第57話 見学
あけましておめでとうございます。
能登半島の地震で被災された方々には謹んでお見舞い申し上げます。
それでは本編です、どうぞ。
「やっと放課後か。」
4月8日、今日から始まった授業も6時限目まで終了。授業自体は座学主体で、小学校の授業に比べると時間も長いし、内容も濃かったから、メモを取ったり、覚えるのに必死で疲れた。でも充実していたのは間違いない。特に歴史の授業で投影装置から映し出される、猿人、アウストラロピテクスから新人、ホモサピエンスまでの人類の進化は面白くて。
「そうっすね。特に人類の進化元は俺っちだったっすからねえ。」
そう。一番前の方の席っていうのもあるけど、本庄君が猿人の前にいて、投影のサイズ的にもちょうどあっていてツボったのだ。
「さて、気を取り直して。今日こそは部活、回るっすよ。」
本庄君は伸びをしながら言った。昨日はカナデと落合君のバトルを見ていて回れなかったからな。ちなみに今日も教室の後ろの方で今まさにバトルを繰り広げている。
「僕も一緒に回ってもいいかな。」
大数君、話しかけてきたってことは今日は家の用事とかないみたいだな。
「もちろん。で、本庄君はどれくらい回るつもりでいるの?」
「全部っす。」
「えっ。」
「俺っちはまず一通りバーっと見る派なんっす。で、気になった奴は立ち寄るつもりっす。スーパーとかショッピングモールとかもそういう感じで買い物するっすしね。」
「そこまでは聞いてないけど。」
これはまた、大変そうだ。
『まずは知る、そして目星をつけていくということですね。』
瞬き合間のノーデのセリフ、既視感があると思ったら最初に出会った頃に言っていた言葉に似ている。あの頃も何かと手探りだったな。
「それでいこう。大数君もそれでいい?」
「うん。」
「決まりっすね。」
こうして、部活巡りという学校の探検へ出発。まず向かったのはグラウンド。
グラウンドはこの学校の中で一番西に位置しており、正門にも近い。グラウンドでは、野球部やサッカー部の練習が行われていて、グラウンドの外周を陸上部が走っている。中には、見覚えのある顔も。
「あれって、万倉先輩だよな。」
「そうっすね。本当に兼部してるんっすね。」
白シャツに青の短パンと、この学校の体操着を着用した紫髪の女子が先を突っ走り、あとを追うように男子がヘロヘロになりながらついてきている。というか、ほとんど1年生だな。これがリアル追っかけか。
「あなたたち、こんなものでへばってちゃ、いざというとき何もできないわよ。」
万倉先輩は追っかけの男どもに活を入れると、視線をこちらに向けた。
「あら、九山君にえっと神杉君、それと……。」
「ほ、本庄っす。」
本庄君、急に肩に力が入って、上ずった声で答えている。
「あなたたち一年トリオも体験入部?」
「いや、僕たちは見学にちょっと寄ってみただけで。」
「じゃあ、今だけ入部でもいいわよ。みっちりしごいてあげるから。」
万倉先輩は不敵な笑みを浮かべている。大数君は本庄君や俺に目をやり、俺たち二人はほぼ同時に首を横に振った。
「いや、遠慮しときます。じゃあ。」
俺以外の2人はすぐさまその場を離れる。でも俺はまだ一言、言いたいことがある。
「万倉先輩。」
「なあに、九山君。入部する気になった?」
「いや、それとは別で。〝イセノ〟の勝負、今度は負けませんから。」
「生意気ね。」
「しつこいのが俺の取り柄なので。」
俺は一礼して、二人の方に向かった。先輩が「それ、自分で言っちゃうんだ。」ってつぶやいていたのは聞こえなかったふりをして。
『一誠、言うようになりましたね。』
「これは決意表明だ。俺は強くなって万倉先輩を含んだ十指選の左は全部倒す。なんか落合君の必死な姿を見ていると、俺もやらなくちゃって思ったんだ。」
『よきライバルの存在に感化させられたわけですね。』
ライバル? とはまた違うような気もするが。
瞬きの合間に頭の中でノーデとそんなやり取りをして、次の体育館へ。ここはバレー部とバスケ部、卓球部が活動している場所、のはずなのだが。
「〝イセノ〟、してるね。」
