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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第5章 中学入学編Ⅱ
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第79話 初めて

前回の続きをみてから今回を見ないと、話がつながらないのでご注意ください。

それでは本編どうぞ。

 上がった指は、1本もない。

 つまり。


「長い戦いもついにぃ決着、勝ったのはぁ、九山一誠君ですぅ!」

 上戸先輩の勝者宣言とともに、歓声が勝者のノーデを包み込む。対して敗者の落合君は全身の力が抜けたのか、地面に膝をつきうつむいている。

「えっと、時間も迫っていますので先に試合最後の補足を。今回の勝負を決める決定打となった〝タイムスリップ〟時の〝ツインパァワー〟。〝タイムスリップ〟のような指の回復効果のある技は掛け声をつけて宣言し、直後相手と同じ指の形にすれば〝ツインパァワー〟も発動できますぅ。皆さんも覚えておくといいですよぉ。」

「落合君、それで〝究極化〟が終わっちゃったのが痛かったね。それにもしかして、もしかしてなんだけど。九山君、数あてを連続で成功させて〝タイムスリップ〟直前で一回外したよね。それもわざとなんじゃないかな。それで落合君の警戒を緩ませて精神的に油断させた、なんて考えすぎかな。」

 いや、府中先輩の指摘はたぶん正しい。連続で当て始めたら、もうノーデは相手の出す数字は99.9%わかっている状態だ。それは脳内空間で毎日俺とノーデとでやる100回数あてで痛いほど思い知っているから、ノーデが外すってことはよほどのことがない限り、狙ってやってる。

「本町君、久々に熱くなっているんじゃないですか? 試合前は燃え尽き気味っていってましたけど。」

「そうだね。あんな熱い試合を見せられるとね。火が付いちゃうよね。」

 興奮冷めやらぬ解説サイド。

「最後、俺の出す数字、なんでわかった?」

 落合君の声に、勝負前の威勢はなくなっていた。

『あの状況で普通の人ならどこかしら指を上げたいと思うでしょう。なぜなら直前に1本も上げずに〝ツインパワー〟が起きてしまっているわけですから。』

「ならなんで。」

『あなたがカナデさんと試合したとき、数あてを誘導されて負けていましたよね。あのときはリスクの低い数字を選択して負けにつながっていました。けど、今あなたがこうやって質問しているように、あなたは失敗を自覚してそこから学べる人です。だから信じました。あえてリスクの高い選択をしてくるだろうと。あの状況で一番出すと想像しにくいのは0でしたから。』

「お前、普通の人間じゃねえな。」

 ドキッとした。落合君まさかノーデの正体に……。

「お前には、人の心とかないのかよ。ここまで、やったのに……。」

 落合君は涙ぐみ、それを何度も手で拭う。どうやらノーデの正体に勘づいたわけではなさそうで一安心だが、落合君の気持ちはわかる。居ても立っても居られない、そういう気持ち。そして、それを実行した行動力。

 入学して数日でこれだけやれるなんて、正直すごいと思う。だからこそ、報われてほしい。

『気持ちが強ければ勝てるほど、勝負は甘くありません。ただ、見ている観客の心を動かすことはできたみたいですよ。』

 1つ、また1つと。拍手がサブグラウンドを包み込んでいく。

「一年でこのレベル、すごいよ。」

「しびれたっす。」

「妹さん、これで助からないなんておかしい。」

「もう落合、十指選でいいよ。」

「なんで勝っちゃうんだよ、九山。」

「そうだ九山、手加減しろ。」

「頭おかしいだろ、九山。」

 そう観客の声があがる。後半はほぼ俺の罵倒だけど。

『いろいろ声がありますけど、真奈さんが助かってほしいという意見が大多数のようですよ。どうしますか、千里さん。』

 いつの間にサブグラウンドの中に入ったのか、入学式の時と同じ赤いスーツに身を包んだ千里さんが解説席の近くに立っている。

「九山君には~、お見通しだったのかしらねぇ~。」

 そういった千里さんは少し考えていった。

「じゃあ~、このままいきましょう。」

「行くって?」

「病院~、このまま手続きもろもろを済ませて~、妹さんの手術をするの~。」

「それって。」

 落合君の言葉にコクリとうなづく千里さん。

「実をいうとね、最初この話を聞いた時から8割型、妹さんの手術を援助する方向だったのよねぇ。費用負担とかもうちで持つようにするし、医者も勝負している間に手配しておいたわ~。」

 千里さん、仕事が早い。でも、試合に勝ったわけでもないのに。

「それじゃ、なんでこの試合をさせたんだ?」

「それは~、私があなたのことを何も知らなかったから。2割型はあなた信用できなかったわけだし~。だから~、あなたを試すために、十指選という高いハードルを設定して勝負させたの~。それで勝ったら誰も文句を言わないでしょうしね~。」

