第44話 入学式前編
今日は9月20日、作中の始まりの日です。
ということで,投稿日もこの日に合わせました。本当はもっと休みたかったけど。
それでは本編です。
『2031年4月7日、午前6時5分8秒、九山一誠、睡眠中。』
「なにナレーターっぽく語ってるんだよ。」
俺の頭の中、ノーデがちょっと興奮気味でしゃべっている。
『だってこれは奇跡の確率ですよ、今の言葉に0から9までの数字が入っているのですから。』
「俺の苗字も入れてか。珍しいのはそうだけど、変なところにこだわらなくてもいいよ。全く誰に似たんだか……。」
いや、俺にか。
『さて、そろそろ起きる時間でしょう。今日は……。』
「入学式、だからな。」
俺は目を開けて起き上がる。チュンチュンという鳥の鳴き声を聞きながら、自分の部屋を出て階段を下る。
「おはよう。」
「「おはよう、一誠。」」
食卓で食事をとる父さんと弁当を作っている母さんの声が重なった。
「あら、今日は一段と寝癖がひどいわね。」
「そう?」
確かに手で触ってもわかるくらいには跳ねている。
「そうよ、あとで顔洗うときに鏡みて確認しときなさい。まずは朝ごはん。」
「うん、いただきます。」
ごはん、みそ汁、昨日のマーボ豆腐の残りにポテトサラダ。今までにもこんな組み合わせはあって何も考えず食べてきたけど、よく考えればいろいろな地域の料理ごちゃまぜだよな。朝のノーデのせいか、変に気になる。
「緊張してる?」
「えっ、いや。そうなのかな。」
「母さんにはわかるわよ。一誠が何か考えごとしている時は咀嚼回数が多くなるの。あなたに似て。」
母さんは無言でもぐもぐ食べる父さんを見つめた。ああ、噛む回数ってことか。
「ごちそうさま。先に洗面台使うぞ。」
「ええ。」
父さんは席を立ち、ほどなくして髭剃りシェーバーの音が聞こえてきた。
「咀嚼って。母さん時々難しい言葉使うね。」
「私はあえて使ってるの。一誠は今まで受験とか無我夢中でこなしてて、最近やっと考える余裕ができたってところかしら。」
母さんはエスパーかなにかか。俺のことを俺よりも理解している気がする。
「まあ、初めての登校で緊張する気持ちもわかるけど、それ以上に楽しみなさい。いろいろな人との出会い、青春ってやつをね。」
「うん。」
和洋折衷いや、和洋中折衷な朝食を食べ終わり、父さんと入れ替わりで洗面台のある部屋に入る。
「一誠、頑張ってこい。」
そう一言、父さんは発して出勤していった。
洗面台の鏡の前。
「確かにこりゃひどいな。」
『トレードマークの1のくせ毛が隠れていますね。』
別に、1のくせ毛はそんなにこだわってるわけじゃないんだけど。
「今日はさすがに、髪整えとくか。」
俺は頭全体を水で濡らす。そうすると大半の髪の毛は寝て、真ん中の一部分だけが立ったまま残る。その後、歯磨きを済ませてまだ1回しか着ていない制服に袖を通した。
「似合ってるわね。じゃあ、母さんも支度するからカバンの支度でもしてて。」
母さんは俺にそういうと、化粧やら服やら準備を始めた。今日の予定は午前中が入学式、親も出席なので母さんも俺と一緒に行く。午後は学生だけで校舎の案内、学校内でのマナーなどもろもろの説明をされるようだ。
俺は昨日準備したものの、必要なものをもう一度確認。教材一式、筆記用具、財布、そしてフューチャーリング。
『腕輪の方もいるのですね。』
「前もって準備しといてくださいってアナウンスされるくらいだしな。」
『何に使うのでしょうか?』
確かにそうだ。便利なものには違いないが、勉強で使うものかといわれると。
「準備できたわよ、行きましょう。」
「うん。」
母さんの声を合図に俺は玄関で革靴を履き、扉を開けた。
「今日は電車なんでしょ。」
「いや、もっとすごいもの。そろそろ来るわよ。」
もっとすごい? なんだ? そう考える間もなく答えは家の前にやってきた。
「リムジン!」
後ろの扉が開き、中から千草さんが現れる。今日はちゃんと制服だ。
「一誠殿と一誠の母上殿、お待たせして申し訳ない。」
「いいえ、ものすごく助かるわ。じゃあ一誠、乗りましょう。」
「うん。」
母さんの後に続いて乗り込んだ。中はテーブルだの大きなモニターだの、俺の家の車にはない設備ばかりだ。そして何より。
