第66話 表裏
久々の平日更新、いつもよりお待たせしてすみません。
それでは、本編どうぞ。
「えっと、解説は上戸先輩に代わり、道上が務めさせていただきます。両者、準備はよろしいでしょうか?」
道上さんはやや緊張した面持ちで、万倉さんとカナデの顔色をうかがいます。
「私はとっくに準備OK。」
「私も、これで整った。」
万倉さんのセッティング完了とともにサブグラウンドの四隅にある鉄柱、そこにある4つの投影装置が「ISENO」の文字を映し出します。
「それで先攻後攻は、えっと。」
「これで決めなさい。」
そういって万倉さんは道上さんに向かって投げたのは。
「黄色の技板、えっとこれは。」
「昔の大会の参加賞、腕輪に通してみて。」
「は、はあ。」
道上さんは万倉さんが言う通りに自分の腕輪に技板を通すと、サブグラウンド中央に投影されたのは人の顔程の大きさはある金色の円盤。一面には人物、もう一面にはグーの状態の握り拳。
「それはコイントス技板。道上君が腕を大きく振り上げれば投影されたコインが上に舞い上がる。表は神杉有弦の顔、裏は手。表裏当てた方が先攻ってことでいいかしら? 選択権は三好さんに譲るわ。」
「面白そう、それで行きましょう。私は表で。」
「じゃあ、私は裏。」
「万倉副会長は裏、三好さんは表、さあどっちになるか。行きます、せーの。」
道上さんは腕輪を付けた左手を、思い切り振り上げます。同時にコインも一度水平になった後、この学校のどの建物よりも高く舞い上がって一瞬止まり、そして落下。道上さんの頭である面を上に向かせて停止します。
「えっと。上は手が描かれている面なので裏です、先攻は万倉副会長から。それでは試合はじめ。」
「【いぃせーので〝晴れ〟】」
威勢のいい万倉さんの声とともに、勝負の狼煙が上がります。
Turn 1
Miroku 0pt Kanade 0pt
【〝sunny〟Lv.1(S1)】
R○○○●● R○○●●●
L○○○●● L○○○●●
「私がこうして笑っていられるのは、副会長と本町君、会長や生徒会、みんなのおかげなんです。」
「どういう、ことですか。」
「ちょうどこれくらいの時期でしたねぇ。あの事件が起きたのは。」
万倉先輩とカナデの勝負が始まる前、俺は上戸先輩の話に気を取られていた。本当は勝負も気になるところだが、ノーデが俺の視界の隅から隅まで見尽くして記録するだろうからあとで見返そう。
さて。ここからは上戸先輩の話をもとに、俺なりに想像し、そしてノーデ監修のもと修正されたものである。
時は2024年1月。私は7歳、みろくちゃん6歳。当時は私が短髪で、みろくちゃんは長髪だった。
「また負けたあ。悔しいぃ。」
「これで私の6連勝♪」
「本当に強いね、ニコちゃんは。日本一、いや世界一だよ。」
「それはさすがに言いすぎだよぉ。」
私とみろくちゃんは同じマンションの同じ階に住んでいて、2人でよく遊んでいた。この日も私の家で〝イセノ〟をしていた。
「でも私今度、腕試しで大会に出てみようと思うの。」
「ニコちゃんすごい! ニコちゃんならきっと優勝できるよ。頑張って!」
「頑張る! あ、もうこんな時間だねぇ。いつもより遅くなっちゃ……。」
壁時計を見て言った私の何気ない一言に、みろくちゃんは青ざめていた。何かに怯えているようで。
「うん……。おかあさん帰ってくるからね。それじゃあ。」
みろくちゃんは急いでうちの玄関まで走って靴を履く。私も後を追っていった。
「前から気になってたんだけど。みろくちゃんのおかあさんってその……。」
以前から何度か、みろくちゃんのおかあさんは見たことがある。笑顔が素敵な、優しい人だ。でも、最近は会う機会も減った。確かみろくちゃんのおとうさんが亡くなってから。
