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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第5章 中学入学編Ⅱ
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第65話 サブグラウンドにて

今回は何のひねりもない直球のサブタイトルです。

それでは本編、どうぞ。

 4月10日放課後。下校時間になっても即下校する生徒はいない。それどころか5号館や本館の窓、渡り廊下に至るまでぎっしりと生徒が立ち並び、その皆がこの学校の中央に位置するサブグラウンドに熱い視線を注いでいる。

 そしてサブグラウンド内には二人の女子が距離を空けて向かい合っている。そしてその間にいる解説者が声を張り上げる。

「いよいよぉ、始まります。十指選の座をかけた勝負ぅ。解説は生徒会、上戸二子でお送りしますぅ。まずは各選手の紹介から。」

 最初からノリノリの上戸先輩が体育館側に手を向けると、スポットライトが一人の少女を照らす。今日は曇りだからか、赤のライトが際立つ。

「赤コーナー、一年生にして十指選入り、そして〝イセノ〟を戦後復興させた立役者、三好孤空を祖父に持つ期待のルぅーキー、三好カナデぇ。」

 紹介終了とともにうわあああと歓声が上がる。頑張れと応援している生徒もいてその中には

「頑張ってください。」

 と応援する大数君も混じっている。

「ど、どうも。頑張ります。」

 金髪をなびかせながら、カナデは少し照れ臭そうに手を振っている。

「まさか、こんな大々的にやるとは。ところでさっきの紹介、私の家族、調べたんですか?」

「いいえ。それくらいは常識ですぅ。」

 カナデの質問にすました顔で答えた上戸先輩はすぐさま本館側に手を向けた。青いスポットライトが照らすのは紫髪、そして生徒会のワッペンを肩のあたりに着けた少女。

「続いて青コーナー、この学校のナンバー2、ご存じ副会長、万倉美六。」

 腕を組み、凛とした表情でそこに立っている万倉先輩。応援の声もカナデの時より明らかに多く、そこからは副会長の威厳を感じとれる。

「万倉様、頑張って。」

 と普通に応援している者もいれば

「この学校の平穏を乱すものには鉄槌を。」

 と過剰な発言をしている生徒もいる。まあ、大体が部活の見学の時に万倉先輩の後ろを走っていた人たちだが。

「私、悪役?」

 とその応援にはカナデも戸惑っている様子。

「三好カナデさん、まず逃げ出さなかったことは褒めてあげましょう。でも、あなたの十指選の座も今日までよ。」

「それはそっくりそのままお返しするわ。」

 戦いを始める前から二人は火花を散らしあっている。

「ふーん、さすがに今日は指輪つけているのね。十指選の自覚ないと思っていたけれど。」

 そういわれたらカナデの左薬指にはしっかりと指輪がはまっている。もちろん万倉先輩の左小指にも。

「そんなの大有りよ。これからもね。それはそうと……。」

 カナデは視線を万倉先輩からある人物に移す。

「なんで一誠もこのサブグラウンド内にいるの?」

 そう。

 俺は今、このサブグラウンド内のベンチに座っているのだ。

「実はこの後もうひと試合ありまして。彼には待機してもらっているんですぅ。」

 上戸先輩が俺の代わりに説明する。

 このサブグラウンド内にいるのはカナデと万倉先輩、解説の上戸先輩と俺、そして梶田会長らの生徒会メンバーのみ。ほかの人はというと。

「うらやましいなあ九山君。」

「そうっすよ。俺っちたち仲間じゃなかったんすか。」

 フェンス越しにそういってくるのは道上先輩と本庄君。そばにはナユユと大数君もいる。

「なんかごめん、そういえば千草さんと落合君は?」

「あの二人はここにはいないっすね。そばの教室や廊下から見てるんじゃないっすか?」

 確かに廊下や教室の窓からは何人かクラスメイトをちらほら見かける。

「そ、そういえば。私たちが出るときにうちのクラスの教室で何か話しあっていたような。」

「惜しいね。こんなビッグイベントを逃すなんて。」

「妹さんのことで何かあったのかもしれないよ。」

 ナユユ、道上先輩、大数君はそう話していた。

「実は、本来なら九山君の対戦相手もいる予定なんですけど、ちょっとまだ来ていないようですぅ。」

「本当何してるのよ、あいつ。」

 万倉先輩は不機嫌そうに言った。

 俺の相手は府中先輩だ。一応名目は入部の腕試しといった感じだが。それをこんな大勢が注目している前でやる必要があるのだろうか?

『たぶんその理由はすぐに説明してくれますよ。』

 ノーデ、それはどういうことだ?

「さぁて、ここで重大発表をしておきましょう。今回この勝負で副会長と三好さん、どちらが十指選の左薬にふさわしいかが決まるわけですが、この勝負をもって確実に十指選左小の座が一つ空くことにぃ、なります。そしてその座は皆さんが奪い取れるチャンスがあるかもしれませんよぉ。なぜならぁ。」

 ここでスポットライトが当たったのは、俺?

