第34話 5年前から今まで
もう7月か、早いですね。作者も夏ばてしないよう頑張ります。
それでは本編です。
5年分の近況報告。カナデが先に切り出す。
「じゃあ、まず私から。っていっても最初に言わなきゃいけないよね。」
「なに?」
「一誠ごめんね、何も言わずに転校しちゃって。」
カナデは目線を下にそらしながら言った。スピーカーから聞こえる声は暗い。
「いや、俺の方こそごめん。俺が変な意地はって、転校のこと、勝負に勝てたら教えてくれないかって言ったから。」
「でも、話すべきだった。ずっと謝りたかったの。でも、転校してからこっちの言葉や環境に慣れるのに必死で、気づいたらタイミング見失ってたというか。連絡先もわからないし、何より、時間が経つうちに一誠が私のことを覚えているのか不安になって。」
今わかった。
カナデも俺との別れを気にしていたんだ。俺のことを覚えていたのも、たぶん幼い時に遊んだからってだけじゃなくて、後悔の念もあったんだろう。
「忘れるわけないよ、でもやっぱり兄弟だな。鋭人も謝ったし。」
「あの、毎回嫌味を言ってくる鋭兄が?」
「うん。まあ、詳しく話すと鋭人の見る目変わっちゃうかもしれないからあんまり言わないけど。」
カナデは嫌味としてとらえてるけど、根はシスコンだからな。嫌よ嫌よも好きのうちってことだ。
「俺としては、カナデが転校前に元気がなかった理由がわかってよかった。できれば、勝負で勝ってから知れたらよかったけど、こうやって話せてよかった。」
「私も。」
「俺もカナデと別れて後悔してたんだ。でも、どうすればいいかわからなくて時間がたって。カナデから教わった〝イセノ〟も変にこだわって勝てなくて。受験勉強とかいろいろやることが増えてきて。そんな中で鋭人にあった。」
「ああそうだ、事故にあったって聞いたよ。大丈夫だった?」
「うん、今は。それに半ば俺のせいで起こった事故だし。でも、鋭人に会ったときカナデのことを聞けるのは今しかないって思っちゃたんだ。で、勝負に負けちゃって。」
「でも、リベンジはできたんでしょ。鋭兄悔しがってたな。」
「カナデもすごいよ、世界3位でしょ。」
「去年は調子よくてね。それに世界って言ってもジュニア部門、12歳までの子しかいないよ。」
「それでも、すごいよ。確か十指選にも選ばれてたし。」
「そのことも知ってるんだ。まあ、まだ正式ではないんだけど。そんなにほめてもらえると、悪い感じはしないかな。」
カナデは顔を赤らめて、手で頭をかきながら言った。
「私は三年前くらいから大会には出てたんだけど、結果は予選どまり。でも去年は初めて予選を通過して、決勝リーグに進めて。オンライン中継とかもされてる中で、自分がプレーしているのがうれしかったな。運よく準決勝まで勝ち残れて、自分のベストを出せたと思う。」
カナデは嬉しそうに語った。カナデもいきなり結果が出たってわけじゃなくて、彼女なりに努力した結果だったんだろう。
「ところで、私の試合とか見たの?」
「いやあ、そのころはまだカナデが大会出てるって知らなくて。PCとか、この腕輪とかも持ってなかったから見れてないんだ。大会の雰囲気とかどうなの。大勢の前でやるとさ、緊張とかしなかった?」
「確かにステージの周りに観客がいるのは普段とは違うけど、私の場合、緊張よりも喜びが上だったかな。なにせ世界大会の決勝は毎年、ソロバンって場所で行われてるんだけど、そこはおじいちゃんと一緒に何度か行ったことがあって、大会も観戦したことがあったから。」
「そういわれたら、毎年夏はカナデ、海外旅行で三日くらいいないときがあったね。」
「おじいちゃんが大会の運営委員で毎年参加してて、付き添いで行ってたの。おじいちゃん、昔は福ノ山市で一番強いって言われた人みたいで。」
「へえ、そういえば昔、〝イセノ〟はおじいちゃんから教わったとか言ってた気がする。」
