第41話 トラブル
気づけば連載開始からほぼ半年が経過しました。
読んでくださる方には本当に感謝しています。ありがとうございます。
では本編です。
「お邪魔する。」
そういいながら千草さんはうちの玄関に入った。彼女は草履を脱いで上がると膝をつき、草履の向きを扉側に向ける。その間、俺の方には背を向けない。一連の所作を流れるように行っている。
「きちんとしてるね。」
「むむ、これは普通ではないのか?」
「それは、そうだと思う。」
と返したものの、普通ほかの人の家とか上がるとき、あんまり意識してないもんな。
『一誠も見習わないとですね。』
とノーデにも諭される始末。あと、この際だから聞いとこう。
「ずっと気になってたんだけど、今日はどうして着物で?」
「これは勝負服だ。」
「はあ。」
よくわからないチョイスだな。
さて、気を取り直して。一階リビングに千草さんを案内した。
「ちょっと待ってて。俺のリングとってくるから。そこのソファにでも腰かけてて。」
俺は急いで階段、そして自分の部屋まで往復。俺の部屋の様子を見ると散らかっているから見せなくて正解だ。
俺が戻ると、千草さんはリビングをうろうろしていた。
「何してるの?」
「ああ、こういうタイプの家は初めてなのでな。部屋の様相や家具など、普通の家とはどんなものか、自分の見分を広めておこうと思ってだな。」
「えっと、逆に聞くけど、千草さんの家はどんな感じなの?」
「まず、部屋はこの10倍の広さだな。そして金の装飾やら、絵画、アンティークの雑貨などが置いてある。」
だろうな。俺の家は庶民の家ですよ。
「あんまりうろうろされても恥ずかしいから、とりあえず用事済ませようか。あの投影装置貸してくれる。」
「ああ、準備をよろしく頼む。」
俺は手渡された刀型の投影装置を机に置き、俺と千草さんのリングを交互に手に取り、ノーデの指示のもと、タッチ画面を操作する。千草さんは正座して見守っている。
「よし。」
これで千草さんと俺のリングをこの投影装置につながったはずだ。そして最後に刀を振り上げると
「よし。」
「映ったな。」
あとは、この鞘をペンのキャップみたいに後ろにつけて立たせてあげればいい。
「むむ、なるほど。この鞘はスタンドの役目を兼ねていたのか。九山殿は詳しいのだな、こういう機械。」
「いやー、まあ俺の友達が詳しくて……。」
本当はノーデの指示通りにしただけなんだけど。
「にしても、携帯用の投影装置っていいね。コンパクトだし。変な形はしてるけど。」
「ああ、これは特注だ。1つ何億だったか。」
震えあがる値段だ。丁重に扱おう。
「なんでもうちの家の家宝、有弦刀を模したものでな。この地方、そして〝イセノ〟において神とされる神杉有弦の命を絶った刀らしいが。要は神殺しの刀だ。」
なんだ、そのかっこいいような、物騒なような。
「では、かなり予定より時間がかかってしまったが。」
千草さんは技板を取り出し、それを腕輪に通す。1枚,2枚。
「勝負を始めるとしよう。」
彼女はもう準備が終わったかのように俺のほうを見つめた。そしてそれが俺には驚きだった。
「技板が2枚、たった2枚なのか。」
「そうだが、何か問題でも。」
「2枚じゃあ、かなり不利じゃないか。」
「むむ、そういうものなのか? あくまで数当てゲームで、技は2つでもゲームはできると母は言っていたが。」
「さてはお前、〝イセノ〟、やったことないだろ?」
「むむ……。」
そのあとの言葉がないってことは、図星なのか。それでよく勝負挑みに来たな。
「ふつう、技板は最低4枚必要って言われてる。これは技そのものが指を固める攻撃技、技や数当てを防ぐ防御技、自分の状態を変える変化技、指を治す回復技の4種類しかないからそれぞれ最低1つずついるだろって考え方からだ。実際はもっと、10枚以上が普通だけど。」
