17──魔王、ダンジョンへ挑む
「という事で! 早速ダンジョンに行きましょう!」
「ダンジョン?」
食後。
リヴルが本日の方針を叩き上げた。
「そう! あたし達はダイバーなんだからダンジョンに潜って配信する事がお仕事! この勢いに乗じて更なるバズを目指すわよ!」
「お姉ちゃん、張り切ってるね」
冷静にコメントするラヴィも、その表情はいつもよりにこやかであった。
「でも、いくら今注目度が急上昇してても、普通のダンジョン配信でもっと話題になったりするかなあ」
「ふっふっふ! 甘いわねラヴィ。あたしがそんな凡庸な手を打つと思うのかしら?」
「何か考えがあるの?」
「もちろん!」
勢いよく指を差すリヴル。その先には無表情な魔王ルキファスが居る。
「ルキファスさんの出番よ!」
「ルキファスさんの?」
「俺に何か用か?」
「ふっふん! ズバリ、今日の配信の題名。『魔王様、復活配信☆自ら二千年後のダンジョンを視察しに行く?!』これで決まりよ!」
自信に満ちた笑みで言うリヴルと、驚いた目を丸くするラヴィ。
「ルキファスさんとダンジョンに?」
「そうよ! ダンジョンに行くのにこれ以上相応しい存在は勇者しかいないわ!」
当のルキファスはまだ話が飲み込めずに怪訝な表情を浮かべていた。
「いい? ダンジョンってのは古代の遺跡でもあるけど、神話では魔王とその手下の魔族やモンスターの住みかとされてるの」
「そうなの? お姉ちゃん良く知ってるね?」
「ふふんっ。オルペディ(オルルペディアと呼ばれるネット上の百科事典的サービス)で調べたのよ」
「料理とか勉強とかにその熱心さを活かしてくれればいいのに」
「シャラップ! ともかく、ダンジョンとは元々魔王様の所有、そして各地の別荘だったわけ! ね、そうでしょルキファスさん?」
ルキファスが鷹楊に頷く。
「まあそんなとこだ」
「ほら! という事はルキファスさんは二千年ぶりに自ら各地の拠点を視察しに行くって事になる訳じゃん! こんな面白い企画ある? 古代の魔王が直々に視察しに行くなんてさ!」
「お姉ちゃんも役にハマり過ぎだよ。でも、確かに面白いテーマの企画だとは思う」
そこはラヴィも賛同したのであった。
ワイワイと盛り上がって話を進める姉妹の横でルキファスは一人考えていた。
(なるほど。これはまた好都合だな。これからどう動くべきか思案していた矢先にこの流れか)
今はとにかく情報集めが先決だ。まず集めるべき情報は『魔王軍はどうなったか』だ。それを調べるのにはダンジョンへ行ってみて部下が居ないか探すのが手っ取り早い。
しかし、二千年も経ってしまってはダンジョンの正確な位置は分からない。それならば、ダンジョンに頻繁に潜っているという姉妹に付き添うのが最も有効だと思われた。
「さっ、お弁当も持ったし行こっ! ルキファスさん、いいよねー?」
「ああ。案内しろ」
「さっすが魔王様! 本物らしいリアクション期待してるよ~? 『む、二千年も経つとこんなに違うのか~』とか『おお、この壁の傷は勇者によって付けられた物だ~』とかね!」
「お姉ちゃんったら······」
「それでは魔王様の復活配信へゴー!」
外へ出てエレベーターを待つ三人。
ルキファスは晴れ渡った空を忌々しそうに見上げていた。
マンションを出て、住宅街の中を歩く。方角的には西側へと進んでいた。
ルキファスは相変わらず物珍しそうに周囲を見回し、リヴルとラヴィは打ち合わせを重ねていた。
やがて、大きな通りが現れた。
「ほう。あの謎の馬車の走る通りか。随分と太いな」
「イベルゾーレ通りよ。信号は守ってよね」
「面倒だな」
大通りを横断すると、そこは緑豊かな場所であった。
「なんだ。森か?」
「そ。アトミー公園よ」