「そう、かなり強かった。全盛期はほんと凄かったらしくて。今でこそ、十指選って復活したけど、平成の頃は10人もそろわなかったらしいの。私のおじいちゃんに並び立てる人が3人しかいない時期もあったんだって。」
なるほど。だから、俺は十指選って言葉すら知らなかったわけか。
「まあ、私が生まれた頃はもう、無限の巫女さんに勝てなかったみたい。それに勝負よりも、〝イセノ〟を世界に広めることに尽力してたらしくて。その割には、私には手加減なしでぼこぼこにされてたなあ。」
カナデさんは懐かしそうに語った。カナデにもいい師匠がいたから、強くなれたんだな。
『やはり師匠は大事ということですね。』
腕を組んで自慢気なノーデ。なんかツッコミたい気もしたが、俺をここまで導いてくれたのは間違いなくノーデのおかげだ。
「ノーデにも感謝してるよ。」
そう脳内空間で言っておいた。
「でもね、おじいちゃんは5年前に死んじゃって。」
「えっ、そう、なんだ。」
「ちょうど、私が日本を離れることになった時。暗い話になるから今まで話すの避けてたんだけど。結構世話になったから、あのとき、整理がつかなくてね。おまけに、うちと今の横尾家との関係も悪くなって、結果的に私たち家族は移住することになったの、ソロバンに。」
「ソロバン、って大会やってる場所だよね。」
「そう、大会関係者のつてでね。で、そこでいろんな人と知り合って、今もこうしているわけ。ちなみに横尾家との関係は、今は良好だから。」
まあ、連絡とりあえるくらいだしな。
そして、5年前から今までの全貌がわかった。カナデは、俺の想像してたよりも大変な中で頑張ってきたんだ。
「さて、私は話したよ。次は一誠の番。」
「えっ、俺。さっき、ほぼ話したよ。」
「本当にそれだけ? 〝イセノ〟で鋭兄や友達の湯田君に勝ったって聞いたよ。こんなこと言っちゃ悪いけど、一誠昔はそこまで強いってわけじゃなかったよね。でも、今では私に勝負を挑めるくらいになっている。つまり、何か変わるきっかけがあった。」
す、鋭い。あと絶対、情報のソースは鋭人だな。
「何か秘密の特訓でもした?」
「秘密の特訓……。睡眠学習かな。」
「なにそれ。」
「夢の中で神様からお告げをもらったり、その神様と勝負したりしてちょっと強くなったかな。」
カナデは俺がボケたと思って笑ってるけど、間違いではない。
『私を神様といいますか。』
ノーデよ、あくまで例え話だ。
「俺の話はこれだけだよ。」
「そう……。」
カナデは怪訝な顔をする。お互い見つめあって、数秒の沈黙。
『私のこと、話さないのですか?』
ノーデが頭の中で呟いた。確かにカナデには全部知ってほしいけど。
「まだ話すのは社会的にもグレーゾーンだし。カナデはまだここで会ったばかりだし、あいつの場合、すぐに周囲に話すかもしれないし。」
それに、カナデにこういう話は向かない気がする。少なくとも今は。
「湿っぽい話は無し。ちょっとずつ、ちょっとずつでいいんだ。いつか、お前のことをちゃんと話せるようになる日は来るよ。きっと。」
ノーデは浮いて、俺の頭に手を乗せる。
『一誠も十分成長してますよ。』
「ありがとう。」
目を開ければ、カナデは先に話したいことは言ったって表情で、俺も同じ。一瞬目を閉じて、頭の中で深呼吸。
『始めるのですね。』
ノーデの言葉に俺はこくりと頷いて、再び目を開ける。
「そろそろ、〝イセノ〟やろうか。今日の俺は本気で勝ちに行く。だから、カナデも全力で勝負してほしい。」
カナデは笑顔で答えた。
「うん、全力でやろう。」
サブタイトル、よく考えれば作中で半年経過してるから5年前ではなく5.5年が正解です。(まあそれも5年前っていう人いると思うから許容してください。)
次回は7/8、といいたいところですが予定があるので、7/8までに前もって更新します。
7月中で3章終われるかな……。
よろしくお願いします。