それに、みろくちゃんは長袖、長ズボンで隠しているつもりだろうけど私にはわかった。見えるところだけでも顔の傷、手足のあざ。これはもう――。
「みろくちゃんにぎゃくた……。」
「おかあさんはやさしいよ。今がちょっと、調子が悪いだけ。」
「そう、それならいいんだけど。」
「じゃあね。」
「うん……。」
強い口調で言うみろくちゃんに私はそれ以上言えなかった。
みろくちゃんは自分の部屋に戻っていく。私は玄関の扉を閉めかけて、それでも少し気になって。完全にしめずに、こっそりみろくちゃんの家の方を覗いた。玄関前にはみろくちゃんのおかあさんがもういる。
「美六、どこに行っていたの?」
みろくちゃんのおかあさんはいつもの笑顔。私の思い過ごし、きっとそう。
「駄目じゃない、こんな遅くまで家から出ちゃ。」
急に笑顔が消えて、背筋が凍るほどの視線、低い声。今まで見せたことのない冷たい表情のみろくちゃんのおかあさんが、怖くなった。
「ごめんなさい。」
みろくちゃんは小声でそういって、自分の家に入っていく。その時の私は見ていられなくて両手を離し、扉を閉めてしまった。その日はしばらく震えが止まらなかった。
次の日、学校であったみろくちゃんはいつも通りだった。でも、おかあさんのことが話題に上がると暗そうな表情をし、別の話題にすり替えていた。そんなみろくちゃんをこのままにしておけなかった。
「助けなきゃ。」
私は自分の両親に私の見たことをすべて話した。そして両親は学校にも働きかけて、役所の人も動き出した。これでよくなると思った。
けれど、現実は真逆だった。みろくちゃんは学校にも、そして私の家にも来なくなった。
私はいてもたってもいられずに、ある日、みろくちゃんのおかあさんが外出したことを確認してみろくちゃんの部屋に行った。
「みろくちゃん、いる?」
玄関扉越しに戸を叩きながら、大きな声で何度も、声が枯れそうになるまで呼び掛けた。何分、何時間、呼び掛けたのか覚えていない。
「ニコちゃん……。」
「みろくちゃん!」
でも、その甲斐はあってちゃんと応答があった、うれしかった。でも。
「私は大丈夫だから。もう来ないで。」
「みろくちゃん、何、言ってるの。みろくちゃんはおかあさんからつらいこと、いっぱいされてるんでしょ。」
「そんなことないよ。私は元気。」
「なら、顔くらい見せてよ。また一緒に、学校や私の家で遊ぼう。〝イセノ〟とかして。」
「いつもニコちゃん勝たせてくれないじゃん。」
「それは、真剣勝負をしたくて……。」
「それにおかあさん、前よりも苦しそうで。学校や役所の人からいろいろ言われて。」
「それはその、私が話したから……。」
「やっぱり、ニコちゃんだったんだね。でもそれで、おかあさん前より辛そうだよ。ニコちゃん、なんでおかあさんをいじめるの? なんで?」
「それは……みろくちゃんのために……。」
「お母さんが苦しいと、私も苦しいんだよ!」
急に頭が真っ白になった。今までみろくちゃんのためを思って起こした行動、それを本人の口で否定されてしまったからだと今なら思う。
「ニコちゃん、全然優しくない。鬼、悪魔! 大嫌い!」
友達、そう思っていた人から言われたのに腹が立って。
「みろくちゃんの、バカ!」
その時の私は純粋で、だからみろくちゃんの言葉を表の意味のまま受け取った。そして涙を浮かべながら、逃げるようにその場から立ち去った。
話を考えるのは難しいと最近感じます。とくに時間が足りない……。でも毎週連載するというスピード感も大事だと思っていて、毎日とか2、3日で更新する人はすごいなと思います。
そして連載といえば、本編もシリアスじみた中で、あんまり暗い話はしたくないのですが、作者はジャンプ好きなので鳥山明先生の訃報は驚きで。一ファンとしてご冥福をお祈り申し上げます。
次回は3/23までに更新予定です、よろしくお願いします。




