第21話 天使の最期
今回でバトルは決着します。毎度の注意ですが、相変わらず視点が一誠とノーデを行き来してます。
それでは本編です。
ノーデは宣言する。
『【いっせいので〝1〟】』
Turn 31
Issei 10pt Fukashi 0pt
【〝1〟】
R●●●●● R〇●●●●
L●●●●●
「当てられたか。だが……【〝手術〟】。」
マスターは薬指を治しました。私は左手を抜きます。
『マス、いや近田先生。あなた今、本当は何を思っているのですか。』
「本当、はというと?」
『ナユユさんの進路を決めるためということを思って戦っているのですか?』
マスターは考え込むように黙りました。そして、冷静に今の自分を分析したのでしょう。
「このゲームは由多が死んだときは本当にやる気になれなくて、いつのまにか封印していた。しかしこの、奈湯の進路を決めるための闘いではあるが、今はそれを抜きにただ勝とうとしている。楽しんでいるんだろうな。自分の気持ちに素直になれなかったのは奈湯ではなくむしろ私の方かもしれない。」
マスターがほんの少し笑っています。
「パパ……」
どうやらナユユさんにもマスターの考えが少しだけでも伝わったようです。
『なら、よかった。私も目覚めた甲斐があったというものです。その気持ちを思い出してくれたのなら。』
「まさか、お前は……。」
マスターは今の私がAIのほうだと察しましたね。
『ただ、勝つのは私たちです。』
そろそろ思いつきましたよね、一誠。戻りますよ。
私は閉じていた右目を開けました。
「【いっせいので〝快晴〟】」
Turn 33
Issei 10pt Fukashi 1pt
【〝clear sky〟Lv.3 (S3)】
R●○○○○ R〇●●●●
「自分の指4か所を固めた?」
近田先生は戸惑ってる。それもそのはず、俺が親指以外をすべて固めたからだ。
しかも使った技は〝快晴〟、晴れを5回使うたびに一度だけ使える技で攻撃力は〝大雨〟同様のS3。近田先生が食らえば〝ゴッドウォール〟があるから普通の〝晴れ〟だが、俺が食らえば3回〝手術〟しないと治せない、強力な〝晴れ〟。
「私の〝白衣の天使〟で〝手術〟できないようにするため……か? しかし、なぜ?」
近田先生は俺の指の形を見つめて、冷静に考えてる。
「そうか、君の真の狙いはあの技の発動条件を満たすためか。もしそうなら君の次のターンが来れば君の勝ちになる。」
そしてもう、俺の意図を読み取るとは。
「「あの技?」」
母さんとナユユはわからないみたいだけど。
「でもそれは君に次のターンが来ればの話だ。」
そう。今俺は親指1か所しか動かない。もし次に先生が数当てで当てたら、俺は〝シールド〟で防ぐしかなく、同時にあの技に必要なポイントを失う。そうすれば、もう俺に勝ち目はほぼ残ってない。
選択肢は5か、6。二つに一つ。
「【いせので〝5〟】」
Turn 34
Issei 10pt Fukashi 1pt
【〝5〟】
R〇○○○○ R〇●●●●
「よし。」
一誠は右手を頭上まで上げて手刀を作ります。それまで光ることのなかった一誠のお守りの技板が光りだし、右手は青白い光に包まれ、紫の稲光を纏います。
「近田先生、知ってますか? 〝シールド〟は張らせて割る、らしいですよ。この〝ゴッドウォール〟もそう。」
「その構えは……やはり。」
「やっとだ。」
やっと、使えましたね。
「【〝雷魔切り!〟】」
一誠は思い切り右手を振り下ろしました。その手から放たれた紫の斬撃はマスターの光の壁を破壊し、マスターをすり抜け、先生の背後にいた〝白衣の天使〟を真っ二つにして、光の塵に変えていきます。
「これが俺の憧れた勝ち方です。」
マスターは拳を握りしめ、悔しさをにじませます。
「不可志さん。」
不意に、その場にいた全員が目を疑いました。立体映像である天使が言葉を発したからです。
「ありがとう、私のわがままを聞いてくれて。」
幻聴? いや、これはおそらく生前の由多さんが残したメッセージでしょう。ここまで見通して特性を使って負けたとき作動するようにプログラムされていた。
天使はその後、跡形もなく消えていきました。
「由多……」
マスターは天使がいた箇所を呆然と見つめていました。そして、足から崩れていき、床にかがみこんで、静かに泣いていました。
まるで、私の記憶の断片にあった、由多さんの最期のときのように。
ほんの数秒、誰も動かず、言葉を発しません。ただ、窓の外の銀世界に晴れ間がさしていくだけ。
「私の負けだな。」
マスターは自分の敗北を受け入れたようです。