「とはいっても戦えないわけではないのだろう?」
「まあ、そうだけど。」
「では、心配は無用だ。」
千草さんは表情一つ変えずに答えた。自身だけはありそうだな。
『もしかして彼女は何回も勝負することが前提かもしれません。』
ノーデの懸念。たしかにそうなら最初はあえて手の内を見せないためにそうしてるかもしれない。それに何回も勝負を挑まれるのは困る。
『こういうのは念押しで確認です。リングにも録音して証拠に取っておくと確実ですよ。』
ノーデは裁判沙汰まで見越してるのかな。まあ、一理はあるからひそかにリングの録音機能をONにして確認。
「あの、挑戦は1回だけだよ。」
「ああ、1回で十分だ。ただし、先攻は頂く。」
「その言葉、言質とったからな。先攻はあげるよ。」
ちゃんと録音されてるし、あんまり長引くと母さんも帰ってくる。
「じゃあ、もう始めるよ。」
俺も技板を通して、〝イセノ〟モードに移行する。と同時に。
『うううっ。』
直後の瞬きの間にノーデが頭を抱え始めた。
「おい、どうしたんだ。」
『なにか、変な感じがします。』
こんな苦しそうな表情のノーデは初めてみる。
『特殊な電波が出ている。私の機能に支障をきたすほどの。』
特殊な電波……。
〝イセノ〟モードに移行した途端こうなった。俺のリングは1か月前から使ってるから、原因である可能性は低い。だとすれば、千草さんの投影装置くらいしかない。
「千草さん、それ何か変な電波が出る仕様なのか?」
「機能は普通の投影装置と変わらないはずだ。人には無害だぞ。」
その返答を聞いて再度目を閉じたが。
ノーデは相変わらず苦しそうにうずくまる。
「大丈夫か、ノーデ。」
暗い脳内空間の中、俺はノーデのもとに駆け寄った。彼女の手に触れると、熱い。
『今は大丈夫です。しかし、長くはもちそうにない。』
ところどころにノイズが走って姿がぶれ始めてる。異常事態、すぐに手を打たないと。
「やっぱり、勝負は今度にしてくれないか。」
「勝負は一度受けたのなら、最後までやるのが筋だろう。」
「いやその、体調がすぐれないというか。どうしても無理なんだ。」
「一誠殿は全然元気そうに見えるが。すぐに終わらせるのでもダメなのか?」
ノーデの状態はこのやり取りをしてる間にも悪化していく。勝負をするにしても仕切り直した方がいい。
「だめだ、やっぱり。ごめんけど、1回接続を切るよ。」
俺はリングを操作して、投影装置との接続を切ろうとした。しかし。
「どうなってるんだ、接続が切れない。」
ならせめてこの腕輪を外して……。俺は自分の腕輪のロックを外そうとするが。
「外せない。」
「そんなはずは……。」
そういって千草さんも腕輪を外そうと試みるが無理なようだ。
「千草さん、もしかして俺をはめたってことはないよな?」
「そんなつもりはない。私にもわからぬのだ。なにぶん、これを使うのが初めてで。」
「これ、誰も使ったことがないのか?」
「ああ、届いたばかりのものだ。」
お互い徐々に早口になっていく。
「このままじゃ。」
でもどうすればいいかわからない。この間にもノーデのノイズはひどくなり、呼吸が乱れていく。
「もし体調が悪くなったのならすまぬ。そういうつもりではなかったのだ。でも、こうなった以上、勝負をして終わらせるしか。」
今はそれしか手がない。俺もそうとしか考えられなかった。
「そうしよう。早く。」
「……うむ。」
予期せぬ形で勝負が始まる。
連載のいいところは定期的に前書きのような連絡が取れることです。
(悪いところは締め切りに追われること)
次回、9/2までに更新予定です。
よろしくお願いします。




