾット味の麺を啜り、少し間を置くルキファス。


「······この赤いスープ。見ていると血祭りに上げた騎士団長の顔を思い出すくらい美味い」

「う、うえ~いっ! そ、そう! 血祭りを思い出すくらい美味しい~!」

「いや、それは食レポなのかな······」


 何とかノリを合わせようとするリヴル。


「なるほど! つまり、勝利の味がするという訳ですね!」

「ああ。このトマトの香りと味。かつて食い殺した王の血肉を思い出す。愚かな王だったが肥えていた分、味は濃厚だったからな。ククク、こんな色ごときで昔を思い出すとはな。俺も落ちぶれたものだ」

「う、うえ~い······そ、そう。濃厚な血肉······」

「おえぇ······」


 ────────────────────

:チェックメイド・『血のりじゃないんだから······』

:妹推し紳士・『なんかグロいwwwww』

:芋のポテト・『これは重症ですな······』

 ────────────────────


 食レポ配信はリヴルの思惑とは違い、怪しい雲行きのまま続行されていった。




お疲れ様です。次話に続きます。

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