近くにあった入り口から公園の中へと入る一行。
広大な芝生と、公園の外周を囲むように植えられた木々によって、ここだけ文明から切り離された自然の中のようになっている。
「ほう、これだけの都市の中にこんな未開拓な土地があるとはな」
「未開拓なんじゃなくて、あえてこうしてるの」
途中で砂場やブランコなどの遊具、ベンチや公衆トイレなども設置されており、アイスクリーム屋も出店している。
町ならばそれほど珍しくもない公園の景色にルキファスは興味深く視線を移動させた。
「ふーむ。分からんな。これだけの土地があれば農作物を作るもよし、軍事施設を建てるもよしのハズだが」
「そんな事したら子供の遊ぶ場所無くなっちゃうじゃん」
近くで弾けるような子供達の笑い声が駆け抜けていく。
「それで? 貴様はここで遊びたいのか? ダンジョンに行くのではなかったのか?」
「もちろん。ダンジョンに来たんだよ」
「ダンジョンはこの公園の奥にあるんです」
しばらく歩き続けると遊具などは無くなり、登山道にあるような木道が現れた。辺りも完全に森のようになっている。
「この先は自然保護区にもなっててね。野鳥の観察とか出来るんだ」
「モンスターが全く居らんな」
「そりゃそうよ。モンスターはダンジョンにしか居ないんだから。外へ出ると大抵はすぐに死んじゃうからね」
「なに?」
それはルキファスにとって聞き捨てならない話であった。
「おい、今の話は本当か? なぜモンスターが死ぬのだ」
「そこまではあたしにも分からないわよ。専門家じゃないし。あ、着いたよ」
リヴルがそう言って指を差す。前方にフェンスと簡易小屋が見えた。
そこは崖の腹に接着するように作られた場所であった。崖には洞穴が開いていて、そこを取り囲むようにフェンスが立てられている。
その横には自動車一台分ほどの小屋があり、大きな窓が開いていて受け付けになっている。中にはこのダンジョンの管理人が暇そうにマイフォンを弄っていた。
「こんにちはっ」
リヴルがそう声を掛けると、管理人の男が顔を上げる。
「お、また来たね。今日も配信かい?」
「はいっ。今日は凄い配信になるかも! おじさんも観て下さいね!」
「はは、仕事中だからなあ」
「またまた~、どうせゲームしてたくせに」
「ごめんなさい、姉がいつもうるさくて」
「いいよ、いつも退屈してるからね。良い刺激になるよ」
親しげな三人の様子を見るに、リヴル達は頻繁にここへ来ているのだろうとルキファスは察した。
「それじゃあ、ここにサインしてね」
「はいはーい」
紙に何か書き出すリヴルにルキファスが尋ねる。
「それは何をしてるのだ?」
「承認書。ダンジョン内は危険だから、ここへ入る時に色々と注意事項を読んで同意する事を書かなくちゃいけないの。例えば、『三日以上出て来なかった場合は救急に連絡する』とか」
リヴルがサラサラっと書類にサインし、それを管理人が受け取る。
チェックをしていた管理人がおや?と顔を上げる。
「そこのお兄さんも入るのかい? しかし、名前がルキファスとは変わってるね」
「そうでしょ? なんたってこの人はあの神話に登場する魔王ルキファスその人なんだから!」
「へ?」
「あの、そういう設定なんです。実はこのお兄さんは記憶喪失になってて、自分の事を魔王だと思ってるんです」
ラヴィが小声で説明すると、管理人はしげしげとルキファスを見つめた。
「それは大変だね。早く記憶が戻ると良いんだが」
手続きを済ませた三人が進み、フェンスのゲートが開かれる。
「今は三組ほどが入ってるよ。気をつけてな」
「はーい!」
ダンジョンへ配信姉妹二人と、所有者である魔王が入っていく。
お疲れ様です。次話に続きます。




