第71話 指切り
前回に引き続き、バトル回です。
それでは本編です、どうぞ。
「おいおいおい、何だあれ……。」
「キャーッ」
そう観客が騒ぐのも無理はない。今投影されているのは。
噴火する火山、立ち昇る噴煙。火山灰を含む土砂はたちまち斜面を下り、このサブグラウンド一帯を飲み込む。そしてカナデの前の光の壁〝ゴッドウォール〟には亀裂が入り、砕け散る。
「〝火砕流〟は相手の現在継続しているステータスアップの効果、技の使用権と使用履歴、ポイントをすべて消失させる技で、攻撃力はS3。S2の〝ゴッドウォール〟では防ぎきれず、効果で〝ゴッドウォール〟は消滅したわけですぅ。」
「すべてを無に帰す災害、それが〝火砕流〟。」
先輩たちの声は聞こえるが、姿は見えない。火山灰に覆われたこの空間はまさに一寸先は闇状態。
「すべて? いいえ違う。特性は消えてない。」
カナデの言葉を皮切りに、光が差し込み、視界が開ける。そして見えるのは、空に手を掲げて念じている晴れの神の姿。
「それに万倉さんはポイントを使いきった。動く指も変わらず1つ、つまりここで私が当てれば勝ち。」
「ニコ、ここが正念場よ。」
「わかってますぅ。」
「【いっせいなで〝2〟】」
今度の上戸先輩は指を上げてない。
「1……。」
「外れた!」
「【〝タイムスリップ〟】!」
万倉先輩の宣言とともに、腕は彼女の右腕たった一つへ。そしてそれにリンクして背後の阿修羅像の顔も手も1つとなり、その名前たる特徴をなくしてしまっている。
「ここで、〝タイムスリップ〟……。」
「確かにこれなら、万倉副会長の特性で追加された腕も、技の効果で1つだけにすることができる。当然1回の数あてで抜けることも可能さ。」
「それにゴッドウォール〟があると技を通すのは難しいから、〝タイムスリップ〟は数あてだけで勝負することになる。だから〝火砕流〟を打ってゴッドウォール〟を排除する必要があった。技という選択肢を加えてこの〝タイムスリップ〟で決めるために。」
「そう、これが副会長の奥の手、指切り作戦ですよぉ。」
道上先輩やカナデは冷静に分析し、上戸先輩が一言でまとめる。
Turn 33
Miroku 0pt Kanade 0pt
【〝time slip〟Lv.3】
R〇〇〇〇〇 R●●●●○
指切りといえば、2024年の今頃の、ちょうど大会の日に私たちが交わした、あの約束が思い出されますねぇ。
「ここまでやったのに結局、3回戦敗退。ニコちゃん、本当にごめん。」
「いやいや、ここまででも大健闘だよ、みろくちゃん。そもそも参加できるかすら怪しかったわけだけど、ほら、参加賞もらえたし。コイントスができる技板だって。」
「コイントスくらい、普通にでき……。」
そういいかけてみろくちゃんは私の腕を見て。
「ごめん、ニコには。」
「いいよ、そこまで気にかけなくてもぉ。それよりも本町君応援しよ。大会優勝した人はエキシビションマッチであの孤空さんと戦うんだって。」
「あの人、有名な人なんだ。」
「そう。孤空さんは昭和、平成とこの〝イセノ〟を引っ張ってきた第一人者、確か日本一にもなったことがあったはず。今は一線を退いたけれど、今日みたいに大会の運営委員長をやってたりして〝イセノ〟の世界展開に尽力している人なんだよぉ。」
「そう、すごい人なんじゃぞ。」
「孤空さん!」
会話にいきなり割り込んできて、私は心臓が飛び上がった。
「いやすまんのう、大会開始前にはっぱかけてしもうて。じゃが、ああでもいわんとやる気にならんじゃろと思うてな。」
「おじさんの意地悪。」
みろくちゃんは頬を膨らませていった。
「孤空さんの言葉がないと、私は今ここにはいません。ありがとうございます。」
「礼を言われるほどのことはしとらん。結果はあれじゃったが、最初からうまくいかないのが人生よのう。じゃがこれにめげず、お主らには挑戦し続けてほしい。続けておればいつか芽吹く。」
「でも、ニコは今後も出場できるかどうか。」
そう、私にとってはこれが最後の大会かもしれない。
「そうじゃな。じゃがそこはやりようじゃ。そういえば名前を聞いてなかったの。お主たち名前は?」
「万倉美六。」
「上戸二子です。」
「万倉さんよ、問題は大きく分けて2つじゃ。1つは上戸さんの腕を治すこと。」
「治せるの?」
「まあ、義手を付けることになるじゃろうが、それで日常生活は問題なく送れるようになるじゃろう。2つ目はルールそのものの改訂。これは今日みたいなことが起きぬように、代理人OKだの、義手でも参加可能にするといったルールにするということじゃ。」
「おじさんがしてくれないの?」
