第64話 カウント
今回は前回から続くバトル回です。
ちなみに数えてみたら〝タイムスリップ〟ってこれ以前の登場が半年くらい前でした。そんなに前だったけ?
それでは本編です。
「慌てる必要はない。チャンスは2ターン、この2回で確実に勝ちに行くのさ。」
「もちろんっす。」
私の〝タイムスリップ〟発動を前にしても動じない二人ですが、時間は使っています。道上さんは本庄さんを見つめ、本庄さんは私の手を見て、宙に視線を移します。
互いに動かせるのは左手の5本、手術ポイントはなし。よって一度でも数あてが当たれば、当てた人が勝者、慎重になるのは当然です。
ただこの状況で注意しなければならないのは。
「【せいっす〝晴れ〟】」
Turn 28
Node 0pt Makoto 0→5pt
【〝sunny〟Lv.1(S1)】(T.P)
L●●●●● L●●●●●
「なりきれるくらい、ね。」
ノーデに言われたし、本庄君の立場になって考えてみるか。
このターン、本庄君は数あてをしなかった。少しでも指の数を減らして次のターンにかけたんだろうな。俺だってそうするときはある。
だけど、お互いに〝タイムスリップ〟の状況で注意しなければいけない現象、〝ツインパワー〟が起きてしまった。5ptが本庄君にたまる。
「まずい、これは。」
『【〝トリック〟】』
すかさずノーデはそのポイントを奪いにくる。ここで本庄君が防がずにノーデにポイントが奪われるとどうなるか。次に数あてが成功したとしてもそれは〝シールド〟で防がれる。だからとれる選択はたった一つ。
「……【〝シールド〟】っす。」
しかし、これで次のターン〝タイムスリップ〟のターンは終わる。彼は〝タイムスリップ〟の貴重な1ターンを無駄にしてしまったんだ。
「すまない、これはオレの判断ミス、最初から数あてをしていれば。」
「いや、俺っちも想定外っす。」
これで本庄君サイドは敗色濃厚、あきらめムードが漂っている。
『本庄さんは右の親、人差し、中指の3本を上げる傾向にありますね。』
ノーデは既に抜けている右手の、該当する3本を動かしていった。
「そういわれたら、無意識に上げてたっすね。でもなんで今? もう勝ちを確信して助言すか?」
本庄君の言うとおりだったらただの嫌味な奴。まあ、ノーデは時々そういう節はある。
『こういう機会もあまりないので。その癖を治すか、それを利用した戦術を組んだ方がいいですよ。さて、次で最後です。』
「最後?」
『これから5秒数えたのち、私が数あてをして、成功させてみせましょう。』
「そんな、俺っちはまだ5本全部動く……。」
『だから当てられないように頑張ってください。当たらなければアップルデニッシュは譲ります。』
いやノーデ、何を言っているんだ急に。俺のこと、考えてる?
『5、』
そしてこの嫌らしいカウントダウンが始まった。俺も何回かやられて、ネタはある程度知っているから、本庄君目線で考えてみよう。たぶん今はまだ急に始まったこのカウントに驚いて頭が回っていないところだな。
『4、』
ここで少し冷静さを取り戻し、ノーデが何を宣言するのかを考え始める。そして今までのバトルを振り返って気づくだろう、ノーデが今までの数あての時に1から順番に宣言していたことに。そうなると次は5、そう頭に浮かぶ。
『3、』
たぶんここでカウント開始直前で話していた本庄君の上げやすい3本という数字がフラッシュバックする。3と5、今までの会話で強調された数字から出す? いやそうやって2択に絞ろうとしているのか?
