24──食レポ配信
地図や文明の機器などを調べながら過ごすルキファス。
古代の魔王にとっては何もかも珍しいのだ。まだまだ分からない事だらけである。
「ふん? これが教科書とかいうやつか。昔人間どもが使っていた“強化書(特別な呪文の施された紙。そこに書いてある事を読んで唱えるだけで不思議な力を得れた)”とは別物なのだな」
教科書を手にとるルキファス。勉強家という訳ではないが、今は少しでもこの時代の物に触れるのが肝要である。
「······? これは、聖書物か?」
文道科(いわゆる国語のこと。しかし、道徳的な内容の話を主に学ぶ学問)の教科書を手にとって目を通していく魔王。
「······」
〈妖精姫と木こりの王子〉
この国に伝わる古い童話が記載されていた。
話の概ねは、ある森で素朴に暮らしていた木こりの青年と妖精の姫が出会い恋に落ちるという話。姫は青年のために木々に豊かな実を実らせて富をもたらし、青年は小さな領土の王となった。しかし、段々と裕福になっていった青年は欲深くなり、姫の愛した森を全て伐採して農地にしてしまった。
悲しんだ姫はどこかへ消えてしまい、青年の国は自然の恩恵も受けられずに段々と貧しくなってしまい、ついには滅んでしまった。
残された青年には木を切る事も出来ず、以前よりもさらに落ちぶれてしまった。
ただ利用するだけだと思っていた物は、実は共生関係にある大切なパートナーなのだ。
と、言ったような話であった。
「くだらん」
冷めきった感想。
魔王の心の水面は微かにも揺れなかった。
(こんな話のどこに興味を抱くのか俺には全く理解出来ん)
その他にあった話も似たり寄ったりの話であった。要は『正直でありなさい。謙虚でありなさい。優しくありなさい。自然は大切に』というメッセージを込めた話の群れだ。
(人間の無意味な情緒だけは二千年経とうとも変わらんらしい)
やはり理解など出来ない。欲しい物は奪い、他者は信用せず、己以外は利用出来る道具に過ぎない。そして、その序列は力によってのみ決められる。
魔王の感性からは、人間の道徳はどこに利点があるのか理解出来なかった。
そんな過ごし方をしてる内に、昼の時間となった。
「ルキファスさん、あたし達は出掛けてくるね。外で食べてきちゃうから」
「ああ」
リヴルとラヴィは出掛け、ルキファスは午前と同じように一人で過ごした。その間、何も口にはしなかった。
やがて夕方になり、姉妹が帰ってきた。
「たっだいま~! 魔王様~、良い子にしてたかな~?」
両手にビニール袋をぶら下げたリヴルとラヴィ。二人がテーブルの上に中身を広げていく。
気になったルキファスがそちらに行ってみる。
「ほう、これは何の騒ぎだ?」
「にっひひ~。これは、今日の配信で使う品々で~す! ルキファスさんのためのね!」
「俺の?」
テーブルの上にはカップ麺を始めとし、様々な菓子や菓子パン、スイーツが並べられていた。
どれもこれもコンビニやスーパーで手に入る物ばかりだ。
「これは何だ? 全部食物のように見えるが?」
「そだよー。これはみんなルキファスさんの食べ物! けっこうしたのよ~、八千エイス(エイスとは通貨の単位。100エイスでペットボトルのジュースが一本買える)くらい使っちゃったんだから」
山のように用意された食べ物を見ていた魔王だったが、満更でもないように不敵な笑みを見せた。
「献上品とは、なかなかに従順ではないか。小娘、この手柄は覚えておこう」
「もー、本当に魔王なんだから」
もはや魔王という言葉が悪態と化していた。
夕飯の時間に差し掛かったが、姉妹は食事の用意をするでもなく、配信ルームへとルキファスを案内してパソコンなどをつけた。三人の脇にはいくつもの食料品が待機している。
「小娘、配信とやらを始める気だな?」
「そっ。頼んだわよ魔王様。今日の配信の成功はルキファスさんにかかってるんだから。またあたし達にバズをもたらしたまえ~ っ」
「?」
「えっと、私の方から企画の案内をします」
準備に集中している姉に変わってラヴィがそう申し出た。
