第37話 タイミング
今回もバトル回の続きです。複雑な展開かもしれませんが,作者もこれ以上のバトルは書けないと思ったほどある種一つの集大成になっているので是非読んでいただければと思います。
それでは本編です。
Turn 32
Issei 5pt Kanade 5→0pt
【〝counter shield〟Lv.5(S1)】
R××××× R〇〇〇〇〇
L××××× L●●●●●
「【いっせいのーで〝5〟】」
33ターン目、一誠の宣言。私が追加で指を上げて外れる。
「残念、数当ても予想済み。」
「7か……。」
「そして、私は確実に当てられる。【いっせいなで〝5〟】」
私は指が5本とも動かない右腕を抜いた。
「【〝タイムスリップ〟】」
一誠の判断が早い。左手を抜き、残った右手を一時的に全回復させる。
「その技を使うってことは、そこまで追い詰めたってことね。それにわざと私の片手を抜けさせて数当てをしやすくしようって魂胆なんだろうけど、それは通用しない。」
「どういうことだ?」
「知ってる? 雨なのに晴れてるって現象。天気雨とか狐の嫁入りとか言うんだって。」
「今、その話をするってことは。」
「そう、今から宣言する技はどうせ打つとわかっていても、今の一誠には避けられない。〝タイムスリップ〟するタイミング、少し早かったね。」
今から宣言する技は〝雨〟と〝晴れ〟を3回ずつ使用することで使える技。私の第2の切り札。
「【〝狐雨〟】」
上げている指には日差しが照り付け、下げている指には雨が降り注ぐ。〝雨〟と〝晴れ〟の同時攻撃。指を上げてようが下げてようが相手のすべての指は一瞬にして固まる。
「くっ。」
Turn 36
Issei 0pt Kanade 0pt
【〝sunny rain〟Lv.4(S1)】
R〇〇〇●●
L○○○○○
〝狐雨〟。
指を問答無用にすべて固める技。同じような技には〝ブラックホール〟もあるけど、それとの違いは
「【〝手術〟】」
で治せることだ。
しかし、今俺は大ピンチだ。
俺が〝ブラックホール〟を打って、カナデに防がせて〝ハーフゴッド〟を消滅させる、ここまではよかった。実際今、カナデを守っていた金色の壁は消滅してる。だけど、〝カウンターシールド〟で〝ブラックホール〟は跳ね返されて俺の指は死滅し、〝タイムスリップ〟の数当ても、貴重な1ターンをつぶされた。
それに俺は1か所しか動かない。こんな絶好のチャンス、カナデが逃すはずがない。
「一誠が動くのは今、さっき〝手術〟した小指だけよね。」
そういうとカナデは薬指以外のすべての指を上げる。
「私が言う数字が7だったら、一誠が指を上げないままなら負け。上げていれば、〝ツインパワー〟で5Ptが私にたまる。」
どっちに転んでも俺には不利。なんなら、こういっていることがブラフで8を宣言することだってありうる。
「常に一歩二歩、先を行かれてる、カナデはすごいよ。」
「そう、でも、これは経験、そして、対戦相手をどれだけ知っているかの差だと思う。」
「経験の差はわかるよ。でも、俺もカナデも今日会うのが5年ぶりだろ。そこに差はないと思うけど。」
「いや、鋭兄から聞いたこと、そして、今戦ってはっきりとわかるよ。確かに一誠は変わったところもある、でも、根本は変わってない。変わってないってことがわかった。」
そうか、俺は変わってない……。
本当にそうか?