『2、』
ここで時間が無くなることを意識し始める。決断しなきゃいけない、なら意識されてそうな3と5ではなくそれ以外の数字から選ぼう。そう例えば。
『1、』
ここで自分のあげる数を確定させる。
『0、』
表示されている秒数もちょうど0。あわや30秒ルールで負けになりそうなそのタイミングでノーデは宣言を開始。
『【いっせいのーで〝5〟】』
Turn 31
Node 0pt Makoto 0pt
【〝5〟】
L○○○●● L○○●●●
一瞬の静寂。
「うすうす5を宣言するかなとか思っていたけれどさ。自分の指も上げるなんて。」
「そして当てたっす。数あてでも当てられるともうこれは、俺っちの完敗っす。」
「はあ、本庄君に実際に体験し、勝って面白い、もっと強くなりたいと入部してもらう。我ながらいいプランだと思ったのにさ。」
道上先輩は勝負が終わり、残念そうにカミングアウト。
「えっ、まんまとそのプランに乗りかけていたんっすね。もしかして九山っち、それに気づいていて。」
『さすがにそこまでは。』
「まあ、楽しくはあったすけど。」
「じゃあ、本庄君。君も入部してくれるん……。」
「それとこれとは話が別っす。」
本庄君の発言に道上先輩は再び残念そうに肩を落とした。
「それにしても九山っち、最後の数あてはすごいっすね。当てる確信があったんすか。」
『いや、今日はたまたま調子が良かっただけですよ。』
「たまたまか。いやでも君にも可能性を感じたよ。入ってきてくれてありがとうなのさ。」
なんかノーデはいい感じにごまかしているが、そんなたまたまがあってたまるかよ。
このカウントダウンの仕組みとしては、カウントダウン中にノーデは本庄君の反応を見ている。そして5~0のどれかで表情やしぐさの変化、例えばこれに決めたって感じの顔になった時、その秒数に対応した数を宣言する。決めた数と同じ数字が聞こえた時、何かしら反応するだろって寸法だ。今回はそこにカナデが落合君と戦った時にやっていた選択肢の誘導を組み合わせたんだろう。
今回は3と5はまず除外されるようにして、2の時に、本庄君が少し拳に力を入れたから、ノーデは2本上げるなって考えたんだろう。自分の指を3本上げて5って言ったのはあいつなりの遊び心。ちなみに相手がまともに考えられるのは3ってカウントする前後からだと思うから、4はそれらしい反応がなかった時用かも。
俺は何回もやられて、ノーデに教えられて仕組みを知っているから些細な変化に注目できたけど、初見で理解までは無理だ。
『知るというのは大きなアドバンテージなのですよ。』
「うわっ、またいきなり。」
考えごとをしていて視界が狭まるのを見逃すと、本当いきなり出現するから心臓に悪い。
『一誠もだいぶ学べたようですね。たまには見学もいいでしょう。』
「最近、俺の出番がない気はするけどな。」
『私がオリエンまでの期間はいくらでも相手しますよ。』
「それはそれで嫌……。」
『嫌、ですか?』
ノーデは笑いながら言っているが、その奥に静かな怒りを感じる。
「いやその、同じ相手ばかりだとどうかなって。それより戦いは終わったからそろそろ戻ろうか。」
『いいえまだです。勝者にはそれ相応の褒美というものがあるでしょう。』
「えっと、ノーデさん。まさか……。」
『第三者が火種を消す、これが一番争いを生まない一番の平和的解決手段なのですよ。』
そういってノーデは不敵な笑みを浮かべながら、脳内空間から姿を消した。
「九山君、今回は君の勝ちだ。だから贈呈しよう。このアップルデニッシュを。」
『では、頂きます。』
俺の前に映し出されるのはアップルデニッシュが俺の口に吸い込まれていく映像、咀嚼音。ただ味やにおいはこの脳内空間に伝わってこない。
『おいしいですね。』
現実の俺、もといノーデの顔の表情は見えないけど、おいしそうに食べていることはわかる。俺は思わず絶叫した。
「なんで、なんで俺が食べられないんだああああああ。」
そして、4月10日。カナデと万倉先輩の勝負の日がやってくる。
今回のカウントダウン前後のやり取り、本当に30秒ルールの中で全部セリフを言えるのかと思って作者は確かめてみました。するとかなりギリギリだった。そして数あての仕組みはこじつけだったかも。まあ、物語上の世界の住人はそう考えて、実際に実行できる人なんだと思って読んでみてください。
次回は3/2までに更新予定です。よろしくお願いします。




