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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第5章 中学入学編Ⅱ
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第80話 笑み

久々の、ひと月の間に5回掲載。

それでは本編です。

「こんな大所帯で大丈夫なのでしょうか?」

「病室は個室、患者以外では8人まで入るみたいだから大丈夫だ。」

 2031年4月12日、福ノ山市中央病院にて。

「えっと、俺とカナデ、道上先輩に本庄君、ナユユに千草さん、府中先輩で7人だから余裕か。」

「いや一誠、一連の騒動を起こした本人を忘れてる。」

「ああ、そうか。落合君、中にいるよね。」

「そういえば大数さん、今日も神社の手伝いで来れなくて残念そうにしてました。」

「後日、お見舞いできないか落合君に相談してみるよ。」

「にしても、よかったすね。真奈っちの手術、無事成功して。」

「本当、あそこまでして失敗していたら拙者も示しがつかない。」

 お見舞いグループはそのような会話をしつつエレベーターを降ります。

「部屋はえっと、709号室ですね。」

 一行は廊下をまっすぐ進み、706号室を前に足を止めました。その理由は。

「ああ、九山君とその一行。こんにちはですぅ。」

 上戸さんが明るい声でご挨拶したからです。

「いつから一誠がリーダーになったんです?」

「不服でした?」

 カナデさんと上戸さんが小競り合いを起こそうとしている中。

「もしかして先輩たちも、落合君の妹さんのお見舞いですか?」

「それもあるけどね。」

 万倉さんは技板をかざしてドアを開けます。すると一人の女性がベッドから上半身を起こし、黙って窓を見つめています。

「私のお母さんよ。私と心中しようとして火事を起こして、奇跡的に助かったけど、見てわかる通り全身やけど、手足も義手義足、おまけに記憶障害でろくに会話もできない。今は十指選の権限を使わせてもらってずっとここで入院してるの。」

「こんな言い方悪いですけど、自分を死なせようとした人の顔を見るのってつらくないんですか? その、嫌いとか憎いとかそういう感情は。」

 一誠は自分から死のうとしたので事故の加害者にそういう感情は抱いていませんでしたが、普通は思うところはあるでしょう。一誠で言うと鋭人さんの立ち位置が一番近いでしょうか。

「何度も思ったし今でも時々思う。でも結局、見捨てられなかった。私のお母さんだから。」

「そう、ですか。」

 万倉さんはそれ以上何も言わず、湿っぽい空気になりました。それに気を利かしたのでしょう。

「九山君たちは奥の部屋でしょう。こっちは定員オーバーですから、さあいったいったぁ。」

 上戸さんは一誠たちを退散させました。

 そしてその足で目的の709号室前に。千草さんが技板をかざし、扉のロックが解除されます。ゆっくり、千草さんがそれを開くと、弼さんと真奈さんが何やら口論しているようで。