俺たちが訪れた時には、投影装置で技のエフェクトやら、所持ポイントやら映し出されていた。そしてそれを取り仕切っているのは生徒会の腕章をつけたツインテールの女子。
「おお、九山君と、その子分たち?」
「違います。」
俺は即否定する。確かに、この中では俺が真ん中に立っていて一番身長も高いからそう見えるのかもしれないが、断じて違う。
「神杉です。」
「本庄っす。」
「これは、どういう状況なんですか?」
「体育館の使用時間がバッティングしちゃったんですよぉ。今回は管理していた私たち生徒会のミスなんですけど。それでどちらが体育館を一日使うか決めるためにこうしてバトルしてもらってるわけですぅ。」
「なるほど、こういうことも全部〝イセノ〟で決めるんっすね。」
ちなみに勝負はバスケ部が勝った。
続いて高等部の教室がある四号館とサブグラウンドの間の道を突っ切り、一番東に位置する中東部、つまり俺らの教室がある一号館へ。ここの三階は多目的室、まあ、広さ半分の体育館といった場所。ここでは剣道部と演劇部が活動している。
「どうしたんっすか、九山っち。」
「いや、千草さん。いないなあと思って。」
真っ先に剣道の練習に交じってそうなのにな。
そのまま俺たちは隣の二号館へ移動。ここはそれぞれの科目の応じた教室がある。音楽室では吹奏楽部、化学室では科学部、美術室では美術部が、家庭科室では料理部がある。
「いいにおいっすね。」
「これは、クッキーかな。」
「たぶんリンゴを使ってるよ。間違いない。」
「正解!」
俺のつぶやきに答えるかのように、カナデがエプロン姿で廊下の窓から顔をのぞかせる。
「今、フルーツを使ったクッキーを作ってるの。良かったら、いくつか食べる?」
「いいんですか、ぜひいただきます。」
大数君、即答。そのまま真っ先に家庭科室に入っていった。
「勇気あるっすね。家庭科室の中、8割女子っすよ。男子としてその、気が引けないっすか。」
「うん、でも一人にしちゃいけない。それになんか負けちゃいけない気がする。」
俺も大数君の後をついていった。
「えっ、ええ。仕方ないっすね。」
本庄君もそういって3人、中でクッキーを試食。料理部の活動内容やら聞きながら、大数君はカナデに話しかける。
「そういえば三好さんは、落合君と〝イセノ〟やってませんでしたっけ。」
「速攻で片づけてきたよ。」
当然のことかのようにカナデは答え、「うわ、容赦ない。」て俺は思わず言ってしまった。
「それで落合君は、今?」
「千草と病院に行った。なんでも今日、母親の千里さんが予定があったらしくて。いろいろ相談に乗ってくれるみたいでね。」
「なるほどな、だから千草さんは剣道部の方に居なかったのか。ナユユは一緒じゃないの?」
「奈湯は三号館の方に。気になる部活があるみたいでね。」
三号館、あそこはこの学校の中で一番静かな建物、校長室や保健室、図書室などがある。確か生徒会の部屋もそこにあったはずだ。そして、イセノ部の部室も確かそこに。
リングの時刻表示を見ると、十分以上ここにいることに気づいた。そろそろ移動しないと、元々俺が行ってみたかったところに行けなくなるな。
「時間もあるし、そろそろ本命いきますか。」
俺たち3人は三号館の最上階、生徒会室の隣にある倉庫へ。
「倉庫って書いてあるっすけど、ここで本当にあってるんすか。」
古びた磨りガラスの扉、壁の外装にもひびがちらほら。隣のきれいそうな生徒会室とは大違いだ。
「でもパンフレットにも、部活紹介のサイトにもここって書いてあるし。」
「とにかく入ってみよう。」
俺はドアを開けた。すると、ピンク色のパーマがかかった男子部員が歓迎してくれる。
「ようこそ、イセノ部へ。そしてちょうどいいタイミングで入ってきた。」
「ちょうどいいって?」
そういうとパーマの先輩は顎をしゃくる。その方向はこの部屋の奥。
「「お願いします。」」
ナユユと府中先輩が向かい合っていて。
「勝負が始まるよ。」
次回は1/13予定です。
実は地震とは関係ないのですが、作者的にも身内の不幸がありまして。
今年は波乱の幕開けになりましたが
作者は頑張って更新を続けていく所存です。よろしくお願いします。




