第72話 決まったこと
今回は前回の続き、読んでない方にははじめの一言でネタバレとなってしまうので、この前書き終わりにかなり行間とっておきます。できれば前回まで続いた勝負を読んでいただいから見てくださいね。
ここから行間
それでは本編です。
「カナデが、負けた。」
「やりました!」
俺の驚きとは裏腹に喜びの声を上げる上戸先輩。もはや解説役という役目は忘れている。そして勝負をした本人たちはというと。万倉先輩は宙を見つめ、まだ事態を飲み込めていない様子、逆にカナデはうつむいて、唇をかみしめている。
「お互い全力、って感じだったけど。やっぱり〝日食〟で万倉先輩が強引に〝ツインパワー〟を起こしたのが効いた気がするな。あそこで腕が増えたことで〝火葬〟で25pt用意して〝火砕流〟につながったわけだし。」
「俺もそれは思ったさ。でもそれ以外にも万倉副会長は、三好さんの指を的確に固めていたのが大きいと思う。〝トリック〟で奪われることを警戒して〝烈火〟や〝種火〟で牽制していたからね。」
「私は、副会長さんが腕を増やす特性ということを公表して、勝ち筋は〝ドラゴンフレア〟による特殊勝利しかない、と思わせていたのも、あると思います。だから〝タイムスリップ〟で片手になって、数あてしに来たときはちょっと驚きました。」
と代わりに俺たちイセノ部が試合の総括をしていた。
「なるほど、これがイセノ部という部活なんっすね。」
本庄君はそんな俺たちの様子を見て悟ったようだ。
「私は、勝った。」
「完敗ね。」
万倉先輩とカナデは勝負後初めて、自分に言い聞かせるように言葉を発する。
「これであなたは十指選の座を降りることが正式に決定した。何か、言うことはあるかしら。」
「……いいえ。」
「なら左薬指に着けているその指輪も回収させてもらうわ。」
「あ~あ。せっかく十指選に成れたのに、10日だけだったな。」
カナデは未練を口にしつつ指輪を外す。それを万倉先輩は受け取った。
「それにしても俺、一つ疑問があって。最後の数あて、万倉先輩えらく緊張していたなって感じたんだすけど。手震えてたみたいだし。」
「えっ、そこから10メートルは離れてるのに、見えるの?」
万倉先輩が驚くのも無理はない。俺もさっきそうだった。
『一誠の見た映像を拡大してみているようなものですよ。ただ解像度は一誠の意識の高さでかなり変わるので、私が気になったところ、些細な違和感レベルで確認がとりづらいときは一誠に声を掛けますがね。』
ノーデ曰く、そういうことらしい。ノーデがやたら俺に話すのもそういう事情もあるみたいだ。
「九山君鋭いですねぇ。実は副会長は……。」
「ニコぉ!」
万倉先輩が上戸先輩をにらむ。その表情にひるんだ上戸先輩は俺の近づいてささやいた。
「実はですね。さっきこそ当たりましたがねぇ、副会長は数あてが点で駄目なんですぅ。」
「それって、府中先輩みたいな。」
「おお、九山君知っているんですね。副会長は私と本町君で鍛え上げたところがあるんですが、数あてだけは成功率が低くて、最終的に特殊勝利に頼る戦法に切り替えたわけです。幸い特性も副会長の戦い方にマッチしたものをいただけたので良かったですけどね。」
俺もノーデと会う前はそんな感じだったから、さっき親近感がわいたのに納得がいく。
「そんなこともあって、副会長は今の本町君の気持ちを誰よりも理解しているんだと思いますぅ。それに彼には、〝イセノ〟のルール改定で手伝ってもらいましたし。だからこうやって十指選に返り咲かせる舞台を整えているわけですぅ。」
万倉先輩、意外と義理堅い人なんだな。
「いいですか、他言無用ですよぉ。」
いまだにらみつける万倉先輩を横目に、上戸先輩は口の前で人差し指を立てながらそういうと、生徒会の方に戻っていく。
「さぁて次は……。」
「いよいよ俺の出番か。」
俺はベンチから腰を上げた。って言ってもやるのはノーデなんだけどな。俺のイセノ部の入部テストも兼ねているのに。
『約束は約束です。それに一誠は入部してからいくらでも戦えるでしょう。』
とノーデは言い張って。一週間ってこんなに長かったけな。
しかし。
「ほんと本町何やってるのよ。1試合終わっちゃったでしょうが。」
そう、俺の対戦相手がいまだに現れない。
「もしかして、ここに入ってこれない、とかっすかね。」
このサブグラウンドに入れるのは事前に予約した人のみ。俺も入るときは学生証代わりになっている技板を入り口の技板リーダーにかざして入った。
「いえ、予約はちゃんとしてありますよ。それにもし技板をなくしても、リングも一緒に登録してありますので、抜かりはありません。」
本庄君の疑問に、上戸先輩は得意げに答えた。
「もしこのまま府中先輩が来なかったら……。」
「そのときはあなたにたくさんの挑戦者が群がってくるでしょうね。十指選の座欲しさに。」
万倉先輩も嫌なことを言う。でもよく考えたらそれって、俺が次の勝負で勝っても同じこと起きるよな。
「俺が負ける前提で話を進めないでください。」
「あら、勝てるの?」
「少なくとも俺は、勝つつもりでいます。」
まあ、何度も心の中で繰り返すが、やるのはノーデだ。ただあいつが負ける姿は想像できない。
『どーんと任せてください。もし挑んでくる者たちがいたとしても、このノーデが完膚なきまでに負かしてみせましょう。』
と、当の本人が言っているし良しとしよう。
「といってもこのまま府中先輩が来ないんじゃ、この場が。」
今は勝負が終わってすぐだからまだかなりの生徒が観戦しているが、日も沈みかけている。下校時間も近いし。というか、俺的にはみんな帰ってくれた方が気が楽だ。
「そこは解説役の腕の見せ所ですね。」
そういうと上戸先輩は投影装置を使って、さっきの試合の映像を映し出す。
「はぁい、皆さん。お楽しみいただけたでしょうか。ものすごい攻防でしたね。ここでさっきの試合のポイントをプレイバックしたいと思いますぅ。」
そう切り出して、全体に向けて俺たちイセノ部が言っていた内容を含めて解説し、生徒を引き留めている。
「府中先輩に連絡はしているの?」
「そんなのしてるに決まってるじゃない。ただリングの通信にも、メッセージにも反応がないのよ。」
万倉先輩は相変わらずカナデに強く当たる。
「でもこないってことは、何かあったんじゃ。」
時間は経っていく。府中先輩が約束を破るタイプには思えないし、上戸先輩の解説もそろそろネタがつきそうだ。確認さえ取れない以上
「ここの利用時間も迫ってきたことだし、今日は終わりかしら……。」
万倉先輩があきらめの言葉を口にした直後、サブグラウンドの入り口でピッというかざす音がする。そしてロックが外れ、鉄格子の扉が開く。サブグラウンドに誰かが入ってくる。
「遅いわよまったく。何して……。」
万倉先輩はそう言いかけて顔色を変える。
「なんでアンタが、ここにいるのよ。」
「なんでって? そんなの、勝負しに来たに決まってるだろ。」
にやりと笑いながら答えたのは、落合君だった。
次の展開まとめるのまだ時間がかかりそうで。更新日の締めは余裕をもって決めさせてください。
ということで次回は5/11までに更新予定です。よろしくお願いします。




