第58話 曲折
指スマとか呼ばれている指遊び、結構地方によって掛け声が違うんですよね。
作者のまわりは掛け声、いっせいのーででやってました。皆さんはどんな掛け声でしたでしょうか。
それでは本編です。
「【い、せいので〝雨〟】」
先攻はナユユ。宣言とともに部屋のわきに置いてある投影装置から雨雲が映し出され、水滴が発射される。その行先は、府中先輩の左薬指と小指の2本。
見た感じ、他の教室とは違ってこの部屋自体に投影装置が設置されてないようだ。それに部屋自体も書類棚や催事に使う備品が所狭しと置いてある。今、部屋には6人いるけど収容人数はギリギリだ。
「えっと、これどういう状況ですか?」
「何かをかけてとかのっすか?」
「いやいや、そんなんじゃないさ。まあしいて言うなら、入部するためのってところ。」
本庄君や大数君の質問に、ピンク髪の先輩は手を左右に振りながらそう答えた。
「入部するためにある程度のレベルが必要ってことですか?」
「いや、言い方が悪かった。入部前に実力を測るうちの洗礼さ。」
というかそれって。
「ナユユは入部しようとしているんですか。」
「ああ、彼女自らここの門戸をたたいたのさ。」
「【ゼッサン〝晴れ〟】」
Turn 2
Nayu 0pt Honmachi 0pt
【〝sunny〟Lv.1(S1)】
R○○●●● R○○○○○
L○○●●● L○○○●●
部屋の蛍光灯の薄暗さを補うかのように投影される、小さな太陽。
「その、独特な掛け声っすね。」
「ああ、これはね。僕がもとともと〝せっさん〟って掛け声でやってたんだけど、万倉に勝負で負けちゃって替えられたんだよね。もっと大絶賛されるようになれとかで。」
本庄さんの感想に、府中さんが応じます。どうやら万倉さんは弼さん以外にも掛け声登録のいたずらをやっていたのですね。
「ああ、近田さん、勝負中断してごめんね。」
「いえいえ、大丈夫です。九山君たちも来たんですね。」
ナユユさんも手元から一誠たちの方に視線を向けます。
「うん。俺も興味があったから。」
「先に自己紹介だけしとこうか。僕はこの部の部長をやってる中学3年の府中本町。うーん、青縁メガネがトレードマークかな。」
「いや、眼鏡はこの学校に大量にいますから。でも、部長はできる方の眼鏡です。」
「それ、褒めてるのかなあ。」
「そしてオレは2年の道上大五。この部唯一の部員さ。」
部長のつぶやきを普通にスルーして話す道上さん。
「唯一……。」
一年トリオの皆さん、なんとなく察したようですね。
「そうなのさ。集会の時は言わなかったけど、この部は2人しかいない、廃部寸前の部なのさ。せめてもう一人いないと大会にも出られない。だから近田さんが入ってきたときもう感動ものだったわけさ。」
道上さんは涙を流し言います。新入生の前では言いづらいことでしょうね。
「一年前は万倉と上戸もいたんだけどな。お隣の生徒会に引き抜かれて。」
「そう、許すまじ、梶田会長。」
「あっちはもめごとの仲裁役で強い人材を求めているからね。うちの方はエンジョイの方だし。」
道上さんとは違い、府中先輩は笑いながら答えます。2人の受け止め方には温度差がありますね。
「万倉先輩は強いですもんね。でも上戸先輩もそうなのか。」
「それは……。」
一誠の言葉に対し、府中さんはそう言いかけて、一度視線を下に向け。
「その話はまた今度にしよう。長くなるし、俺よりも本人の口から語るべきことだと思う。勝負に戻ろうか。」
「はい。」
私としてはすごく気になりますが、その思いは心の奥にしまっておきましょう。
3ターン目。ナユユさんは左人差し指を〝手術〟。4ターン目、対する府中さんは〝最高の手術〟で左手の指すべてを治療。5ターン目、ナユユさんは左親指を〝手術〟し、こちらも左指は全回復。
「【ゼッサン〝雨〟】」
Turn 6
Nayu 2pt Honmachi 5pt
【〝rainy〟Lv.1(S1)】
R○○●●● R○○○○○
L○○○○○ L○○○○○
「【〝手術〟】」
ナユユは右親指を〝手術〟。
「部長はすごい人さ。ジュニア部門で1番になったことも、十指選に選抜されたこともある。でも、それは天賦の才じゃない、紆余曲折を経た、努力の賜物なのさ。」
「へえ、すごい人なんすね。」
道上先輩の部長自慢に本庄君が感心している。
「まあ、それも一年前までの話だよ。最近はその不調で。何ていうか、目標を見失っちゃってね。」
「スランプなんて誰にでもありますよ。この勝負もオレは部長応援してますから、勝って部長の威厳を知らしめてください。」
「はいはい。」
府中先輩には軽く流されているけど、道上先輩、府中先輩のこと好きなんだなって伝わってくる。でも、こうなると先輩たちの圧に押されて内気なナユユは勝負やりずらいよな。なんかどう反応していいかわからないって顔しているし。
「俺たちはナユユのこと、応援してるから、ね。」
俺は横にいる二人に目配せした。
「そ、そうだね。同じ一年として。」
「頑張るっすよ。」
「ありがとう、ございます。」
ナユユ、だんだん声が小さくなっているのは恥ずかしいからかな。逆効果だったか。
『いや一誠、心配しなくても大丈夫ですよ。』
と、ノーデは言っていたけれど。
「たびたび中断してごめんね、いくよ。【ゼッサン〝雨〟】」
「【い、せいので〝雨〟】」
勝負は再開され、〝雨〟が降り続く。
Turn 9
Nayu 3pt Honmachi 5pt
【〝rainy〟Lv.1(S1)】
R○○●●● R○○○○●
L○○○○○ L○○○●●
府中さんは素早く自分とナユユさんの手元を確認します。
「それならこれはどうかな。【〝蜃気楼〟】」
彼の宣言とともに、ぐにゃりと歪む視界。
Turn 10
Nayu 3pt Honmachi 5→5pt
【〝mirage〟Lv.3】(T.P)
R○○●●● R○○●●●
L○○○○○ L○○○○○
「〝ツインパワー〟、でも。」
「私の〝雨〟の水滴は部長さんの左の指の方に行ったはず。」
ナユユの言う通り、俺からもそう見えた。
「近田さんにはそう見えても、実際は違ったんだ。まあ、正確には僕の使った技の効果でちょっと曲げたんだけどね。」
「〝蜃気楼〟はコスト5pt、相手の攻撃で自分の固まる指の配置を自分のターンで数えて5ターンの間、いじることができる技。しかも相手の攻撃を受けて10秒以内に宣言すれば、その攻撃で固まった箇所も瞬時に移動することができるのさ。」
府中先輩の発言に対し、道上先輩が誇らしげに解説して、こう付け加える。
「つまり、今の部長は先の見えない道の中にいるようなものなのさ。」
「それ、うまく言ったつもりなのかな。」
前書き関連で、作者もほかの地域でやると掛け声が違って困惑した覚えがあります。だから作中に登場する〝イセノ〟では掛け声はプレイヤーが自由に設定できるようにしました。掛け声も一つの多様性、それで個性が出ればなおよしということで。
次回は1/20までに更新予定です。よろしくお願いします。




