第43話 VS千草 決着
私事ですがこの夏、コロナにかかりました。高熱で3日くらい寝込んでしまって、いまでも咳が少し残ってます。
皆さん、体調には気を付けてくださいね。
では本編です。
Turn 7
Tigusa 0pt Issei 5pt
【〝Ultimate time slip〟Lv.10(U)】
R○○○○○ R○○○●●
L○●●●●
「【いっせいのーで〝3〟】」
一誠殿の数あては当たっていたが、どっちみち抜けることはできない。〝究極のタイムスリップ〟の効果によって。
さて拙者の番だ。
「この技を使った以上、拙者のこのターンで数あてが成功しなければ、その次の拙者のターンで両方の腕のすべての指が死滅して、ずっと動かなくなる。つまり確実に私の負けだ。」
「〝アルティメットタイムスリップ〟の反動か。〝タイムスリップ〟より短くて強力な分、反動も大きいのか。」
「うむ、だから当てるのだ。確実に。」
彼がここまでで、私の数あての時に挙げた数字は3、9、2。この流れだと前の数字から離れた数字を次に宣言するという流れができている。一度宣言した数字を除けば、順当にいくと8や10といった数字であろう。
だが、もし傾向を変えるとするなら。それは必ず動作にも表れる。そして剣道で鍛えられた拙者のこの目であればどんな些細な変化も見逃さない。
「【いっせいのーせ。」
この宣言中にも一誠殿の手を観察。前のターンよりも右の手の甲が少し骨ばっている。力んでいる証拠。
今までとは傾向を変えてくる。やはり勝負を決める1ターン、変えてくると思っていた。
分析開始だ。
右手だけが力んでいて、左手は力んでいない。片手で出せる数字だ。そして、彼が最も宣言しそうなのは、私が宣言することはないと考えている数。一番可能性が高いのは、この試合で最も頻繁に出た数字。そうさっき彼も自分で宣言していた
「〝3〟】。」
Turn 9
Tigusa 0pt Issei 5pt
【〝3〟】
R●●●●● R○○○○○
L○○○○○
『とでも、考えているのでしょう。』
俺の脳内空間で、表示された〝イセノ〟表記。それを俺とノーデが眺めながら感想を言っている。
「ノーデの考えすぎじゃないのかって思ったけど、やっぱりすごいな。でも、剣道で鍛えたとか想像が多少着色しすぎな気がしたけど。」
『ああ、玄関に草履をそろえるときに、左手の方にマメを確認しまして。あと、あの刀型の投影装置を軽々持っていたりしましたし、彼女は左の下の指、中指が小指にかけてあげようとはしませんでしたしね。何より、塩町家は代々武家の家系だったのでそうかなと。』
ノーデは得意げである。相変わらずこいつの観察眼は尊敬する。
さて、千草さんの数あては外れた。おそらくノーデの想像が正しければ、というか本音を言えば確実に当たっていた。俺の出そうとしていた数字はまさに千草さんの宣言した数字だった。
しかし、俺はその直前でノーデと入れ替わった。今回は状況的に勝たないといけないというのもあったから。そしてやっぱり数あてに関して、ノーデは相当強い。
次のターン、俺は一応〝雨〟を宣言したが、これに意味はない。この次で〝究極のタイムスリップ〟が終わるから、俺は何もする必要がない。
千草さんの右腕をまとっていた赤いオーラは消滅し、死滅した指だけが残る。
「今回ばかりは入れ替わって正解でした。調子が戻ってきましたよ。」
徐々に元気になっていくノーデに対比して、千草さんはポーカーフェイスだが、声の調子までは隠せなかったようだ。
「これ以上やっても意味はない。拙者の負けだな。」
勝負は千草さんの指が死滅で動かなくなったまま、俺が0を2回宣言して勝った。千草さんのターンも一度回ってきたが、適当な数字を宣言していて、ほぼ無抵抗だった。
自由の女神の像が消え、勝負が終わる。リングもちゃんと外せるようになった。
「一誠殿、体調は大丈夫か?」
「ああ。うん。大丈夫。」
ノーデも数分前の状態が嘘のようにピンピンしてるし。
「この投影装置については母に伝えておく。問題大有りだとな。そして約束通り、勝負はもう挑まぬ。」
「やっぱり技板2つじゃ無理があったんじゃ。」
「母に1回勝って少し浮かれたのかもしれんな。」
