20──隠し部屋
ルキファスは抽象的な模様の刻まれた壁に近寄った。縦に伸びたり、渦巻いたり、円が重なったような模様だ。
(これは隠し扉の仕掛けだ。一定の法則でなぞる事によって扉が出るようになっている)
すぐ横の壁に描かれたモンスターを象った絵。その並び。それらが暗号となっていて、模様をどうなぞればいいか示している。魔族の間にしか伝わっていない解除方法だ。
(ふむ。少々うろ覚えだが······。たしか、こうだったか。このパターンは······)
スッと指でなぞっていくルキファス。
後ろのリヴルが困ったように笑った。
「あはは、ありがとルキファスさん。盛り上げてくれようとしてるのね。でも、流石にそれは無理があるわよ」
──スッ──カチッ──
(開いた)
「え?」
「あれ? 今音が······」
ルキファスが壁からそっと離れる。
すると、それに合わせるかのように壁の模様がぼんやりと光りだした。
「え? え、え? な、何これ」
石を擦り合わせる音と共に壁がゆっくりと動き出す。
それは扉のようになってリヴル達側へと開いて、大きな口を開けた。
「······」
「······」
姉妹の口もポカンと開いていた。
そして、配信動画のコメント欄でも。
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:芋のポテト・『ええええええええええ?!』
:greencha・『マジでなんか出た?!』
:チェックメイド・『これマ?!』
:操之命大神・『何が起こったんだ?!』
:taroZ・『ええええええ!!』
:あああああ・『ふぉおお?!!?』
:新月の鷹・『ええ?!』
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「こ、これって······」
「隠し部屋だ」
唖然とするリヴルにルキファスが怪訝な表情で返す。
「よくは知らんが、こういうのを望んでいたのだろう?」
「······はっ! そ、そうね! そうっ、こういうのを望んでいたのよ!」
我に返り、慌てて取り繕うように言うリヴル。
カメラを持ち直し、ルキファスの横に立ってマイクを向ける。
「すごいですね魔王様! やっぱり本物の魔王ならこんな事朝飯前ですね!」
「魔王でなくとも魔族なら誰にでも出来る」
「いや~、まさか本当にこんな部屋が見つかるなんて」
マイクを遠ざけ、カメラも壁に向けてリヴルが小声で尋ねる。
「これ、偶然だよね? それともマジで秘密部屋の事知ってたの?」
「知らなければ見つかったりせん。秘密部屋なのだからな」
「······」
カメラとマイクを戻すリヴル。
「えー、ともかく! こんな凄い発見は正に神回! 早速中へと入りたいと思います!」
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:芋のポテト・『まさかマジでルキファス氏は魔王様だったりして?』
:あああああ・『ガチ魔王?』
:greencha・『もしかして、著名なダンジョン研究者なんじゃない?』
:チェックメイド・『これフェイク映像じゃないもんな······』
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リヴルにも、ラヴィにも。そして視聴者の間にも。戸惑いは隠せなかった。
『まあ、偶然ではあるだろうが······』
しかし、それにしても凄い偶然だ。
そんな感想を誰もが抱いた。
「や、止めた方がよくない? 未知の空間だし······」
入り口で躊躇うラヴィ。リヴルは興奮半分、混乱半分といった様子で叱りつけた。
「何言ってんの! こんなチャンス滅多にないわ! 今までここで配信してきたどのダイバーも隠し部屋なんて見つけなかったのよ?」
恐る恐る中へと入る姉妹。中はそれほど広くはなく、奥に箱が置かれていた。
ラヴィがその箱をライトで照らす。
「あれは?」
「ああ、あれは──」
「宝箱ーー!」
ルキファスが正体を答える前にリヴルが目を輝かせて駆け出す。
「あっ、お姉ちゃん!」
「······今も昔も人間は変わらぬのだな」
ルキファスが呆れたように言うのと同時に、リヴルが宝箱に飛び付く。
「やったー! これで大金持ちよー! ラヴィっ、これからは毎日アイス食べ放題!」
待ちきれない手が素早く動いて蓋を開ける。
「お宝っ············あるえ?」
しかし、リヴルから発せられたのは歓喜の声ではなく間の抜けた声であった。
「え、何これ?」
「何が入ってたの?」
ラヴィも近づいて横から覗き込んだ。
「うん? 骨?」
「みたい、ね」
箱の中に入っていたのは、白い棒のような物と何か動物の頭蓋骨と思わしき物体。
白骨としか言い様がなかった。
「あれ? あたしのお宝は?! 撮れ高マックスの神展開は?!」
リヴルがルキファスに振り向く。
「ねえっ! お宝が入ってるんじゃないの?」
「そんな物は無い」
ルキファスはバッサリと言い捨てた。
「それはミミックだ。もっとも、とっくの昔に死んだようだがな」
「みみっく?」
聞き慣れない単語に姉妹が首を傾げる。
「簡単に言えばトラップモンスターだ。宝箱に成り済まし、近寄って開けた人間を食い殺すモンスターだ。運が良かったな小娘。もしその骨がまだ生きてたら貴様は丸飲みにされていたぞ」
リヴルはパチパチと目をしばたいてから、ゾッと青い顔になった。
「も、も~うっ、魔王ジョークはキツいってー」
その体がササッと妹の後ろへと隠れる。
「他には何も無いみたいですね」
ラヴィが室内をライトで照らしてみるが、特に目ぼしい物は見当たらなかった。
結局。隠し部屋という驚きの発見を配信するという話題性ある展開にこそなったが、そこから先に大した何かがあった訳でもなく部屋を後にした一行。
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:芋のポテト・『意外に展開は普通だったな』
:greencha・『あの隠し部屋は偶然だったのか?』
:taroZ・『神展開からの微妙な中身』
:チェックメイド・『結局ミミックって何?』
:あああああ・『けど、部屋だけでも凄くね?』
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「うーん······微妙っ!」
コメントに目を通していたリヴルが不満そうに声を上げた。
「なんか不完全燃焼! ね~、ルキファスさ~ん。他に何か無いのー?」
「ない」
「あっさり!」
その後、リヴルがどうにかしてルキファスに同じような衝撃的展開を促したが、このダンジョンこと深淵は大した所でもなく、何時もの探索と変わらない配信となって終了した。
「えー。それじゃあみんな! また次の配信でねー! ばいばーいつ!」
マイフォンの電源を切り、小さくタメ息を吐くリヴル。
「む~。途中までは神展開だったのに~。ルキファスさーん、他に何かネタは無いの~? 撮れ高もりもりのネタは~」
「貴様が求めるものを正確に理解した訳ではないが、ここにはそんなものは無い」
「そっかー。ま、しょうがないっか」
切り替え早く、笑顔を浮かべるリヴル。
「隠し部屋なんていう発見を配信出来ただけでもよしだね。じゃ、帰ろっか」
「お姉ちゃん、私ちょっと思ったんだけどさ」
帰りかけたラヴィがこんな提案をした。
「家に帰ったらルキファスさんに“ダンジョンマップ”見せてみたら?」
その提案に
「それだ!!」
という、リヴルの明るい声が応えた
お疲れ様です。次話に続きます。




