第76話 三度目の正直
話は前回の続きでバトル回、そしてサブタイトルの方も何かを感じ取っていただければ。
それではどうぞ。
ゴゴゴゴゴ。
文字にするとそんな地響きとともに。
弼さんの背後に出現するのは全身が黄金に輝く巨大な大仏。大きさはサブグラウンド横、道をはさんで鎮座する3階建ての四号館を優に超えているため、10メートル以上はあるでしょう。表情は穏やかで右手は施無畏印、左手は与願印を結び、さらに左の手の上には何やら赤い衣のようなものが浮いています。
「……神秘的。」
観客の一人がそう口にするほど、その神々しさに誰もが釘付けになる中で弼さんは口を開きます。
「名前は確か、三度目の正直、だったな。」
弼さんは府中さんの方に視線を向け、確認を取ります。
「ああ、そうだよ。この特性は3回目の〝ツインパワー〟が起きた時、発動できる。そして効果は――。」
「〝究極化〟の使用権を得る、だろ。」
「〝究極化〟!」
カナデさんや一部上級生はピンと来ている様子。しかし、全校生徒の大半、特に一年生はよくわかってないような顔つきですね。そしてそれを感じ取った上戸さんは即対応します。
「知らない人向けに解説しますと〝究極化〟という技は永続的に究極化状態となる技です。そしてこの究極化状態というのは攻撃力、防御力ともにS無限となるのですぅ。なので相手からの攻撃は一切受け付けず、自分の攻撃は常にS無限となるため、相手は防御不可という無敵状態に突入しますぅ。」
私が知っている技で例えますと。
『つまり常時〝アルティメットタイムスリップ〟状態ということですね。』
「むむ!」
どうやら千草さんはこの言葉で理解できたようですね。
「九山君、ほぼ正解ですぅ。ただし片手抜けはしませんけどね。」
「そして使用権、これは本来〝究極化〟は50ptをためてようやく使うことのできる技。だけどそれを無条件で使える権利のことだ。」
府中さんも元、自分の特性とあって補足を入れます。
「えっとつまり……。」
「ラーメン屋でいくと、普段はお金を払わないと食べられないラーメンの一杯無料券を獲得したみたいなものさ。」
「おお、なるほどっす。」
独特な例えをする道上さんとそれで理解する本庄さん。
『あとは技の宣言をするだけの状態、ということですね。』
「どうやら理解したようだな、九山。ということは、もう勝ち目がないってこともわかっただろ。」
千草さんの使っていた〝アルティメットタイムスリップ〟には1ターンという時間的制約がありました。しかし、〝究極化〟にはありません。使われたら終了ということです。
そう、使われたら。
「現状はあくまで、〝究極化〟の使用権を得ただけ。まだ使ってはいないのですよね。」
「……そうだな。」
ならここで、畳みかけねば。
「【〝ブラックホール〟】」
私の宣言とともに出現した黒い渦が弼さんの腕を飲み込もうと迫ります。
この技の意図は2つ。私のポイントを使い切ること、そして弼さんのポイントを使わせること。
今、彼には先ほどの〝オーロラ〟による〝ツインパワー〟で増えたポイント含め10ptがあります。このポイントを使わせなければ〝究極化〟のあと、逆にこちらが〝ブラックホール〟等の、指をすべて動かなくする技を受けるでしょう。さらに私のポイントも使っておかなければ、あとあと〝トリック〟で奪われ、同様のことをされる可能性も高い。いずれにしろ打つ手なしとなります。
一誠から聞いた情報では究極化は変化技、〝シールド〟のような直後に宣言して防ぐような使い方はできません。今畳みかければ、〝シールド〟で防がれ、次に〝狐雨〟を放ち、また〝シールド〟で防がれる。これでお互いにポイントはなくなります。
しかし私は、ある技の存在を考慮していなかったのです。
「【るせーどーで〝スーンシールド〟】。そしてそのまま、【〝究極化〟】!」
Turn 23
Tasku 3pt Node 0pt
【〝U. evolution〟Lv.10(U)】
R○○○●● R○○○●○
L●●●○● L●●○○●
「ここでスシかぁ。」
「寿司?」
「ああ、〝スーンシールド〟の略。早口で言うとそう聞こえるからね。」
カナデと万倉先輩のやり取り。俺もカナデの言葉に急に何の話?と思った。
「九山君はおそらく落合君のポイントを消化させようと〝究極化〟を使う前に攻撃を仕掛けたわけですがぁ……」
「〝スーンシールド〟で九山君のターンに防がれ、速攻で〝究極化〟されちゃったね。九山君自体のポイントは0になったからとられる心配はないし、落合君もポイント使ったけど、3pt残した。これが後々どう影響するか。」
