第38話 ともとして
7月も終わり、そしてこの話も……。
それでは本編です。
「それで、どっちが勝ったんです?」
2031年3月22日。入学前の事前登校日。近芽台中学校にて注文した制服やら、宿題の教材の配布やらが行われ、一段落がついたころに俺はナユユにカナデとの一戦のことを話した。そのとき、いの一番にされた質問だ。
「それが、わからないんだ。」
「わからない? 何かあったんですか?」
「映像が途切れてね。通信障害だと思うんだけど。」
「じゃあ、決着はつかずじまい? 別の時間とかに続きをやろうとかしなかったの?」
誰かが俺とナユユの背後にいる。この声の主を俺は知っている。顔を見れば思った通り。
「大数君。近芽台、受かったんだね。」
「うん、なんとか。近田さんは初めまして。」
そういわれたら2人は初対面か。
「初めまして。って言っても知ってますよ。私のいとこになりますから。」
「まあその、家の事情とか僕は気にしてないからね。それでさっきの話は。」
「ああ。その日は回線が復活しなくて。スケジュール合う日ってなってこんなメールが送られてきた。」
そういって俺は自分のリングのメールの画面を2人に見せた。
―――勝負の最後、私の言った数字は……。
たぶん近いうちに日本に行くから、その時にまた連絡する。
後から思えば、まだまだ話したいことはいっぱいあったし。
直接会って言いたいからその時に―――
「へえ、カナデさんこっちに来るんですね。いつかは聞かされていないんですか?」
「うん、まだ。」
「じゃあ、それまで勝負の行方はわからずか。でも聞いた感じ、九山君が勝ちそうだったけどな。」
「いやいや、カナデも数当て連続成功させるかもしれないし、勝負は何が起こるかわからないよ。でもまあ、俺としてはほっとしてるんだ。」
「カナデさんに会えたから?」
「それもあるけど。いい勝負ができたからな。」
その帰り、電車の中。俺とナユユだけが椅子に座っている。大数君は車で送迎のようで学校で別れた。
「まもなく、北福ノ山、北福ノ山、お出口は……。」
ワンマン電車のアナウンス。電車は減速し、やがて止まる。電車の扉と設置仕立てのホームドアが開くと俺たちは下車した。直後、黄色い電車が駅を通り過ぎていく。
俺たちは今日もらった制服やら教材を詰めたカバンを片手に、ホームから七、八段しかない階段を下る。無人の改札、その改札機に腕輪をタッチして通り過ぎると、もう駅の出口だ。
ここから俺とナユユは向かう方向が違う。
「じゃあ、ナユユ。次は入学式の日かな。」
「はい。」
「じゃあ。」
「九山君。」
ナユユは駐輪場に向かおうとする俺を引き留めた。
「最近私も、パパに〝イセノ〟教わり始めて。入学までにできるようにしておくので、その時は、勝負してくれませんか?」
「もちろん。」
俺の言葉を聞いた彼女は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また。」
「うん。」
こうしてナユユと別れた俺は駐輪場に向かった。そこで止めてある自転車のかごと後ろの荷台に荷物を載せる。
俺はそのまま、神杉神社に直行した。
小学校を卒業してから、あの神社の近くを通っていない。中学の通学ではあの周辺はルートから外れてしまう。ただ、今日は用事がある。
「工事、終わったんだ。」
被さっていたシートはもうない。赤く塗りたての鳥居がお出迎え。この先は石の階段が続いている。俺はそばに自転車をとめて、あいつが来る前に参拝することにした。鳥居の前でお辞儀して、右端を歩いていく。
階段の手前で、一人、下りてくる人がいた。お参り帰りかな。金髪で俺と同じくらいの背丈の女の子。よく見たら、俺と同じ学校の制服,俺と同じ学校のカバンをリュックサックのように背負っている。
俺は思わず立ち止まった。近づいて来るうちに、ぼんやりとしていた顔がはっきりと映ってきて、やがてその子と視線が合った。
「一誠!」「カナデ!」
鳥居を隔てて、俺とその女の子はお互いの名前を声に出している。
「約束の時間より早いね、それにその恰好。」
「ふっふっふっ、サプライズ!」
カナデはにやけながら、手を大きく広げていった。
「親の海外出張も終わってね。また日本にしばらく住むことになったの。そして一誠と同じ中学に通うよ。帰国子女枠? みたいな。制服は一足早く着てみた。」