「朝、お姉ちゃんと少し考えたのですが、ルキファスさんはこの社会のあらゆる事を知らない──というより忘れてしまっているようなので、あらゆる事が物珍しく、初体験になると思います」
「そうだ」
「そこで、思いついたのですが、ルキファスさんに食レポ配信してもらおうかなって」
「ショクレポ?」
聞き慣れない単語をおうむ返しにする。
「何だそれは」
「簡単に言うと、料理などを食べて感想を言ってもらう事です。もしくは、食べながらそれを説明や解説してもらったり」
「なぜそのような事をするのだ?」
ルキファスは理解出来ずに訊いた。
「よくは知らんが、貴様らは多くの人間に自分達の存在感をアピールするのが目的なのだろう。食物の感想などでそれが達成出来るのか?」
「えっと、そこをルキファスさんにお願いしたくて」
ラヴィはさらに説明した。
つまり、あらゆる記憶を失っている──というより本当に知らないだけなのだが──ルキファスなら、食レポも新鮮で初々しい反応になるのではないかと思ったのだ。
『果たして人間界の食べ物は魔王様のお口に合うのか!?』という触れ込みで、すでに宣伝済みだというラヴィ。
「すみません、勝手に進めてしまって。あの、協力してもらえますか?」
「まあ、構わん。物を食って感想を述べるだけであろう? 容易い事だ。もっとも、まるで意味があるとは思えんがな」
「そんな事ないってー!」
準備を整えたリヴルが明るく笑う。
「だって魔王が食レポしてくれるんだよ? こりゃもうバズだって! みんな気になるでしょうよ。『えっ、魔王って人間しか食べないんじゃないの?』とか、『魔王の口に合うスイーツ買おう!』みたいに盛り上がるよ~」
「ふむ。貴様の考えは全く理解出来んが······」
ルキファスは積み上げられたカップ麺の山を横目にして言った。
「まあいいだろう」
「さっすが魔王様~。今回は食べられるだけカップ麺も食べていいからね。あ、でも他のも食べてね~!」
皿やフォーク、スプーンなどが用意されていき、それがルキファスの前に並べられていく。
「晩餐か。これがお前の言う面白い企画とかいうものか?」
「そっ! どう?」
「悪くはないな」
この時代の食物はルキファスにとっても新鮮で刺激的なのは間違いない。それを多く堪能出来るのは彼にとっても決して悪い話ではない。
「カメラよーしっ。マイクよーしっ。お皿よーしっ。ポットよーしっ! それじゃあ始めるよー!」
OnAir。
「いえ~いっ! みんなこんばんわ~! ラブリブチャンネルの時間だよー! 今日の配信はアレグリア所属のダイバー、あたしリヴルと~」
「同じくアレグリア所属、妹のラヴィです」
「そして~、我らが半レギュラースペシャルゲスト、古代の魔王ルキファスさんでーす!」
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:芋のポテト・『いえ~いっ!』
:greencha・『魔王様ー!』
:妹推し紳士・『こんばんわ、ラヴィちゃん!』
:あああああ・『魔王様?! まだ封印されてなかったんか?!』
:No.35zako・『魔王配信と聞いて』
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開始して間も無く、早速コメントが流れ出す。
「今日の朝に皆にツブヤイターで募集した『食レポして欲しい商品!』をなんと、魔王様がしてくれる事になりました! 拍手~!」
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:芋のポテト・『88888888888888888』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『遅れた!』
:あああああ・『8888888888888』
:新月の鷹・『(*’ω’ノノ゛☆パチパチ』
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こうして、魔王の食レポ配信が始まった。
お疲れ様です。次話に続きます。




