19──拍子抜けなダンジョン
「ほう。モンスターか」
「下がってて、ルキファスさんっ」
武器を構えて前へと出るリヴル。ラヴィと並んで戦闘態勢へ入る。ルキファスを守る形だ。モンスターが現れたとあって、二人にも緊張感が漂っていた。
が、ルキファスは好奇心から前へと出た。
「どれ、一体どんなモンスターが居るのか──」
そう言いかけた声がそこで止まる。
目の前に居たモンスター。それは最下級モンスターのスライムであった──が。
「なんだ、これは?」
思わず呟くように言うルキファス。
そこに居たのは猫程の大きさの濁った水色の塊。ブヨブヨした肉体と、水気を帯びた音を立てて這う異形のモンスター。
「ちょっと! 危ないから下がっててよルキファスさん! スライムだってちゃんと毒とか持ってるんだからね!」
リヴルが腕を引っ張るが、ルキファスは微動だにしない。
「重っ!? 動かない~!」
「小娘、これがスライムだと言うのか?」
半ば放心したように尋ねるルキファスにラヴィが戸惑うように頷いた。
「はい。そうです。これがモンスター、スライムです」
「これが?」
まだ信じられないというような目を向ける。
彼の知るスライムとは、人間よりも一回り大きい塊で、変幻自在に形を変えてもっと激しく動き回る生物だ。
目の前に居るそれは幼体。あるいは肉片にしか見えない。ルキファスは幼体だと判断した。
「これは幼体だ。騒ぐ事はない」
「い、いえ。これが成体ですが······」
「それは貴様らの認識不足だ」
そう言いきったルキファスであったが、スライムの中にあるコアと呼ばれる器官から感じる魔力の質は確かに成体の物である事に気がついた。
(弱いが、この波長は確かに成体のものだ。幼体の波長とは違う。だが······)
あまりにも小さく、弱々しいその魔物にルキファスは混乱した。
『ジュルルル』
「よーしっ、勇者リヴルが相手しよう! 食らえっ、ミラクルバスター!」
にじり寄ってきたスライムに向けてリヴルが筒を振るう。
先端からポンッという音と共に光の弾が発射され、スライムに当たると、バチッと火花を散らして弾けた。スライムの体が跳ね上がって落ちる。
「どうだモンスターめー! 正義の力を思い知ったかー!」
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:芋のポテト・『これだけは割りと強くて草』
:新月の鷹・『すごいっ!』
:チェックメイド・『魔砲の火力はダイバーの中でも上位』
:greencha・『素直にすげえな』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『うおおおおおっ、やっぱ推せるぜー!!』
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まるで小さな花火。いや、小細工によって作られた爆竹にすらならないようなその魔法にルキファスは目をパチパチと瞬かせた。
「ふっふ~ん! どうよ魔王様? あたし、こう見えてけっこー強いんよ~?」
得意気に筒をくるくると回すリヴルをルキファスはしげしげと見つめた。
「······。今のが魔法だと?」
「そっ! もしかして、見るの初めて? まあ、魔法なんて使える人の方が少ないから見た事無くてもしょうがないけどね」
「······使える人間の方が少ないだと?」
「あっ、今度はリザードルが!」
ラヴィが声を上げて銃を構える。ルキファスもその銃口の先を見ると、そこには中型犬くらいのトカゲモンスターがピロピロと赤い舌を出していた。
「リザードル? まさか、リザドルガの事か?」
その姿はルキファスの知るモンスター、リザドルガに酷似していた。サイズ以外は。
いや、サイズだけではなかった。全体的に小さくなり、さらには本来なら鉄の鎧や剣すら容易く切り裂き、切断するはずの爪がいやに短く頼りない。
「えいっ!」
パンッ、パンッと乾いた破裂音がダンジョンに響きわたり、先ほどのリヴルが放ったのと同じような光の弾が発射される。
それがリザドルガ──リザードルと呼ばれるモンスターを貫く。
「ナイスショットっ、ラヴィ!」
「ふう······」
倒されたモンスター達はサラサラっと炭のようになって消えていった。
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:リヴルちゃんすこすこ侍・『うおおおお!TUEEEEEEE!!』
:妹推し紳士・『888888888888888888』
:あああああ・『素でつええwww』
:操之命大神・『今日も無双ですね、分かります』
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沸きに沸くコメント欄。それらは姉妹の強さを冗談ではなく素直に褒める物がほとんどであった。
「············」
しかし、ルキファスは立ち尽くしたまま二人のハイタッチする姿を見ていた。
(あれが魔法だと? あれが強いだと?)
「ど? ルキファスさん。あたし達姉妹の実力は? こんだけ強いのにダイバーやらない手は無いもんねー。ふふっ」
その自信たっぷりのリヴルの表情にも言葉にも、嘘や冗談は含まれていそうになかった。
「······貴様ら、今の戦いぶりは強者の部類に入るのか?」
「え?」
キョトンとするリヴル。
「当たり前じゃん。見てなかったの? マジックワンドであんな威力の弾が出せる学生なんてほぼ居ないっしょ」
ラヴィも不思議そうに首を傾げていた。
「何か気になる事でも?」
「······いや、何でもない」
「そう? それならこのまま奥へゴー!」
再び前進する一行。
進めば進むほど、モンスターとは頻繁に遭遇したが、それらはどれもルキファスの知る物とは似ても似つかないものばかりであった。
基本的にサイズが5分の1スケールくらいになっており、しかも発達していた武器となる器官の大半が頼りない物へと成り下がっていた。
これではせいぜい普通の野生動物と同じ、動物によってはそっちの方が十分に脅威になるだろう。
(なぜだ。なぜモンスターどもがこれほどまでに弱体化しているのだ?)
「ほらっ、ルキファスさん。考え事ばっかしてないで、実況しなきゃ!」
ちょっとした広間のような空間に出た一行。モンスターの気配も無く、リヴルがルキファスにカメラを向ける。
「ダンジョンもいよいよ下層に入ってまいりました! ここまで来て、ルキファスさんの感想を改めてどうぞ!」
「······モンスターが俺の知る物とは大きく異なる。比べ物にならないくらい弱小化している。まさか、こんなに変化する事があろうとは思ってもみなかった」
「もー、人の武勲にケチつけるような設定つけてくれちゃってー」
少し不満げに言うリヴル。
「もっと他に盛り上がるような話はないの?」
「その盛り上がる話がどういう物なのか俺には分からんのだ」
「えーっと、そうだなー。例えば······このダンジョンにはこんな秘密があるんだーっ! とか、この奥にはお宝が隠されてるんだー! とか、実は秘密の部屋があってー! とか。そういう撮れ高とれそうな展開に繋がる話」
「そんな類いか。そんな物ない」
「がくっ!」
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:摂氏50℃のゴミ箱・『駄目でした』
:妹推し紳士・『無い((キリッ』
:greencha・『魔王様にそんな俗な話題振るなw』
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(くだらん。だが······)
ふと、ルキファスはその部屋を見回して気がついた。
「ああ、だが秘密の部屋ならここにもあるな」
「はいはい、そんな都合良い話なんて······え?」
思わずぐるんっとルキファスに振り返るリヴル。
「今何て?」
「あるぞ。秘密の部屋なら」
ルキファスは淡々と答えた。そして、奇妙な模様などが描かれた壁に歩み寄った。
お疲れ様です。次話に続きます。




