第86話 賭け
今回は、かなりギリギリでしたが意地の掲載。
それでは本編です。
ナユユの宣言とともに、彼女が腕輪に着けている4つの技板が光だす。同時にB2チームとD2チームの合間に番号ごとに区画が分かれた、縦型のルーレット板が出現し技板の光がルーレット板の各番号に集約していく。
「なんだこれ?」
「〝ルーレット〟は名前の通り、ルーレット板を出現させ一度だけ回します。そしてこのルーレット板の上についている矢印がさした技を次の自分のターン、手術ポイントのコストなしで使うことができます。そしてスタート、ストップの合図をするのはB2チームさんです。」
「なら、スタートだ。」
河佐君の合図とともに回り始めるルーレット。
〝ルーレット〟を使った俺たちは、ルーレット板の裏から技板が板のどの番号に対応しているか確認することができる。1は〝手術〟、2が〝強化シールド〟、3が〝タイムカプセル〟、そして4は〝ルーレット〟そのもの、つまりこの技を使うと確実についてくる外れだ。
この技を使ったということは、たぶんナユユの狙っている技は。
「ストップ!」
徐々に板の回転速度が落ちていく。やがてある数字を指して止まる。
「これは……。」
ナユユの顔は依然固い。
「確かに〝ルーレット〟は強力な技だ。特にもし、お前たちが一発ですべての腕を抜くことのできる〝ドラゴンフレア〟を引き当てたら、俺たちの敗北はほぼ確定だ。だが、その顔、どうやらお望みのものは出なかったようだなァ!」
河佐君は勝ち誇ったように、技を放つ。
「【コイヤーッ〝降霜〟】」
Turn 13
B2 team 5→0pt D2 team 3pt
【〝frost〟Lv.3(S1)〟】
R○●●●● R
L○●●●● L○●●○●
一誠はいろいろな情報に振り回されて、河佐さんの狙いには気づけなかったようですが、果たしてD2チームの何人がその意図に気づいたのでしょうか。
河佐さんの言う初期装備という言葉、これは純粋に一番初めに支給された技板、〝手術〟を指しています。そしてただでさえ技板の少ないD2チームが抱える弱点、それは回復手段がこの〝手術〟のみであるということ。したがって〝手術〟を封じるすべである〝降霜〟はD2チームにかなり刺さるわけです。
おそらく河佐さんは〝最高の手術〟をしようとした時点で、相手方には〝最高の手術〟がないと気づいたのでしょう。特に5ターン目の〝晴れ〟で全滅した際、真っ先に使われる場面ですし。また〝手術〟以外の回復手段といっても、使用条件の都合で使えない、または使用後の反動で窮地に立たされるものが多いですから、この〝降霜〟は最適解といえます。
しかし、ナユユさんは見抜いていましたね。
〝ルーレット〟が指し示した数字は2。つまり。
「霜が降りる季節はとっくのとうに過ぎてるぜ。」
弼さんはそう言いながら、光の壁を展開します。
「【るせーどーで〝強化シールド〟】」
冷気はより強固となった〝シールド〟により阻まれます。河佐さんは思わず舌打ち。
〝強化シールド〟は手術ポイント10ptで使える、防御力S2の技。〝降霜〟はS1ですから少々オーバースペックですが、D2チームの防御技もこれしかありませんから仕方ないでしょう。しかもこのターンでうまく攻撃してくれないと、コストを〝ルーレット〟で肩代わりできませんから、ある意味、相手の出方込みの賭けだったわけです。
しかし、賭けは見事成功し、相手チームにポイントを消費させました。
「ナイスだ、リーダー。」
「は、はい。」
ナユユさんは弼さんからも少し信頼を得られたようですね。
一方、B2チームはというと。
「くそっ、なんでうまくいかないんだよぉ!」
「京弥、ここは冷静になって……。」
「こうなったら今度こそ当ててやる。さっきはたまたま調子が悪かっただけなんだ。」
「いい加減にしろよ!」
比婆さんの怒号、修羅場ですね。
「比婆……。」
「また当たりもしない数あてか? それで負けたらせっかく集めた技板も取られるんだぞ! この1時間、必死にみんなを走らせて、みんなお前を信じてついていったんだ。その努力全部無駄にする気かよ。」
「無駄にはならない。俺を信じれば必ず勝て……。」
「その言葉を信じられないから言ってるんだろ! 周りを見ろよ、お前を誰が信じてる?」
河佐さんは何も言い返すことができません。彼以外の4人の視線が冷たく突き刺さるから。
「中学入ってから変だよ、河佐君。何をそんなに焦っているの?」
駅屋さんが口を開きます。彼女は河佐さんと同じ小学校出身とのこと、だからこそ出た言葉でしょうね。
「お前に賭けた俺がバカだったよ。」
B2チームは崩壊寸前。
「えっとだな、喧嘩はいいが勝負の決着はつけてくれよ。次の宣言、残り10秒だぞ。」
言い出しづらい空気の中でも審判の先生は注意、比婆さんが答えます。
「すみません、俺が代わりに宣言します。みんないいか?」
比婆さんは全員の顔を見て、河佐さん以外の全員がうなづきます。
「【〝トリック〟】」
比婆さんはそのまま宣言。D2チームが持っている3ptはB2チームへ。
彼は冷静ですね。彼らにとっては一誠たちの持つ技はまだ1つ謎のままですし、ポイントを増やされると厄介と判断したのでしょう。
「【せーので〝8〟】、うわっ、全然ちゃう、ごめんな。」
「ドンマイです。」
三香さんの数あては外れ、ナユユさんが励まします。
「みんな指、下げておいてね。【指スマ〝4〟】」
Turn 17
B2 team 3pt D2 team 0pt
【〝4〟】
R●●●●● R
L●●●●● L○○●○○
B2チームは数あてを成功させ、左手を抜いた。ここで普通に当ててくるか――。比婆君は侮れないなと直感する。
指揮が河佐君から比婆君に移ったことで流れが変わりつつある。あっちにポイントも奪われたし、相手が守れない今のうちに早めに決めた方がいい。
ここで、当てるんだ。
そういうときによぎる、昔の記憶。
こういう何が何でも当てないといけない状況の時、ただでさえ数あての当てられなかった昔の俺は100%外していた。プレッシャーに弱く、当てる自分がイメージできなかった。
『一誠。』
だが今は、イメージできる。
思い出せ、俺は誰に毎回数あてを挑んでいる?
瞬きをすれば、いつもそこにいる。
そいつは俺が今この世界で一番数あてが強い、そう思ってるやつだ。そいつはいつも、俺の予想の上をいく。とても当てさせてはくれない。けど、一日100回、トータル何万回とやるうちに自分でも数回は当たるようになった。そしてそれがほんのちょっぴり、自信になったんだ。
さらに、これはチーム戦、5人で1つの手を形成している。そもそも動かせる指は1人2本まで。ましてやこのターンで、相手チームは片手抜けし、1人1本しか動かせない。つまりそれぞれのメンバーは上げるか、下げるかしか選択肢がない。5人それぞれで考えていることは違う。それならおのずと、1人1人の考えが指の上げ下げに反映される。予測するのはノーデとやるときよりも楽なはずだ。
決めた。
「俺は、この数字にかける。」
補足:〝ルーレット〟は自分のターンで数えて5ターン経過後に使えます。
(いきなりやられるとそれはそれでどうなの?って感じなので)
そして〝降霜〟は実に1年2か月ぶりの使用。時間がたつの早いね。
次回は8/31までに更新予定、たぶん決着回です。よろしくお願いします。




