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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第6章 オリエンテーション編Ⅰ
93/179

第87話 1じゃなくて

今回は前回よりもギリギリ(掲載数分前レベル)ですが、何とか掲載。

それでは本編です。

 俺は一番だった。

 小学生までは運動も、勉強も、何をやってもできた。特に野球の、ピッチャーの才能はあったようだ。周りからも期待され、俺の投げた球で、市の大会も優勝を果たした。そういう経験から、自分は特別な人間で自分がチームを引っ張る存在なのだと自覚していた。

 でも中学に入学し、上には上がいることを見せつけられた。俺の投げた球は先輩たちに次々に打たれていった。練習試合でもそれが影響して俺のチームは負けた。そして何より、先輩だけじゃなく同学年の奴らにも打たれた。

 とくにA組の秋津、あいつは異常だった。俺の球どころか、先輩の球すらも表情1つ変えずに打っていく。そして何より。

「これだけ打てる後輩は今まで見たことないよ。まさか、男子の球を全部打てるなんて。女の子とはいってもちゃんと女子チームもあるから、ぜひ野球部に入ってくれよ。」

「いや、髪切りたくないんで、やめときます。」

 長い黒髪をいじりながらそう勧誘を断り、先輩たちを唖然とさせていた。聞いた話だとA組の首席、どおりで入学式で挨拶するわけだ。成績優秀でスポーツもできる、完璧超人とはこういうやつのことを言うんだろう。

 それに比べて俺は、井の中の蛙だったのだ。

 でも人並みは俺のプライドが許さない。何かもっと別の特別を。そんなときに見たのがサブグラウンドでの試合。

 〝イセノ〟を少しかじったことのある俺でもわかる、すごい試合だった。十指選が強い集団っていうことは知っていたがまさかここまでとは。ただ、一つ腹立たしかったのは、特性も何も持っていない九山が落合を負かしたことだ。落合は特性を発動させ、ほぼ無敵の状態だった。それを……。

 ふと、思ってしまった。九山がそこに立てるのなら、俺もそこに立てるんじゃないかと。

 だから、十指選の座を狙って九山に勝負を挑み、二回も負けた。だが、このオリエンテーションなら、チームを引っ張ってきた野球の経験も生き、俺は輝けるはずだ。リーダーとしてこのB2チームを率い、必ずトップになってやる。そして、ここでは秋津や九山よりも俺の方が特別なのだと証明する。そうやってここまで順調に来たのに。

 また、気づかされる。俺が一番ではない事実を。

 それでも俺は――。


「【いっせいのーで〝2〟】」


 Turn 18

 B2 team 3pt  D2 team 0→5pt 

            【〝2〟】(T.P)

 R○●●●●        R

 L             L()()●●


「俺たちに、この数あてを防ぐすべは……ない。」

「つまり、負け……。」

 比婆君や安田さんがそう悟る中で、審判の先生は正式に宣言する。

「この勝負、D2チームの勝ちだ。」

「よっしゃあああ。」

 俺は思わず勝利の雄たけびを上げた。嬉しさが抑えられない。

「や、やりましたね。九山君。」

「一誠殿は決める男だと信じておったぞ。」

「うちは外してもうたけど、さすがやな。フォローもありがとうな。」

 チームの女子から褒めてもらえて素直にうれしい。

「ふん、たまたまだろうが、よくやった。」

 落合君は言葉にとげを感じるが、褒めてくれたから素直に受け取ろう。

「ありがとう。でも、みんなすごかったよ。ナユユの〝ルーレット〟がなきゃ勝ててないだろうし。落合君も序盤で当てたし、尾関山さんもナイストライ、あと千草さんの言葉があったからチームで勝とうって思えたし。俺一人じゃ勝てなかったから。」

 そう、俺だけでは勝てなかった。

 ああ、一応あいつにも、瞬きがてら言っておこう。

「ノーデ、今更だけど、ありがとうな。」

『はて? それは何に対しての感謝でしょう?』

 ノーデはピンと来ていないようだけど。まあいきなり言ってもわからないか。

「なんとなく言いたくなっただけだ。」

 まあ、これで伝えたいことは伝えた。

「で、ラストはあてずっぽうか?」

 目を開けると落合君が俺に尋ねてきた。これ、純粋に聞いているというより、俺をいじりたいとみた。だが一応俺なりの考えはある。

「いや、さっき比婆君、みんな指下げてねって言ってたけど俺の宣言するターンには特に指示を出してなかったから。このターンも下げる人が多いかなと思って。」

「じゃあ、俺の不手際か。」

 比婆君はしゃがみ込み、おでこに手をもってくる。自分の至らなさを反省しているみたいだ。

「でも、あいつだけは上げてたな。あれも読んでたのか。」

 落合君の視線の先はうつむく坊主頭の男子に向いている。

「いや河佐君じゃなくて、比婆君が上げると思ってたんだ。指示を出した本人はみんな下げることを意識するってわかってるかなと思って1じゃなくて2にしたんだけど。まさか、河佐君が上げるとは思わなかった。」

