第61話 やりたいこと
とくに語ることもなく
本編です。
「私が、ですか……。」
「そうだ。」
自信なさげに自分を指さすナユユに対して、断言する梶田会長。俺たちは今まさに、生徒会のヘッドハンティングの場に遭遇している。
「だめだめ、近田さんはオレらのもんさ。」
「いやいや別に僕らのもんじゃないから。でも彼女はついさっき、自分の意思でこの部に入りました。生徒会には入れません。」
府中先輩と道上先輩はナユユと会長の間に割って入る。
「別にそれは今すぐ取り消すことも可能だし、万倉みたいに兼部もできる。生徒会に入れない理由としては不十分だな。」
「なら本人の口から言えばいいんですね。近田さん、生徒会とこのイセノ部、今の時点ではどう考えているかな?」
「え、えっと……。」
いきなりいわれても、それは戸惑うよな。
「梶田会長、一年の九山です。1つ質問いいですか?」
「ああ、集会の時の1の髪型の子か。なんだ?」
やっぱり髪型で覚えられているのか。まあいいや。
「会長がナユユ、近田さんを勧誘するのは、家柄や特性もちだからですか。」
「ああ、特に特性は貴重。この学校を正常に運営するには、生徒会には必要なものだ。」
「でも生徒会が力を持ちすぎると、特にオレたちのような廃部寸前の部にはひとたまりもないさ。特に梶田会長、あなたは結局最後、力づくで奪いに来ましたよね。」
道上先輩が会長をにらみつける。
「なるほど、上戸や万倉が生徒会に入ったことを根に持っているようだな。だが勘違いしないでほしいが、彼女たちも納得したうえで勝負して生徒会側が勝ち、こっちの要求が通っただけだ。それとも何か、今この場で勝負して決めるか?」
会長の一言に道上先輩は黙り込んだ。この感じだと、イセノ部側に勝算はないんだろうな。
「あ、あの。」
ナユユが口を開いた。
「私は、兼部はその、私そこまでの体力はないし、それに私はまだ始めたてで、この部で純粋に楽しみながら自分の腕を磨いていきたいんです。だから、ごめんなさい。」
「だ、そうですよ。力づくはあくまで最終手段、まずは本人の意思ですよね。」
府中先輩もナユユの発言をフォローする。
「そうか、なら今はそれでいい。ただ今後果たしてその部で腕が磨き続けるかは見ものだな。ではこの件は以上、お前たちも早く帰れよ。」
そういうと会長は先に下校していく。その後ろ姿を道上先輩はまるで動物が威嚇するかのようにずっとにらんでいた。そして姿が見えなくなったとたん愚痴りだす。
「くう~、いやらしい皮肉。何が納得してだ。」
「まあでも、僕たちのやろうとしたことには、どうしても梶田会長の力は必要だったしね。」
「その、勝負したことがあるんですか。梶田会長と。」
大数君が府中先輩に聞く。
「昔、僕と万倉と上戸はある一つのルールを変えようとして、そのためには力が必要で、会長にも協力してもらうように頼みこんだんだ。その対価として要求されたのが上戸、万倉の引き抜き。それで折り合いがつかなかったから僕と会長は勝負して、僕は負けた。それだけの話。」
そこまで先輩はしゃべって、周りの雰囲気を察したのだろうか。
「湿っぽくなっちゃね、遅くなる前に帰ろうか。」
翌4月9日、昼休憩時間、俺は購買部の列に並んでいた。ちなみに購買部は、2号館から道路を挟んで向かい合わせになっている5号館にある。
『あの3人に何があったのか、気になりますね。』
「府中先輩たちのことか。俺もそれは思うけど、あんまり人の過去を詮索するのもよくないし。」
「何がよくないんすか?」
いきなり後ろから声が。振り返ると誰もいな……いや少し見下ろせばいた。
「本庄君、いやその、列が長くてよくないなあって。」
「まあ今日は限定ものがあるっすからねえ。人気なんっすよ。」
ノーデのつぶやきに反応すると相変わらず声に出ちゃうときがあるんだよな。ごまかすのも一苦労だ。
「それで本庄君もお昼を買いに?」
「そうっす。特に今日は目当てのものがあってすね。九山っちは珍しいっすね、弁当じゃないんすか?」
「今日はその。弁当忘れちゃって。」
「なるほど、それはそれでよくないっすね。で、何を買う予定っすか。」
「適当にパン買うつもりだったけど。」
「なら、この本日限定のアップルデニッシュっていうのを一緒に買いません。有名店とのコラボみたいっすよ。」
本庄君はそう言ってある一つの看板を指さした。そこに掲載されているのはリンゴ半分まるまる使用、生地もサクサクを謳い文句にしたおいしそうなアップルデニッシュ。
「よだれ、出てるっすよ。」
「えっ、あ、ごめんごめん。ぜひ、それにしよう。」
よだれをふき、急になりだした腹を抑えながら、少しずつ前進し、ついに俺たちの番が来た。しかし、ここで事件は起きた。
「ごめんねえ、アップルデニッシュ、あと一つしかないんだよ。」
とりあえず一つ、あと仕方なく他のパンも買って二人でそばのベンチに腰掛けて考えるが。
「これ、半分こしづらいやつっすね。」
謳い文句がこうもデメリットになるとは。一番の平和的解決方法を取ろうものなら、たちまち生地は崩れ落ち、どちらかにのみリンゴが来る。美味しさは間違いなく落ちる。
「俺はいいよ。本庄君、これ目当てだったんでしょ。」
「いや、一緒に買おうって誘った俺も悪いっすよ。それに九山っちが先に並んでたんっすから。食べちゃってくださいっす。」
「なら、悪いけど頂こうか。」
俺は袋を開けた。すると、さわやかなリンゴの香りが鼻につく。その一瞬で確信した。あ、これおいしいやつだ。においをかいだ瞬間から生成され続けるつばを飲み込みながら俺は、徐々に口を広げながら袋から顔をのぞかせるデニッシュ本体を近づけていく。
「やっぱり待った。」
本庄君の手が俺の視界に入ってくる。思わず横を見ると、よだれを垂らしながらこちらを羨ましそうにみつめる本庄君。
「人が食べているのを見ると、欲しくなるやつっす。」
「でも、俺も……。」
ここまで来たら食べたい。だが、これは一人しか食べられない。どうすれば……。
「話は聞かせてもらった。」
見上げるとそこに立っていたのは道上先輩!
「この学校で困ったことがあったら解決する手段はただ一つ、そうだろ。」
先輩はそういって、腕輪を袖からちらつかせる。
「〝イセノ〟で決着をつけよう。」
今回は唐突に始まるギャグ、日常?回のような感じです。
ということで最近長くなっていた前書きコメント、唐突に短くしてみました。
次回は2/10までに更新予定です。よろしくお願いします。