「今のわしにそこまでの権限がないんじゃ。ちょうど去年から十指選に権限が移ったんじゃが、あやつらが聞く耳を持つかは分からんからのぉ。それに老い先短いわしには、たぶん時間もなかろう。」
「私たちは、具体的にどうすればいいんですか?」
「簡単な話じゃ、万倉さんが出場して大会を勝ちまくり、十指選に選ばれればよい。そうすればその発言力でルールも改訂できるじゃろうし、ある程度の資金力もあるけえ、お主の腕も何とかなるかもしれん。」
私は右手首をさすった。この下の指が復活するなんて夢のような話だ。
「まあ、ひとまずわしの試合でも見ながら考えんさい。少なくとも、わしレベルになればまず間違いなく十指選にはなれるけえの。」
そういって孤空さんは試合のステージに上がっていった。
試合は圧巻だった。
技を扱うテクニック、相手を誘導する巧みな話術。特性なしといえど終始孤空さんのペースで、本町君は実力を発揮できていなかった。そして何より、人を引き付ける力があった。観客席から見ていた私たちも釘付けになった。
「私、あんなふうになりたい。」
「みろくちゃん?」
みろくちゃんの目が輝いている。
「私、決めた。勝って勝って勝ち続けて、十指選になって、ニコの腕を何とかしてもらう。そしてルールも改訂して、ニコが試合に出られるようにする。そして……。」
「そして?」
「いつか二人であの場所に立てたらいいなって。」
みろくちゃんが初めて語った、自分の夢。その夢に私は引き付けられた。
「じゃあ私も協力する。今回の恩もあるし、しばらくは公式戦にもでられそうにないし。それに私が弱いみろくちゃんを支えなきゃね。」
「弱いは余計。」
「はいはい。今度は私がみろくちゃんの左腕になりますよぉ。」
「いや、両腕じゃないと。」
「おお、そこは右腕でしょとか言ってくると思ったのに。」
「本当は右腕って言いたいけど、左しかないから言ったことくらいわかるよ。でも正直、今の私にはニコの両腕分は欲しい。」
「欲張りだねぇ。」
「腕は何本あったっていいんだよ。」
私たちはお互い笑いあった。そして笑いが収まった後、みろくちゃんは小指を立てる。
「まあそれは置いといて、約束。」
「うん。」
その日、私たちは指切りした。そしてみろくちゃんは髪を切り、私は逆に髪を伸ばした。
Turn 34
Miroku 0pt Kanade 0pt
【sunny〟Lv.1(S1)】
R●●〇〇○ R〇〇〇〇○
「引っかかった。」
「ッ……。」
してやったりという顔のカナデとやられたという顔の万倉先輩。
34ターン目。カナデは〝晴れ〟を宣言し、万倉先輩は3本が固まった。でもカナデはすべての指を上げているが、〝種火〟の箇所以外は固まっていない。それも全て、背後にいる晴れの神の力。
「自分の手を全部上げて……。」
「あれは落合君とカナデが初めて戦ったときにやっていたフェイク……。」
『あの時とは少し違います。あの時は上げたまま宣言を開始していましたが、今回は下げた状態から宣言を開始している。万倉さんはおそらく、指を上げる一瞬の動作に反応してしまったのでしょう。これならたとえ特性を知っていたとしても対応は難しいでしょうね。』
本格的に感覚をバグらせにきてるわけか。
「ですが、ここで当ててしまえば副会長の勝ちに変わりはありません。」
上戸先輩の言う通りでもある。
「でも後がないのも事実。〝タイムスリップ〟は2ターンしかないのだから。」
カナデもプレッシャーをかけに来る。カナデも必至だ。対する万倉先輩は表情が硬い。
『手が震えていますね。』
えっ、ノーデ、この距離からよくそんなのわかるな。俺より視力かなりいいぞ。でもそれだけ、万倉先輩も緊張しているのか。
「大丈夫です。みろくちゃんなら、できますよ。」
「ニコ……。」
上戸先輩が左手を添えながら声をかけ、万倉先輩の表情も和らいだ。なんだか、あの二人。
「俺とノーデに似てる気がする。」
「【いぃせーので〝6〟】」
Turn 35
Miroku 0pt Kanade 0pt
【〝6〟】
R●●〇〇○ R〇〇●●○
「当たった……。」
何とか決着!
さて〝火砕流〟という技の補足です。作中の説明を読むと、これを打たれた相手は技が使えなくなるんじゃないかと思った方もいるでしょうが、普通に技板の技は条件を満たせば使えます。というのも技そのものの使用権という、これを持っていれば条件の厳しい技でも無条件に即使える一種の無料クーポンみたいなものを構想しています。作中ではそれを消しちゃうよと説明しているので、34ターン目でカナデが〝晴れ〟を使ったのは矛盾してるわけではありません。
次回は次の展開を考える時間が欲しいので,5/4までに更新予定です。よろしくお願いします。