その気持ちは少しわかる。俺もカナデに対してそうだったから。
「別に何かをかけてとか、そういうのじゃなかったらさ。普通に〝イセノ〟をしてもいいからね。その、初心者にはそういうの教えてくれる人がいないとうまくならないし。」
「そう、か。ならお言葉に甘えることにしよう。」
「お話は一区切りついたかしら。」
その声は。
俺が部屋の入り口の方を見ると、引き戸を開けて顔半分を出している母さんがいた。
「いつからいたの?」
「〝イセノ〟の勝負の中盤、その子の腕が赤く光ってた時から。」
「帰ってきたらひとこと言ってよ。」
「ちゃんとただいまって言ったわ。でも勝負に夢中で気づかなかったでしょ。」
まあ、あの時は〝究極のタイムスリップ〟の演出がすごくて、母さんの声なんて耳に入ってこなかったのはたぶん間違いない。
母さんがそのままリビングに入ってくる。でも俺の知らないスーツの大男と一緒に。
「母さん、隣の人誰?」
「この人はこの部屋をうちの庭からずっと見てたから、部屋に入りたいのかなって連れてきたんだけど。そちらの方のお連れさんでしょ。」
「ああ、私のボディーガードのマーク・スリーだ。彼は私の警護が仕事らしくてな。私はいいと言っておるのだが、ついてくるのだ。」
「ハジメマシテ、マーク・スリーデス。ヨロシクオネガイシマス。」
機械音声、彼のつけてるリングから発せられている。
「スリーは日本語が話せないので、こうやって同時通訳しているのは了承してほしい。」
『便利な世の中になりましたね。』
ノーデが瞬きの合間にこういうのもわかる。
「それにしても知らない履物があると思ったら。あら、また女友達。一誠も隅にはおけないわね。」
母さんはニヤけながらそう言った。これは壮大に勘違いをしているので正さないと。
「その、突然千草さんが訪ねてきてそれで……。」
「そうなのだ。一誠殿は私の婿候補で。」
「えっ、どういうこと?」
まあ、最初はそういう反応だよな。ことの経緯を説明すると、母さんは頭を抱えていった。
「千里、あれ冗談だと思っていたのに。本当何を考えてるのよ。あとで、徹底的に抗議しとくわ。」
「では、一誠殿は婿の話はなしという形でいいのだな。」
「そうだね。」
『一誠も罪な男ですね。千草さんは優良物件なのにそれを振るなんて。』
ノーデもいやらしい言い方をするな。確かに千草さんはお金持ち、容姿もきれいで、礼儀もちゃんとしてそうだけど。でも、知ってるだろ。
「カナデちゃんがいるから仕方ないわね。」
母さんの方が俺の考えていることを暴露した。あんまり他人にそういうこというもんじゃないよ。
「一誠殿には思い人がおるのか?」
「そうよ。最近再会してまたちょっといい感じなのよ。」
「母さん、それ以上は……。」
いわれると恥ずかしい。
「なるほど……。」
「ところで、千草さんはその婿の話、今はどう思ってるの?」
俺は話題を転換するため、思い付きでこう言った。
「むむ、そうだな……。わからない。」
「わからない?」
「まだ判断材料が足りない気がする。まあ、隣に住むのだしそのうちわかるかもしれぬ。」
待てよ。
「今、隣に住むって言ったか。」
「むむ、そういえば言ってなかったな。ちょうど空き家があってな。私は一誠殿の隣に住むことになったのだ。」
「うそでしょ。」
隣の空き家、旧三好家の家じゃないか。
「でも、それならあんなに玄関で待たなくても。一回家帰ればよかったんじゃ。」
「家は監視網がたくさんあって居心地がいいとは言えなくてな。常にリアルタイムで母に監視されていると思ってもいい。」
それは確かにそうだ。そして千草さんはやっぱり反抗期だな。
「嫌だったか?」
「いや、そういうわけじゃ……。」
緊張するというか。意識してしまうというか。
「初の一人暮らしで不安な部分が、これからよろしく頼む。」
今ちょっと、千草さん笑ったか。
こうして癖の強い隣人が1人増えた。
「それで一誠、宿題は終わったの?」
「あっ。」
次回はすみません、いつもより1週間プラスで9/23までに更新予定です。
というのも一時体調を崩して執筆ペースが落ちた&次回から先の展開まで見据えたときに1回書いて修正したいという理由からです。
ご迷惑おかけしますが、引き続きよろしくお願いします。