カナデが次のターンの宣言を始めようと、口を動かす間に、今までの出来事が走馬灯のようによみがえる。
ノーデと出会って、頭の中で特訓して、鋭人と勝負したけれど、ノーデの力を借りた。近田先生の時も、俺一人では勝てなかった。力不足だった。
でも、この前のトーモの時は俺一人で勝てた。
「ノーデ、俺の強みって何だと思う?」
頭の中でノーデと勝負してる時にあいつに聞いたことがある。
『こだわりが強いところでしょうか。1つの技を何年も成功させようとするくらいですから。』
「それは昔からだし、空回りすることもあるから、強みって言いきれないよ。それ以外で。最近、やるようになったなとかないか?」
『そうですね。一誠って頭はいい方ですよ。』
「そうじゃなくて、この〝イセノ〟の勝負でだよ。」
『なら最近確信したことですが、一誠って……。』
「【いっせいなで〝7〟】」
カナデの声が回想を遮る。
Turn 38
Issei 0pt Kanade 0→5pt(T.P)
【〝7〟】
R〇〇〇●○
L〇〇〇●○
「なんとか、首の皮一枚つながったようだけど、一誠に勝ち目はほとんどない。次が〝タイムスリップ〟のラストターン。でも、私は一誠が数当てしようが、攻撃をしてこようが〝シールド〟1枚分持ってる。」
「つまり俺は数当てをしても防がれて〝タイムスリップ〟が終了、死滅した両腕が帰ってくる。」
「その通り。一誠が打てる手はもう残されていない。」
「そんなことはないよ。」
「どういうこと?」
「だってこのゲームは数当てゲームだろ。数を当てさえすれば勝てるんだ。」
その目、あきらめてない。何かある。
一誠は3本上がったまま、1本下がったまま動かない。あり得るのは3~9。
私はいくつの指を上げるべき?
こういうとき、私にはいつもあの数字がよぎる。幼い頃に一誠にあてられてからあの数字になるのは避けてきた。でも、今は……。
一誠は宣言しない、あの数は。
「【いっせいのーで〝7〟】」
Turn 39
Issei 0pt Kanade 5pt
【〝7〟】
R〇〇〇●●
L〇〇〇○●
「「当てた……。」」
俺とカナデの声がそろう。たぶん一瞬、俺もカナデも呆然として、そして我に返った。
「【〝シールド〟】」
まだ終わってない。
このターン、俺の〝タイムスリップ〟は終了、死滅状態の両手に戻る。でも同時に、カナデは5ポイントを失って0に。
このタイミングしかない。
さっきの回想の続き、ノーデは確かこう言っていた。
『一誠って結構、やり返すのがうまいんですよね。』
カナデのとっさの判断に賭けて。腕を振り上げて、放つ。
「【いっせいのーで〝雨〟】」
Turn 41
Issei 5→10pt(T.P) Kanade 0pt
【〝rainy〟Lv.1(S1)】
R×××××
L××××× L●●●●●
まさか、こんなことになるなんて。
〝ツインパワー〟、そして指は全滅。
少し気を抜いていた。一誠のポイントは〝タイムスリップ〟発動前に持っていた5ptに〝ツインパワー〟の5ptが加算されて、10ptになる。
おそらく一誠はこのタイミングを待っていた。〝ハーフゴッド〟がない今、〝シールド〟を張ってポイントを失えば、次のターンから私は丸腰。誰だって次の攻撃は避けたいと考える。
そして、一誠のあの腕を振り上げる動作。あれは一誠が〝晴れ〟を打つときによくやる癖。その動作を見れば、一誠を知っている人ならとっさに次は〝晴れ〟が来ると思って、どこの指も上げたくなくなる。
「してやられたわ。意図的にやったの?」
「なんとなく、でも、カナデなら俺の癖くらい知ってるかなと思って。」
一誠の変化を甘く見ていたかもしれない。
あの一瞬のチャンスを一誠は作り出した。素直に感心する。
「でも、一誠の指は〝ブラックホール〟、もしくは〝タイムスリップ〟の反動ですべて死滅状態、つまりどこも動かない。たとえ、〝シールド〟系の技でどれだけ防ごうが、すぐにポイントは尽きて、私の勝ち。」