「そして、〝究極化〟した当の本人はといいますと……。」
大仏の持っていた赤い衣が落合君に装着され、全身から赤いオーラと電撃が発生している。脳内空間だと空気感まではわからないけど、常人以上のものに相対しているというのは映像でも十分伝わる。
「これから本当のバトルをするような格好ですねぇ。」
「正直、ダサい。」
「えっ、万倉そう思ってたの? 自分の持ってた特性だからなんか複雑。」
「私は格好よく見えますけどね。」
「その、私も判断しかねますが。迫力はすごいです。」
「右に同じ。」
「むむむむ……。」
「俺っちも格好よく見えるっすけどね。」
「漫画の主人公が覚醒するとあんな感じなのさ。」
と、反応は様々だ。ちなみに俺は最後の道上先輩の意見が一番わかる。
『凝った演出ですね。』
「俺も同感。だが、演出なりの強さはあると思うぜ。」
『【〝手術〟】』
ノーデは右小指を治す。落ち着いている。
「懸命だな。だが、無意味。まずは無難に固めさせてもらう。【るせーどーで〝晴れ〟】」
その〝晴れ〟の光は今までで一番眩く、お互いの指に降り注いでいく。
Turn 25
Tasku 3pt Node 0pt
【〝sunny〟Lv.1(U)】
R○○○●● R○○○●●
L●●●○● L●●○○●
「まさに究極の〝晴れ〟。そして〝究極化〟特有の無限倍固め。究極化状態の落合君なら普通の〝手術〟1回で治療可能ですが、九山君は〝手術〟をいくらやっても治すことはできません。」
「理屈上は無限回やればようやく1本治せるということだけど、永遠に到達しないからね。」
と解説されているように、私の今かかった5本の指は、治すのは難しいようです。
『【いっせいのーで〝晴れ〟】』
Turn 26
Tasku 5pt Node 10pt
【〝sunny〟Lv.1(S1)】
R○○○●● R○○○●●
L○○○○● L●●○○●
「効かねえな。」
『やはり、そうですか。』
ノーデの放つ〝晴れ〟の光は落合君には届かず、彼が追加で上げた3本の指を固めることはできていない。そしてノーデは珍しく汗をかいている。
「九山君は自分の攻撃を通せず、ただ落合君の攻撃を受け続け、彼が数あてをして抜けるまで何もできない。三度目の正直、我ながら恐ろしい特性……。」
「これこそがぁ〝究極化〟。まさに、むてきぃ!」
ノリの良い解説、そして瞬きが入る。ノーデがこの脳内空間に来た。
「ノーデ……。もう無理だ。〝究極化〟は無敵だし……。」
俺は自分でもわかるくらい、取り乱していた。しかしノーデは違う。
『無敵ですか。万倉さんも確かそういってましたね。ただ、あの時はほぼ無敵と言っており、完全に無敵とは言いませんでした。そこが引っ掛かります。』
「それってつまり……。」
『何らかの対処法があるのではないかと、思っているのです。』
「まだ勝てるんだな。」
コクリとうなづくノーデ。こいつの自信はまだ健在だ。だけど、俺の不安はもう一つ。
「少し考え直したんだ。今もお前を助ける方法をあきらめるつもりはなくて、勝負が始まる前は勢いもあって勝ってほしいって言った。でも、落合君の妹さんも助けてあげたいって気持ちも0じゃなくて。勝負が不利なら、これに乗じて負けるのもありかなって思っちゃった。ここでお前を助ける方法を失うのは、悔しいけれど。」
『もし私ではなく一誠が勝負していたら、勝てる試合を捨てますか。』
俺だったら。
時と場合によるとは思うけど、この場でノーデをかけて戦っていたらたぶん。
「それは、捨てたくない。」
「私も同じ気持ちです。それにそう心配する必要はないですよ。私の推測が正しければうまくいきます。」
気持ちって、ノーデはつくづくAIらしくないな。でも、だからこそ。
「ノーデ、お前を信じる。」
「はい。任せてください。」
俺とノーデはまっすぐに見つめあって、お互いの拳を突き合わせた。
「九山、もうお前に勝ち目はない。それにお前は勝たなきゃいけない理由があるわけではないだろ。ここまでよくやったが、そろそろ潮時だ。諦めろ。」
『あいにく、こっちにも負けられない理由がありましてね。それに』
落合君はノーデの言葉に怪訝そうな顔をする。確かに普通に考えれば生死の淵をさまよう妹さんを助ける方が誰の目から見ても正しいと感じるだろう。だけど、俺にとってはノーデもまた大切な存在だから。
『あきらめたくないものでしてね。』
入学編ももう少し。作者もあきらめず、執筆したいと思います。
あとすごい今更ですがブックマーク,感想等ありましたらお待ちしています。
次回6/8までに更新予定です。よろしくお願いします。