「広い。こんなに広い車ってあるんだね。」
「確かに、一般人が一生で乗る機会なんてまずないでしょうね。」
「この車はいろいろ設備がそろっていてすごいのだ。投影装置も完備している。このリングと連動することも動作確認済みだ。」
千草さんはそういって袖をまくるとリングが露出する。
「千草さんのリング、この前のとは違うね。」
「前のは借り物のリングだ。過去の十指選のものの一つをうちが管理していて、入学祝いでもらったものだが、この前のことがあって、やはり自前のものがいいと思って買い直した。」
買い直したって、そんな気軽に買える値段じゃないのに。やはり金持ちは違う。
「でも特性がついてたやつでしょ、もったいない気がするけど。」
「家にはあるから、どうしても必要になったら使えばいい。ところで一誠殿、拙者もあれから少し〝イセノ〟を勉強してだな。良ければ手合わせ願えないだろうか。」
再会していきなりバトルを申し込むとは肝が据わっているが、今日は入学式。丁重にお断りだ。
「いや、今日はまだそういう気分じゃないかな。」
「むむ、そうか。」
「〝イセノ〟なら学校内でもできるでしょ。だから気落ちしなくても大丈夫よ。ところで千草ちゃん、お母さんは今日来るの。」
「むしろ母が来るからこの車なのだ。ちょうど入ってくる。」
その言葉通り、リムジンがあるビルの前で止まり、ドアが開く。
「おはよ~、千草~。それに~、五月と一誠君。」
赤いスーツで、千里さんと同じ茶色の髪の女性。あのおっとり口調な千草さんの母親、千里さんだ。
「おはようございます。」
俺と母さんはそう返したが、千草さんは何も言わずに目線をそらす。
「相変わらず元気そうね。」
「五月~、これが元気に見える~? こんな日に限って急に会合、お互いのスケジュール的にこの時間になっちゃって~。」
「俺の母さんと千草さんのお母さん、同級生なの? なんか、そうは見えないけど。」
俺のお母さんは今年で40歳。対して千里さんは30歳くらいに見える。
「あら~そう見える? まあ~、そうなの~。」
「千里は若作りしているのよ。ほら化粧だって濃いでしょう。」
「あら~、見栄えというのも大事でしょう~。この車だって娘の入学というから張り切ったのよ~。」
「それでは目立つだろう。周囲から違った目で見られる。」
千里さんが自分の母親に対してはじめて口を開いた。表情は変えないが、声の調子的には不満そうだ。
「ど~ど~としてればいいじゃない~。」
「むむ。」
「それより千里、前もいったけど勝手に婿候補とか決めないでくれる。」
「あら~、親心じゃない~。千草が変な御曹司とかと結婚するより~、見知った人の子がいいな~って思っただけよ。」
「そういうとこよ、なんでも思い通りになると思ったら大間違いよ。」
「そう~? ああ~そういうときもあるわね~。例えば~、刀型の投影装置。千草、一誠君、あの件については謝罪させて。まさか、あの電波に反応する子がいるなんて~、思わなかったから。ごめんなさい。」
深々と頭を下げた千里さん。口調はあれだが、表情やしぐさを見ると、だいぶ反省はしてるらしい。
「いえ、いいんです。」
「そうよ千里。二度とこんなことがないよう努力しなさい。」
「は~い。」
同級生ってこともあるのか、母さん、千里さんに対してはあたりが強いな。
「そろそろ到着だ。」
千草さんの言葉を聞いて、全員窓の方を向く。見えるのは近芽台中学、大きな正門。その前のロータリーにリムジンは止まり、俺たちは降りたった。全員一言ずつ発して。
「人だかり。こんなにいっぱい。」
「張り切った甲斐が~あったでしょ~。」
「むむ、思った通り。」
「千草さんの気持ち、ちょっとわかった気がする。」
皆一歩引いて、物珍しそうな、うらやましそうな眼をこっちに向けている。いくら人気の私立の学校とはいっても、大半は一般の学生。
入学早々、注目の的になってしまった。
サブタイトル、入学式というタイトルで前編ととらえてもいいし、入学式前の編ととらえてもいいです。
次回は9月30日までに更新します。(余裕をもって期間を設定します)
よろしくお願いします。