「……本当に。それはサプライズだね。でも、鋭人のとこじゃないんだ。」
「ああ、鋭兄は私に対して、いろいろ面倒くさいからね。」
それは何となく想像がつく。
「それで、今日は?」
「この神社には実はこれを取りに来て。」
そういうとカナデは左薬指にある指輪をちらつかせる。
「十指選の指輪か。」
「そう、これで晴れて私も正式に十指選の一員ってわけ。あとはやっぱり、これかな。」
カナデはグーの形をした手をくっつけて言った。俺とカナデにはこれで伝わる。
「勝負の件なんだけど、もう一回やり直さない?」
えっ。
「負けそうになったからやり直すのか。」
「あの試合は……、私の負けでいいよ。」
「えっ、ええ。本当にいいの?」
「だって最高の勝負ができたし。」
カナデは満足げに言った。
『目標達成しちゃいましたね。』
目をぱちくりさせてる間にノーデがつぶやく。
「まあ、少し拍子抜けというか、物足りないところはあるけどな。」
せめて〝あの技〟を打つところまでは行きたかった。そして気になることがもう一つ。
「じゃあ、メールでも行ってたけど、あの時どの数字を宣言しようとしたかくらい、教えてくれないか。」
「うーん、それは一誠が私よりも強くなったって確信したときに発表してあげる。」
「ええ、一回勝ったんだよな、俺。」
「まぐれかもしれないし。一誠はまだ大会で結果残してないでしょ。でもそうね、前の一誠との試合は、私の今までの試合の中で第10位くらいには入るかな。」
カナデは自分の指を折って、思い出しながら言った。
「そこは1位とかじゃないんだな。」
「さすがに、世界には私よりすごい人がごろごろいるし、その人たちに比べると一誠はまだまだ未熟。前の試合でも、私には通じてもほかの人には通じるかはわからない。」
「それもそうだな。」
「でも、私とあれだけいい勝負ができた一誠なら、きっと世界大会とかでもいい線行くんじゃないかな。」
「俺が……。さすがにそれは言いすぎじゃ。」
「言いすぎてないよ。」
カナデのここぞ、って時の何かを確信しているような眼。
「まあ、私もどんどん強くなるから私が一誠強いって認めるまでは教える気はないし、たぶんこれから教える機会は一生来ないでしょうね。」
「大きく出たね。」
でも、目標は高ければ高いほど、追い求めていく価値がある。
俺は自分より数段上にいる彼女に憧れている。そしてそれ以上に。
「ノーデ、新しい目標出来たよ。」
『だいたい想像つきますが、聞きましょうか。』
好敵手として。
「カナデに並び立てるくらい強くなって、いつかカナデと最高の試合をして、俺の強さを認めさせる。ついでにあの時の数当ての数字を教えてもらう。」
『本当にそれだけですか?』
「お見通し、てか。」
こいつに隠し事は無理だな。
「いつか、最高の形でカナデに勝てて、それでその時にも気持ちが変わらなかったら、俺は伝えるよ。好きだっていう気持ちを。」
途端にノーデはふわりと浮かんで、急に俺の頭を撫でてきた。
『偉い、青春ですね。』
「お前のそういう一面はまだ慣れないな。」
『まあ、人生何が起こるかわかりません。新しい出会いや気づきで気持ちが変わるということもあるでしょう。果たしてどこまでその気持ちを持っていられるか。』
「でも、ノーデも知ってるだろ。俺はあきらめが悪いんだ。」
『納豆のように粘着質でしたね。』
「それは一言余計だ。」
頭の中でノーデとそんなやり取りをして、瞬きをやめた。
「じゃあ、一誠、真の決着をつけるとしますか。ああもちろん、通行人の邪魔にならないようにちょっと脇の方で。」
「今日も負けないよ。」
「それはこっちのセリフ。」
さて、一誠の脳内空間。私ノーデはつぶやきます。
『目標を達成するまでは、私もいなくちゃですね。』
一誠がこの先、勝つことができるかはわかりません。が、これだけは言えそうです。
2人はここからスタートするということが。
「『いっせいのーで』」
とりあえず3章は終了、あえてカナデ戦の本来の決着は読者の想像にお任せします。
(といっても今後の展開次第で「あれ、もしかして。」みたいなことはあり得ます。)
ちなみに本来はこの話をもって最終回予定でしたが、余裕で書き足りないのでもうしばらく週一で続ける予定です。
次回は8/5予定で設定集です。(これで作中の勝負みたいに時間稼ぎします。)
よろしくお願いします。