「九山君が勝ったんですか?」
「そう、みたいだけど。どうやら数当て以外の方法で勝ったみたいね。」
五月さんとナユユさんは我に返り、何が起こったのか把握できていない様子。
「さっき一誠君が放った技は〝雷魔切り〟だ。レベルは7、攻撃力はS3で防げる技はほとんどない。使用条件は親指のみが動く状態で〝手術ポイント〟10ptのコストがいる。効果は、片方の手を強制的に抜くことができるというものだ。」
マスターが二人に解説します。やはり一誠が〝あの技〟を使うのを察していたのですね。
「そう、その技で俺は片手抜けして勝てたんだ。にしても、さっきの映像は……」
「なんだったろうな。夢、いや幻か、それとも由多が残したメッセージか。でも、なんだかすっきりしたよ。肩の荷が下りたみたいだ。」
「とにかく、一誠が勝ったということは……。」
五月さんはマスターに視線をやります。
「もう一度、確認しよう。奈湯、広王大に行く気はないか?」
マスターも一誠と同じでしつこいですね。
対するナユユさんも決意は固まったようです。
「私は、九山君と一緒の近芽台に行きたい。そのために今まで頑張ってきたから。最後までやらせてほしい。」
はっきりと、口に出しました。
「そうか、なら好きにしていい。ただ、国立枠で一応広王大も受験することにはする。また気が変わるかもしれんしな。あと、勉強は最後まで怠らずにやれ。近芽台にしろ、広王大にしろ難しいところに変わりはない。」
「うん。ありがとう、パパ。」
和解、できたようですね。
「何とかなったならよかったわ。」
「本当、あとで担任の先生に伝えておかないとな。」
九山家は安堵の声。ナユユさんも嬉しそうにしています。マスターはというと、一誠をじっくりと見つめて言います。
「一誠君。」
「はい。」
「〝雷魔切り〟は由多がよく使っていた。そして君がさっきその技を打つ姿が、生前の彼女と重なって見えた。君の中には由多の一部があるからかもしれないが。」
腕輪を外したマスターは一誠に問いかけます。
「君にとって、〝イセノ〟とは何だい?」
一誠は目を見張りました。既視感。それは最初に一誠と勝負したとき、私が問いかけた質問でもあります。
「ノーデ、どう答えればいいんだろう。このゲームがあったからカナデと仲良くなれて、鋭人や近田先生の内面も知ることができて、なによりお前と出会って生き返ることもできたんだ。」
『一誠、今言ったことすべてが答えです。それを一言にまとめればいいだけですよ。』
一誠は答えます。自信に満ちた声で。
「俺の生きた証、ですかね。」
戦いも終えて、ナユユの件も一段落ついた。
「担任の先生を待たせているし、私たちは懇談に戻ります。」
「そうですね、またいつかお話しできる機会があれば、またお話ししましょう。その、人工知能の話とか、秘密を共有する仲として。」
「一誠君の頭のチップはくれぐれも内密に。法に触れるギリギリなので。」
「わかっています。」
親同士こんな会話をしていた。
「お互い、まずは目の前の受験、頑張ろうな。」
「はい。九山君も、頭の中のノーデさんもお元気で。」
俺とナユユはそんなやりとりだった。
空き教室の照明を消して、各々分かれる間際、近田先生は言った。
「帰る前に、一誠君。何か人生の目標を設定したかい? その、ノーデという人工知能に言われて。」
「はい。昔、友達だったカナデに勝つって目標立てて、まだ会えてないんですけど。今度、受験が終わったらリモートで話そうってなってて。」
「じゃあ、その時にその目標は達成されるのかい?」
「わからないですけど、俺は勝つつもりでいますよ。」
「そうか。なら、君の頭の中で相談するといい。目標を達成した後の話を。」
近田先生は悲しみが混じったような声でこう言って、ナユユとの面談に戻っていった。
「私たちも帰りましょうか。」
「うん……。」
俺は気になった。嫌な予感がした。そして、そういえば聞いてなかった。普通真っ先に確認しなきゃいけないことなのに。
俺は暗い教室から出る前に一度目を閉じた。
「ノーデ、もし俺がカナデに勝って目標を達成したら、お前はどうなるんだ?」
『私ですか。』
ノーデはにこりと笑った。少し俺はほっとした。
俺の杞憂だったんだなって。
「消えますよ。」
はい、無事切りのいいところまでかけたので、今回の話の最後のように僕も一週間消えようと思います。
ちょっとこの先変えようかなと思うところがあって。
続きは気になるかもしれませんがご容赦ください。
次回は4/1を予定してます。引き続きよろしくお願いいたします。