「お前、野菜だけ食べられないって、好き嫌いするのはよくないぜ。」

「食べられないものは食べられないんだもん。」

 どうやら真奈さんの病院食でもめているようですが、そこで2人は病室に入ってきた一誠らに気づいたようです。

「むむむ、何やら言い争っていたようだが……。」

「気にしないでください。落合家では日常茶飯事なので、ははは。」

 弼さんの口に手を押し当てて、苦笑する真奈さん。

「さっきとは随分空気が違うみたいね。」

「まあ、元気そうで何よりだよ。」

 一誠とカナデさんがひそひそ話をする中で、緑色の病院服を着た長髪の女子が穏やかに挨拶します。

「改めまして、落合真奈です。兄がその、いろいろとご迷惑をおかけしたみたいで。」

 吊り目に褐色の肌、白い髪は兄弟ですね。

「猫かぶるなよ。声が一段階上ずってるぞ。」

「お兄ちゃん、そういうのは言わなくていいの。」

 そういって真奈さんは弼さんの腕をつねります。

「いたぁ。こういうことは人前でやるなよ。」

「仲良いっすね。」

「「どこが?」」

 落合兄弟が息ぴったりに振り向いて、発言者の本庄さんは若干引き気味。フォローに府中さんが入ります。

「喧嘩するほど仲がいいってことだよね。ああ、僕は府中本町、中三だよ。ほら、みんなも。」

 府中さんの一言で、皆さん軽く自己紹介。

「府中先輩に、道上先輩、九山君に本庄君、三好さん、近田さん、塩町さん、ですね。覚えました。」

 一人一人指さし確認する真奈さん。

「ああ、そうだ先輩。」

 弼さんは思い出したかのように、自分のカバンから腕輪を取り出しました。私との試合で使っていたものですね。

「これ、ありがとうございました。結果はその、出せませんでしたけど、あの勝負のおかげで妹も助かったので。」

「いいよいいよ。困ったことがあったらまた言ってよ。」

「全く部長は人がいいんだから。でも駄目ですよ。こういうのは恩返ししてもらわないと。ということでまだ間に合う。入部届、君は我がイセノ部に入部するのさ。」

「ああ、それならテニス部で提出しました。」

 弼さんの突然のカミングアウトに道上さんは面食らっています。

「なんで!」

「体動かしたいんで。」

 その言葉に頭を抱える道上さん、そして全員の笑いが起きます。そして少し落ち着いて真奈さんが言います。

「冷静に考えてみればこうやって私が今、話していられるのはお兄ちゃんの、そして皆さんのおかげなので、本当に、ありがとうございます。」

「俺は敵、いや最後に立ちはだかる壁、だったから協力したかは微妙だけどね。」

 と、今度は一誠が苦笑い。

「真奈さんは、学校にいつ頃これそうですか?」

「そうですね、上は元気だけど、まだ足の方が不自由だから。2,3週間はかかると思います。」

「そっか、じゃあオリエンは出れそうにないね。あれは一年の最初の大きなイベントだし、あそこで同級生と仲良くなれるから参加してほしかったけど。」

「まあ、おにいちゃんが私の分まで楽しんできてくれますよ。」

「じゃあ、元気になるまで、待ってますね。」

 ナユユさんの言葉に皆さんうなづいています。

「ありがとうございます。必ず体も治して学校、行きますから。その時はその、友達になってくれますか。」

「「「「「「「もちろん」」」」」」」

 この後、「だ」や「です」などの多少の語尾の違いはありますが、皆さん声がそろいました。皆、同じ気持ちなのでしょう。

「じゃあ、そろそろ時間もあるからおいとまさせてもらうよ。ああそれで落合君も、この後みんなで食事の予定なんだけど。」

「入部断ったんだから、せめて今日くらいは来るのさ。」

 先輩方の誘いに、行くかどうか迷う弼さん。そんな兄に真奈さんは背中を押します。

「お兄ちゃん、いっておいで。親睦を深めた方がいいよ。」

「お前がそういうなら。」

「そうと決まれば行くっすよ。焼肉へ。」

「本庄君、まだ行く場所は決めてないからね。」

「お前はちゃんと残さず食事しろよ。」

 兄の言葉に真奈さんは頬を膨らませ、ささやかな抵抗を見せた後、一言。

「頑張る。」

「それでいい。」

 さて、ここから一誠ら一行は楽しい食事会に行くようです。一時はどうなることかと思いましたが、この調子なら皆さん仲良く学生生活をやって行けそうですね。

 ただ一つ、気になることがあるとすれば。

 真奈さんの病室の戸を最後閉めたのは一誠。そのとき狭まる戸の隙間から見えた光景は。

「ぬるい時代だな。」

 真奈さんが不敵な笑みを浮かべながら自分の手を見つめ、口を動かす様子。さらに彼女は続けます。

「本当は男の方がよかったんだが、まあ良しとしよう。」

 一誠やほかの皆さんは気づいていないようですが、これは私の見間違い……。今はそう、思うことにしましょう。

これにて入学編完。

実に入学編連載だけで11か月もかかってしまいました。ここまでご愛読してくれた皆様には感謝です。

といってもまだまだ続きますが。

次回は7/6で設定集,そのあと1週休んで新章という予定です。よろしくお願いします。

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