「でも、母上。結果的に弼殿は負けた。それでも援助しよう思ったのはなぜですか?」

「それは~、弼君の思いを知れたから。でも一番の決め手は~、初めてだったからかしら~。娘があんな真剣にお願いするのを見るの~。」

 この言葉に千草さんは目を丸くして、顔を赤らめる。

「ありがとう、ありがとうございます。」

 俺はこの時初めて見た。泣きながらも、心からの笑みをこぼして深々とお辞儀する落合君を。


 この後、サブグラウンドの試合はお開きとなり、全体は解散。落合君は塩町家とともに病院へ、観客のみんなはそのまま下校していく。

『そろそろ私の出番も終わりですね。』

 そういって、両目の視界が開け、俺に体の所有権が戻った。試合ももう終わったし、俺も帰るか。

「あ、そうだ。手を出して。」

「万倉先輩、なんですか突然?」

「いいから、ほら。こうやって。」

 万倉先輩は手の甲を上にして俺の前に突き出した。同じ感じで手を出せばいいのか?

「はい。」

「じゃあ、はめてあげる。」

 万倉先輩がポケットから取り出したのは、さっきカナデが先輩に渡した、十指選左薬の指輪。

「「それはストップ!」」

 俺は思わず手を引っ込めた。でも俺と同時にカナデも叫んでいたような。

「なに? 勝者はあなたでしょ。落合君とこの座をかけて勝負したわけだし。私としては不本意、不本意だけど。」

「でも俺はその、まだその指輪をもらうにふさわしくないというか。」

 この勝負に勝ったのはノーデだ。俺じゃない。

「カナデの方がまだふさわしいです。」

 俺はカナデの方を見ながらそう言った。対して彼女は。

「いや、私はまだ未熟だった。万倉さんと戦って、そして一誠の試合を見て、そう感じた。だから、その指輪は一誠が持っていてほしい。」

「ふーん。でも三好さん、さっきストップって言ってなかった? この指輪にやっぱり未練があるの?」

「それは……。未練はかなりあるけど……。」

「い、一応九山君は千草さんの婿候補、だそうですし。渡し方がちょっと誤解を招くというか。」

「ふーん、なるほどねぇ。」

 困った様子のカナデにナユユがフォローに入り、そしてその様子を見てちょっとにやにやする万倉先輩。

「まあ、何でもいいから受け取りなさい、勝者の証。あなたも十指選を倒した証明はないと困るでしょう。」

 確かに、十指選の左手5人を倒した証明となると、やっぱりその象徴である指輪をもらっとくのは筋かもしれない。

「はい。」

 今度俺は手のひらを出して、万倉先輩はその上にちょこんと置く。銀色の輪に薬草を模した装飾が入り、中央に透き通る小さな宝石がはまっている。

「まあ、これで今度はあなたを狙う輩が増えるわけだけどもね。」 

 思い出したくない現実。確かに周囲を見渡すと下校中の観客がほとんどだけど、何人か俺にギラギラ視線を向けている。

「そこ、早くサブグラウンドから撤収するぞ。下校時間近いから。」

「会長、すみません。ほら、さっさと出た出た。」

 梶田会長が注意して、万倉先輩は俺たちをサブグラウンド外に吐き出した。俺たち1年もそこで解散し、各々の帰路に着き始める。

「ああ、そうだ。言い忘れてたけど入部テスト、文句なしで合格だよ。」

 荷物を取りに教室に戻る直前、府中先輩が俺に声をかけた。

「ありがとうございます。でも、いいんですか? 先輩と俺とでやらなくて。」

「さっきの試合で力量は十分わかったよ。それどころか、さっきの感じだと僕でも負けちゃうかもな。特性のネタが知れた万倉もきつそうだし。初めてでも十指選のそうだな、左手勢の一番上の中畑君までとならいい勝負できると思うよ。」

「そうですか。」

 それは今後にも希望が持てる。

 けどなんだろう、府中先輩にも万倉先輩にも、評価されたのはノーデであって、俺じゃない。そこがちょっともやもやした。


 ちなみに。

 帰り道、何人かに勝負を持ち掛けられ2、3度手合わせした。そして俺に代わりノーデが喜んで相手して、コテンパンに瞬殺していたことは言うまでもない。

さて、リアルではここ4か月、ずっとサブグラウンドで戦っていたわけですがようやく脱出できましたね。実をいうと今回で入学編終了まで書きたかったですがちょっと書ききれませんでした。

次回はおそらく入学編完結回、6/29 までに更新予定、よろしくお願いします。

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