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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第4章 中学入学編Ⅰ
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第52話 意地悪

最近一気に冷え込んで冬になったって感じです。一方の作中は春で全然季節あってないんですけど。

では本編です。どうぞ。

 壇上で落合君の言葉を聞いたものはみな万倉先輩の方に顔を向ける。そして当の本人はうろたえていたが、すぐに正気を取り戻す。

「ええっと、威勢がいいのは褒めてあげるけど。それって今から? 私も忙しいの。」

「俺は一刻も早く十指選になりたいんだ。」

「で、なぜ私? 十指選なら会長もいるでしょ。」

 万倉先輩は梶田会長の方に視線を送り、会長は嫌そうな顔をした。

「さっきの話を聞いてだ。アンタ、自分が十指選から外れる可能性のある勝負を持ち掛けたんだ。なら、自分がその座から降りる用意だってしてるんだろ。ならそれを俺に譲ってくれよ。形だけでも勝負してな。」

「あいにく、私は自分から降りる気も、会ったばかりの一年棒にそうやすやすと譲る気もないわ。私は勝負に勝ち続ける。」

「勝ち続ける? でもアンタが十指選の中で一番弱い、それは序列見れば明らかだぜ。それにさっきは様子見してたが、お前大した特性じゃないんだろ。特性を使わなかったんじゃなく、使えなかったんだ。」

 なるほど、そういう見方もできるな。でも、俺は違うと思う。

「いろいろ言ってくれるじゃない。いいでしょう。秒で終わらせてあげる。構えなさい。」

 万倉先輩はそのまま握りこぶしを作る。落合君は自前の技板を腕輪に通し、いざ勝負が始まると思いきや、エラー音がこだまする。

「なんだ?」

「もしかして、腕輪を使って勝負したことがないの。」

「……悪いかよ。」

 万倉先輩が途端に笑い出す。

「あきれた。てことはほぼ初心者じゃない。」

「〝イセノ〟自体は妹とよくやってた。この腕輪が初めてなだけだ。」

「はいはい、そういうことにしといてあげる。じゃあ掛け声、登録しないとね。ちょっと腕輪かして?」

 万倉先輩はそう言って落合君の腕輪に触れる。

「掛け声、うるせー、どーで」

「はい、登録~。」

「もいいだろそんなこと……は?」

「あなたの掛け声は〝るせーどーで〟ね。ちょうど、〝いっせいのーで〟と音も合ってるしいいんじゃない。もし変えてほしいのなら私に勝ってみなさいよ。」

 万倉先輩も意地が悪い。顔にも現れている。

「お前、その余裕、今に後悔させてやるぜ。」

「それはこっちのセリフ。」

「おお、面白そうなことしてますねぇ。解説しがいがありそうですぅ。」

 上戸先輩が目を輝かせて寄ってくる。そしてこの様子を見ていた一年たちも。注目が集まる中、今度こそ勝負が始まりそうだ。

『私も興味があります。もう一度見れば……。』

 俺も同じだ。二人の勝負がめちゃくちゃ気になるところなんだが。

「ノーデごめん、トイレ行っていいか。」


 誰もいないトイレの個室。俺は数秒目を閉じる。

『タイミング悪いですよ、一誠。あんなところでトイレだなんて。』

「ごめんって。試合が終わったら安心して緩まったというか。次の部活紹介もあるし、しとかないとだろ。それにすぐ戻るから。」

『その時にはもう終わっているかもしれませんよ。』

「さすがに早すぎるよ、それは。」

『でも万が一もありますから、先に1つ、お願いしてもいいですか。』

「なんだよ。」

『さっきの万倉さんとの試合のリプレイを見たいのですが、ロックがかかっていまして、解除していただけませんか。』

「ああ、そういうこと。」

 俺が見られたくないと感じている記憶に関してはロックがかかるみたいで、ノーデがそれを見るためには俺の許可コードが必要だ。

「仕方ないな、Operation code 記憶(メモリー)倉庫(バンク)

 俺がそう唱えると、様々な映像が球体上に俺たちの周りを取り囲む。

『お、これですね。』

 ノーデがその中からある映像を指さすと、それが大画面で再生される。それは俺が10分前にこの目で見たものだ。

『ふむふむ、なるほど。』

「何かわかったのか? 万倉先輩の特性とか。」

『おおよそ健闘は付きます。ただ一誠の今後を思ってここで教えるのは控えますが。』

「なんだよ。ノーデも意地が悪い。」

『それにしても、一誠の弱点その2が露呈してしまいましたね。』

「弱点その2、その1じゃないの?」

『その1はこだわりが強すぎることでしょう。』

「まあ、それは否定しないけど。それ以外にもあるのか。」

『一誠は初見殺しに弱いのですよ。実際、何をされたかわからないまま負けたでしょう? それで初見殺しの対策が必要だなと思いまして。』

「そんなの、経験を積むとかだろ。」

『それもそうですが、それをやっていては今後も一誠はしばらく負け続けてしまうでしょうね。今回はもともと十指選である万倉さんが勝ちましたし、これから十指選の空席ができるようですからよかったですが、今後もこのようだとたちまち十指選の話は消えてしまいます。』

「確かに、今のままだとそうかもな。」

『そこで1つ提案です。しばらくは勝負を私に変わってくれませんか、そう一週間後のオリエンテーションまで。それまでに一誠は気持ちの整理と相手をよく見る観察眼を養うのです。』

「観察眼?」

『そう、初見殺しといってもそこに至るまでの前兆はあります。それは相手の発言、指の動き、仕草など様々です。私が勝負をしている間に、一誠はそこを鍛えるのです。』

 確かに一理ある。一理あるが……。

 なんか、うまく誘導されてそうになったけど。ノーデの目を見て、本心を悟った。

「お前、自分が他の人と対戦したいだけだろ。そんなに目をキラキラさせて。」

『そんなことは……いや嘘はやめましょう。そうです。』

「そんなきっぱりと。」

『一誠以外とまともに勝負できてない。私ももっと勝負してみたい。それにこれから一誠はバンバン勝負を挑まれます。それを一つ一つ受けていては疲弊しきるのも時間の問題、ですから私が変わるのです。私なら疲れることはありません。この提案はお互いにウィンウィンでしょう。』

 俺にばれると潔く本音を吐くなぁ。まあでもさっきの試合でもっと早くノーデと変わっていたら、結末が違ったかもしれないと考えたのも事実だ。一回時間を空けるのはありだと思う。

「わかった、オリエンまでの一週間、それも俺が戦う試合だけだぞ。」

『さすが一誠、話がわかる。』

 そういうノーデも、喜びをあらわにしやがって。人間臭いな、本当に。AIって設定忘れてないか。


 さて、トイレから戻っていると、膝をついてうつむく落合君、余裕の笑みで立っている万倉先輩。結果は明らかだ。

「私の勝ち、ほら言ったとおりでしょ。」


ごめんよ、一誠。作者の力でトイレに行ってもらいました。作者も意地悪です。

でも、いずれ万倉の特性、落合のバトルスタイルは必ず書くつもりでいるので読者の皆さんも温かい目で読んでいただければと思います。

次回、11/25までに頑張って更新予定。よろしくお願いします。

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