「この九山君に勝つことで十指選左小として認められるからです。これは十指選の総意となっております。」

 そうか、この場で全員に発表するのか。

「ただし、一番最初に対戦するのはこのあと試合をする本町だけどね。」

 そしてようやく納得した。

 府中先輩を俺と戦わせて十指選に返り咲かす、それが万倉先輩の考えだったんだ。そのためにカナデに勝負を挑んだのか。

『まあ、彼女の性格上、単純にカナデさんが気に入らないというのもありそうではありますがね。』

 ノーデの言う通り、それもあるだろうな。

『でもそれだけのことをするということはよほど仲がいいようですね。去年の十指選の会議では万倉さんは府中さんに強く当たっていたようにも見えましたが。ツンデレというものでしょうか。』

 そこまでは俺にはわからない。本人のみぞ知ることだ。

「と、いうことでぇ、皆さん。この場で歴史の新たな1ページを刻まれる瞬間をとくとご覧あれ。それでは両者準備を始めてください。」

 上戸先輩のこの発言以降、カナデも万倉先輩も真剣な表情で黙々と腕輪のセッティングを始めた。サブグラウンドの外はざわついているが、中は緊張感が漂う。

 万倉先輩サイドでは、生徒会の面々がおのおの言葉をかけている。カナデの方もフェンスの外のクラスメイトから一言ずつもらっている。

「カナデ。」

 俺の呼びかけにカナデは振り向いた。思わず声をかけてしまったが、こういう時にかける言葉は……。

「カナデなら勝てる、絶対に。」

「うん。」

 カナデの表情が少し和らいだようにも見える。

『その言葉は私と初めて会った時のオマージュですか?』

 ノーデには何もかもお見通しだな。

「そうだよ。あの時ノーデに言われた言葉さ。あの時俺、ちょっと安心したから。」

『一度戦って実力を知っているからこそ、その相手から自信ありげに言われると落ち着くものですね。』

「そこまで分析しなくても。」

『はいはい。さて、一誠、今日の罰ゲーム、忘れていませんよね。』

「わかってるよ。」

 この準備時間、邪魔するのは悪い気もするが。

「上戸先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですが。」

「なんですか九山君。」

「その、上戸先輩は〝イセノ〟、やらないんですか?」

「どうしてそれを?」

 そういう上戸先輩は笑ってはいるけれど、表情が少しこわばった気がする。

「解説や取り仕切っている姿は見たんですけど、実際にやっている姿は見なかったので。府中先輩にも本人の口から聞いた方がいいといわれまして。」

 付け足すと、今日ノーデと脳内空間でバトルして負けて、罰ゲームとして聞くように言われたからでもある。上戸先輩と会う機会なんてそうないし、聞けるときに聞こうと思ったのだ。

「なるほどぉ、本町君が。」

 上戸先輩はそう言って少し考えた後、外をきょろきょろ見回した。そしてフェンス越しに食い入るように見つめる男子に声をかける。

「道上君。」

「はい。」

「私がやる予定だった解説、ちょぉっと途中まで頼めますか?」

「え、オレでいいんですか?」

「ええ、君にならこの解説という大役を任せられますぅ。」

「ええと、別に勝負の後で教えてくれてもいいので。」

「いいえ、九山君もこの後本町君と対戦するんです。その前に事情は知っておいてもらった方がいいでしょう。道上君がOKなら私の出番もまだ先ですし。どうですか、道上君?」

「はい、誠心誠意、頑張ります。」

 敬礼する道上先輩。

「よろしい。では、中に入ってぇ、配置についてください。」

 道上先輩が走って中に入っていくのを見届けた上戸先輩は俺の隣に座りこういった。

「さぁて、質問に答える前に、〝イセノ〟とはどういったゲームか説明できますか?」

「えっと、自分と相手、お互いの指10本を上げ下げして行う数あてゲームです。」

「そう、それがほぼ答えですよぉ。」

 えっ。

「実感してもらった方が早いので、私の手を握ってみてください。」

 上戸先輩はそういいながら右手を差し出した。

「な、なにを急に。」

「もしかして女子の手を握るのは初めてですか?」

「いやその、同年代の女子は久しぶりで。」

 最後に握ったのは小学校時代のカナデの手だ。

「まあ、恥ずかしがらずに、ねぇ。」

 強引に俺の手を取る上戸先輩。先輩の手の感触が伝わってくるけど。

「これは……。」

 人間の皮膚の感触じゃない。冷たくて、無機質で、骨の部分も骨よりも固い何かで。周りを覆っているのはゴムか。

「精巧に作ってはありますが、私の右手は義手なんですよぉ。指の上げ下げはできるんですがねぇ、普通の人の手のように瞬間的な動作には難あり、さらに長時間握っていると、バッテリーが持たなくて握力も落ちてくるのでできる限り物はもたないようにしています。まあ、興奮すると我を忘れて動かしたりしちゃうんですけどねぇ。」

「そう、なんですね。〝イセノ〟をするには義手に負担がかかるから。」

「それだけではなくて、ルール上ってのもありますけど。」

「え、ええとそれは……。」

 反応に困る俺を見透かすように先輩は微笑む。


「まあ今は何が何だかでしょう。だから解説しましょうか。私と副会長、本町君の過去を。」


次回はいつもよりちょっと長め、3/16までに更新といっておきます。というのもアイデアはあるのですがこれからの勝負がまだまとまりきっていなくてですね。とくにこれからの試合は入学編の中では一番盛り上げたいと考えていた部分なので少し時間をください。完成したら早めに更新を心がけ書いていきますので、引き続きよろしくお願いします。

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