表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第5章 中学入学編Ⅱ
72/179

第67話 着火

更新で小説家になろうの仕様が変わってからの初掲載。うまくできているかな。

それでは本編です。


「ニコちゃん全然優しくない。鬼、悪魔! 大嫌い!」


 私はニコちゃんにひどいことを言ってしまった。

 でもあれでよかった。あそこまで言わないと、ニコちゃんはあのまま玄関にいて、おかあさんと鉢合わせする。そうなると、何をされるかわからない。

「美六、アンタがもっとちゃんとしていれば、こんな生活になることもなかったのよォ!」

 あの頃もそうやっておかあさんは励まそうとする私によく当たっていた。そのせいで傷やあざは一日ごとに増えていった。そしてそのことを隠すため、おかあさんは私に外出を禁じた。私としてもおかあさんの暴力がエスカレートするのが怖くて、そして何よりおかあさんのもっと苦しむ様子を見るのは嫌で、素直に従っていた。

 でもそれから1か月経過した、2024年3月末。おかあさんは私を連れ出して外出した。春の嵐が吹き荒れる夜。先に車に乗っておいてといわれ、おかあさんは何やら大量の荷物を車の荷台に乗せていた。

「あら、万倉さん、今から外出?」

「……ええ。」

「こんな夜遅くに、どちらに?」

「食事に。」

 おかあさんは偶然会ったマンションの住人に話しかけられて、そう答えていた。でも私もおかあさんも、もう食事は済ませている。今日の食事はいつもよりも豪華だった。

「おかあさん、今日はどこに行くの?」

「とても遠い、幸せになれるところ。」

 私の質問に、おかあさんは嬉しそうに答えた。場所はよくわからないけれど、とにかく元気を取り戻してくれたようで私は安心した。

 ワゴン車に大量の荷物を乗せて出発。車で2時間走り、山の奥地の山小屋の前で止まって外に降りる。そして小屋の中へ。中は中央に暖炉、それを取り囲むベンチだけだった。

「美六、車の中にあるペットボトルを持ってきなさい。」

「うん。」

 私はおかあさんの指示に従い、車と小屋を行き来する。荷物は液体が入っているペットボトル、そしておかあさんは中の液体をこの小屋中に巻いていた。手伝い終えた後、私はおかあさんに聞いた。

「おかあさん、ここはどこ?」

「ここはおとうさんとの忘れられない場所。あの人は登山が趣味で、この山も一度、おとうさんと登ったことがあるの。」

「そうなんだ。」

「そしてこの山でおとうさんは死んだ。」

「どういう、こと?」

 私はおとうさんの死に際の話は聞いたことがなかった。それどころか、そのことをおかあさんに聞ける状況ですらなかった。でも今日のおかあさんは何か吹っ切れたように、口が軽い。

「おとうさんは登山中に山火事に巻きこまれて、死体になって帰ってきた。あの光景を見てから私は、何も手がつかなくなって、仕事も進まなくなった。もうどうでもよくなった。それくらい私にとってあの人はすべてだった。でもそれも今日で終わり、これでやっと。」

 おかあさんはライターを取り出して火をつける。そしてそれを暖炉に投げ入れて、巻いた液体に引火する。

「何するの? おかあさん……。」

「一緒に逝きましょう、あの人が待ってるわ。」

 部屋中に炎が広がる。私は唖然として、数秒後に足が震え始めていた。

 怖い。

「こ、ここは危ないよ。逃げよう、おかあさん。」

「どこへ?」

「えっ。」

「この世に私の生きていける場所はない。ならあの世に行って、幸せになった方がまし。私はもう、疲れたの。」

 おかあさんは火の付き始めたベンチに腰掛けた。落ち着いている、たぶん動くつもりはない。

「駄目だよ、おかあさん。私、死にたくないよ。」

「なら、逃げればいい。」

「えっ……。」

「今ならまだ部屋から抜け出せる。あなたが生きたいならそうしなさい。」

 そういっておかあさんが指さした、小屋の入り口。火の手は回っているけれど、まだそこまで燃えていない。

 でも。

「私はもっと、おかあさんと一緒に居たいよ。」

 私は知っている。おかあさんは私に暴力をふるっていたけれど、いつも泣きながらだった。それは行き場のない感情を押し付けていただけなんだ。一番苦しかったのはおかあさんだってわかっていた。

「なら、こっちに来なさい。」

 おかあさんは笑顔で手を広げた。久しぶりに見る、作り笑いでない笑顔。私はそこに一歩ずつ引き寄せられていく。

 おかあさんと一緒ならもう死んでも……。

「みろくちゃん!」

 次の瞬間、私は突き飛ばされた。誰に? 