それにこれは私の予想でしかないけど、一誠は〝ハーフゴッド〟を使えない。使えるタイミングはいくらでもあったけど使うそぶりはなかったし、〝ブラックホール〟で私の〝ハーフゴッド〟を強引に解除しようとしたのだから。私だったら、〝ハーフゴッド〟を張ってイーブンにする。
だから、この数当ては必ず当たる。
「【いっせいなで〝0〟】」
これで……。
ありえない。
一誠の指が2本上がっている。
「なんで動くの、一誠の指が。」
「〝ブラックホール〟の効果がもう終わったからだよ。」
「もう終わったって、このターンまではそんなはず……。」
私は一誠の放った〝ブラックホール〟を〝カウンターシールド〟で跳ね返し、一誠の指を5ターンの間、死滅状態にしたはず。
……待って、跳ね返した。
そう、私は跳ね返した。発動させたわけではない。
「〝ブラックホール〟そのものを発動させたのは俺の方だ。俺のターンで数えれば、ちょうどさっきの俺のターンが終了し終えたところで5ターンが経過して、〝ブラックホール〟の効果は切れていたんだ。効果が切れたら、俺の指は〝ブラックホール〟前の状態に戻る。」
そうか、ようやく理解した。
つまり、私が〝カウンターシールド〟に使った1ターン分、私を片手ぬけさせてから〝タイムスリップ〟したのもすべては〝ブラックホール〟が終了するための
「時間稼ぎしていたのね。」
私がやったこと、形を少しずつ変えてやり返されてるわね。
それにまずい、一誠には10Ptがある。もう一度、〝ブラックホール〟を打たれれば、今度は食らわざる負えない。
「でも、一誠が使った〝タイムスリップ〟の反動はあるはずよ。あっちは永久的な死滅状態。」
「だから、俺はこの5本の指を死滅させてる。」
一誠はそう言って、5本の指を上げ下げした。それを見て私はようやく理解できた。
「そうか、今の指の状態は……。」
Turn 42
Issei 10pt Kanade 0pt
【〝0〟】
R〇××××
L〇×●●● L●●●●●
〝タイムスリップ〟の反動の死滅箇所は選べる。それを最大限利用した。
「一誠の動く指はもう、親指だけ、まさか。」
「【いっせいのーで〝0〟】」
俺は数当てして右手を抜く。
「〝雷魔切り〟をしようとしているのね。」
その言葉が出てきたとき、俺は思わず聞きたくなった。腕輪に垂れ下がる技板のうちの1つをカメラに近づける。
「カナデ、覚えてる? この技のこと。」
「見えないよ、発動させてない技の技板は。」
「ああそうか。」
技板は技名を宣言しない限り、透明なまま絵柄が浮かび上がることはない。俺は使えない割に宣言しすぎて絵柄を覚えてしまっていた。
「まあ、たぶん〝雷魔切り〟なんでしょうね。忘れるわけがないでしょ。私があげた技板の技なんだから。」
「そうか、やっぱり覚えてるか。俺はこの技を使いたくて。」
俺は腕輪についてる技板を握りしめた。もう冬は明けたはずなのに、静電気が走った。
「そういえば、聞きたいことがあったんだ。なんでこの技の技板、俺にくれたんだ? 本当に俺が弱いから、ただそれだけなのか?」
「勝ってほしかったから。」
「えっ。」
「だってそうでしょ。一誠が勝たないと、私が離れるってこと言い出しづらかったから。でも、勝負に手を抜くってことはできなかった。私、そういうところはなんかこう、切り替わっちゃうのよね。それに……。」
「それに?」
俺は聞き返した。カナデは目線をそらし、口元を緩ませ、そして少し微笑んでいった。
「このゲームは二人いないと成り立たないの。私はね、おじいちゃんや無限の巫女さんがしていたような、最高の勝負をしたかった。」
本心からの言葉、そう感じた。
カナデのこだわり。もしかしたら、俺の考えてるよりももっと深い意味があるのかもしれない。でも今は考えるタイミングじゃない。
「まだ勝負は終わってない。このターンから数当てし続ければ、一誠は今持っているポイントを使わざる負えないから、〝あの技〟も打てない。」
「そうだね。」
俺が動くのは親指1本のみ。当てられる可能性も十分ある。
でも、これだけは確かだ。
終わりは近い。
「いっせいなで……。」
勝負もクライマックス、次回は7/29予定です。
よろしくお願いします。