「京弥殿は翔殿の言葉で傷ついた表情であったしな。」

 千草さんの言う通り、俺もそう思った。でも違った。最後の最後、リーダーとして何か思うところがあったのかもしれない。

「まあ、河佐が最後、自分でチームを負けに導いたのか。言いザマだな。」

「結局、お前のせいで!」

 落合君が火に油を注ぐ形で、比婆君は怒りを爆発させ、河佐君の胸ぐらをつかみかける。

「お、落合君、さすがにその言い方は。」

「比婆君、それは八つ当たりだよ。」

 でも、それをナユユと駅屋さんがなだめている。それでも比婆君はやり場のない感情をこらえてる感じだ。

「比婆、お前の方がリーダー向いてるよ。」

 ここで河佐君が予想外の一言。

「急にどうしたんだよ。」

「お前の方が周りをよく見てるよ。俺は自分が1番になりたかった。でもその気持ちを優先させて、メンバーの意見を聞こうとしなかった。みんな、すまなかった。」

 驚く比婆君、たいしてチームメンバーに頭を下げて謝罪する河佐君。

「今更謝罪されても……。」

 戸惑う安田さん。そんな中、落ち着きを少し取り戻した比婆君が口を開く。

「小学校の時、俺も少年野球やってたんだ。そのときお前のチームと当たった覚えがある。その時のお前は個性豊かなメンバーをよくまとめてるなと思ったよ。」

 へえ、比婆君、今の天然パーマかかった髪からは想像できないけど野球経験者だったのか。

「お前、俺と対戦したことあるのか?」

「ああ。でも俺はさ、リーダーって柄じゃないんだ。周りをよく見るけど、安全策とろうとするから。お前のようにすぐ決断して、多少の批判覚悟でチームを引っ張っていくことなんてできねえよ。だからもしお前が反省したっていうなら、俺はお前にもう一度リーダーやってほしいと思う。もしものときは俺ももっと言うようにするからさ。」

「私も、それがいいと思う。小学校の時からすごいと思ってたから。」

 比婆君と駅屋さんは河佐君のリーダー続投を希望している。少なくとも河佐君を昔から知っているものは彼の悪さと同じくらい彼のすごさも理解しているんだろう。

 そして昔を知らない人たちは。

「比婆君が言うなら……。でも、ちゃんと作戦の意図とか、情報共有してよね。」

「もう走るのだけは勘弁だよ。」

「三河、お前はもっと運動した方がいい。」

 河佐君のツッコミでB2チーム全員に笑いが起こる。

「仕方ねえな。リーダー続けてやるよ。ただこう言って早々だが、勝負に敗れたんだ、技板は全部渡すぞ。」

「まあ、仕方ないわね。」

 ということでB2チームは和解できたようで、俺たちD2チームは無事技板13枚をゲット。

「まだオリエンはこれからなので、お互い頑張りましょう。」

「ああ、俺たちのチームはこれから巻き返す、必ずな。」

 持ち技板をすべて失ったが、B2チームの面々の表情は明るい。

「どうやらチームの在り方を、伝えられたようだな。」

「そうだね。」

 一時はどうなることかと心配したが、本当に良かった。それに戦い終わりにちょっと話して親睦も深められたし。

「じゃ、じゃあ、そろそろ私たちのチームもこれからどう動くか、決めましょうか。」

 ナユユが次の行動を話し合おうとしている、その時。

 ピンポンパンポン。

「皆さぁぁん、オリエンは、楽しんでますかあぁぁ?」

 施設内に響き渡る園内放送! 電柱に設置されているスピーカーから上戸さんの声が。


「さぁて、これから本日の目玉、特別イベントを開催しまぁぁすぅ!」


余談ですが、今回の話を書いていて、ツインパワーって右手と左手の片手同士の状態なら起こらないよなと思って今までの試合見返すと片手になったら左右なんて関係ない理論でツインパワーになっていました。あやうく、根幹のルールを変えるところだった。気を付けます。

次回は水曜に更新できるかわかりませんが、9/7までに更新予定です。よろしくお願いします。

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