 振り返るとそこにいたのは、ニコちゃんだった。

「駄目だよ、死んじゃ。死んじゃ私、悲しいよ。」

 泣いていた、ニコちゃんが。

 私にとって大事な人、それはおかあさんだけじゃなくて。

「……アンタ誰よ。そこをどきなさい!」

 おかあさんは血相を変えて立ち上がり、ニコちゃんの腕をつかんだ。その時だった。おかあさんの服に炎が移ったのは。

「きゃあああ。」

 そしてニコちゃんの右腕にも、炎が。

「ニコちゃん!」

「これは家族の問題、部外者は黙ってなさい。私は美六とあの人のもとへ……。」

 おかあさんは自分が炎に包まれていても痛がる様子は見せない。対して、ニコちゃんは痛そうに、泣きながら、それでも力強く言った。

「家族なら! みろくちゃんの意見も組んであげてよ。みろくちゃんはさっき死にたくないって言ったでしょ。」

「何も知らないガキのくせに、何なのよアンタは。」


「みろくちゃんの、一番の友達……。」


 その時のニコちゃんの表情は今も焼き付いて忘れられない。そしてその表情に何かを感じ取ったのか、おかあさんはニコちゃんの手を放す。

「美六、いきなさい。」

「おかあさん……。」

「早く!」

 怒鳴り声、でもいつもとは違う。

「いこう、みろくちゃん。」

 ニコちゃんはやけどした右手をかばいながらも、私の手を取って出口に駆け出した。

「おかあさん、おかあさん!」 

「美六……。私のようには、ならないでね。」

 泣き叫ぶ私をおかあさんは、温かい目で見つめ、笑っていた。

「おかあさん……。」

 そこから私は振り返らなかった。目の前の炎に包まれた戸をニコちゃんと蹴り破って外へ。火は周辺の木々にまで燃え移っている。とにかく火のないところまで二人で走る。走りながら横にいるにこちゃんを見ると、右腕は大やけどをしていた。

「にこちゃん、腕が……。」

「正直、右手の感覚がないけれど、生きているだけまし。」

「でも。」

「いいの。みろくちゃんが無事でよかった。」

「なんで、ニコちゃんが。」

「マンションを出るのをたまたま見かけて、それで話しかけようと思ったんだんけど、みろくちゃんのおかあさんがいて。他の住人と話している間にこっそり後ろの床下のスペースに隠れたの。でも後で荷物が積まれて出られなくなっちゃって。臭いの我慢してた。」

「元はスペアタイヤが入ってる場所だから。」

「ガソリンっぽいにおいもしてた。たぶんみろくちゃんのおかあさん、前から計画してたんだよ。この日にやること。」

「ごめんね、ニコちゃん。1か月前、あんなひどいこと言って。」

「私もごめん。みろくちゃんの気持ちに気づけなかった。おかあさん、助けたかったんだよね。」

「うん。」

「ならなおさらごめんね。おかあさんあんなことになっちゃって。たぶんもう、助からない。」

「ううん。おかあさん、最期は笑ってた。あんなことになったけどおかあさんなりに納得したんじゃないかって思うの。それに……。」

「それに?」

「ニコちゃんのおかげで、私が生きていたいっておもえたから。ありがとう。」

 この私の言葉に、飛び切りの笑顔でニコちゃんは言った。

「どういたしまして。」

 それから私たちは人のいる場所を求めて進み続け、消火で集まってきた消防士の人たちに助けられた。


 Turn 10

 Miroku 4pt  Kanade 3→8pt 

          【〝sunny〟Lv.1(S1)】(T.P)

 R●●●●●         R●●●●●

 L()()()()()         L()()()()()


 ここまでの勝負の流れ。

 2~5ターン目までカナデさんも万倉さんも〝手術〟。6ターン目にカナデさんが数あてするも外れ、7~9ターン目まではまた〝手術〟。お互い2本動く状態で迎えた10ターン目、〝ツインパワー〟が発生し、カナデさんが5Pt獲得で計8Pt、有利な状況に。

「さっきから話を聞いていれば。ニコ、話すぎよ。」

「ええ、まだこれ序章に過ぎない話ですよぉ。」

 顔を赤らめながら不満そうに言う万倉さんに、笑いながら上戸さんは答えます。

「涙腺崩壊っす。」

「壮絶な過去、物語だけの話じゃないんですね。」

 一誠の後ろで聞いていた本庄さんやナユユさんも泣いています。その周りの何人かも泣いている人を見かけますね。

「万倉副会長と上戸先輩、それここでいう話じゃないですよ……。勝負の実況しづらいじゃないですか。」

 道上さんもそういいながら涙をこらえています。

「ごめんなさい、ちょっと涙が。」

 対戦相手のカナデさんも。彼女は涙もろいようです。

「九山君は泣かないんですか?」

「えっ、いやその。情報量が多くて。」

 一誠の場合、想像を膨らますのに手いっぱいで感情の入り込む余地がなかったといった感じでしょう。一誠は感情移入しないと、ドライな部分をそのまま顔に出しますからね。

「ニコ、いったんその話はストップ。勝負に集中させて。」

「ここからが本題なんですけどぉ。」

 といいつつも、ニコさんもいったん過去の話は中断し。

 勝負再開。

「【いぃせーので〝雨〟】」

 万倉さんの攻撃、カナデさんはさらに左の2か所がかかりますが。

「【〝最高の手術〟】」

「これで三好さんは左手5か所すべてを治し、5ptプラスされて13pt、強力な技も打てるポイントになりました。」

 道上さんは切り替えて、解説という職務を全うします。

「【〝手術〟】」

「万倉副会長は左小指を治す。これで〝シールド〟の5pt分を確保しました。」

「【〝ハーフゴッドウォール〟】」

 ここでカナデさんの宣言で金色の壁が出現。同時にカナデさんの固まっていた2本の指は光に包まれ回復します。

「三好さんは10pt消費して、〝ハーフゴッドウォール〟を発動。これで三好さんの指はすべて動く状態になり、これ以降、1ターンごとに防御力S1の壁が張る、張られないを繰り返します。」

 現在、万倉さん5pt、カナデさん3pt。

「次に〝トリック〟して、私にポイントを使わせる気でしょ。」

「別に何もしなくても大丈夫です。ありがたくいただきますから。」

「あなたに私のポイントは上げない。」

 万倉さんは力強く宣言します。


「【〝烈火〟】!」


書いていたら長くなってしまう。前回と今回で1話の予定だったのに。

なろうの仕様も変わり、予定通りといくかわからないですが、とりあえず次回は3/30までに更新予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