第17話 決意
本日もよろしくお願いします。
「ノーデは、由多さんの生まれ変わり、ってことですね。」
「そういうことになるね。」
一誠とマスターとのやり取り。
今までの私の行動も、単なる由多さんの模倣ではなく、彼女の行動そのものだったと考えれば、私が多少感情的になるのも、一誠の気持ちを理解できるのもうなずけます。
「私はね、心の内側では由多が帰ってくるのではないかと思ったのです。でも、一誠君の話を聞く限り、彼の頭の中でしか会うことができず、姿かたちも変わっている。それに当然、記憶も引き継いでいるわけではない。淡い期待だった。だから、踏ん切りをつけました。由多はもういない、だから私が奈湯を立派に育てていくしかないと。」
奈湯さんの本題に戻ってきましたね。
「でもそれはナユユの自由を奪うことにもなりますよね。」
「一誠君、君の言うとおりだ。しかし由多は最初から一族の掟や、運命といったものに縛られてそこから逃げ出し、そのせいで死んだ。そう考えてしまうと、成長していく奈湯が由多と似てくるたびに、由多と血のつながった奈湯にはそうさせたくないと思うようになった。いつか不吉なことが起こるかもしれない。だからちゃんとこちらがレールを敷き、そこに素直に従わせるほうがよいのではと。」
マスターの意図はわかりました。
「それはナユユの意思じゃない。先生の意思だ。俺はナユユに聞きたいんです。本当に志望校変えるほどの何かがあるかを。」
一誠は頑固ですね。ナユユさんだけを見つめています。
「俺はさっきの懇談が本当にナユユの意思なら、それはそれでいいと思うんです。ただ、なんていうか、友達としてそうは思えないんです。」
「懇談の内容、私は知らないのだけれど?」
「ナユユが近芽台いくか、広王大いくかって話。」
ざっくりいうと、そうなりますね。五月さんにはそれだけでは伝わってない様子ですが。
「正確には広王大の推薦を受けて入学するかって話ですけど。推薦はほぼ落ちることはないでしょう。それで、奈湯、お前は広王大に行ってもいいんだろう?」
聞き方がもう、確かめるだけのものですね。これではナユユさんも反論しにくい。
「私は……広王大に行ってもいいと思ってます。」
「ナユユ……。」
「九山君、それにここにはいないけど湯田君にも、今まで話せなくてごめんなさい。もともと近芽台目指してたのは、私立で一番評判のよくて、ママが行ったところだからって理由で。でも広王大も一番難しい国立のところだからむしろそっちのほうがいいとも思ってて。それにさっきのママの話は聞くのが初めて、ううん、私が聞くのが怖かった。パパがいつもママのことを語るたびに暗い、険しい顔をするから。パパはほかの子が遊んでるゲームや漫画やいろいろな娯楽をあまり私にはするなと厳しくいって、もちろん何でって気持ちもあったけど。それ以上に言われたことをやっていれば喜んでくれて、うれしくて。今回も……。」
「今回も、って。」
嘘ではないでしょう、だけどそれはナユユさんの一面です。彼女は自分の気持ちに真に向き合っていない。
「それに九山君が事故にあって助からないかもしれないって聞いたとき、私はパパに必ず助けてってお願いしたんです。初めてでした、あんなにお願いしたのは。だから、パパも無茶して九山君を救ってくれた。だから、私はパパの言う通りにするほうがよくて、それで。」
「言っただろ、奈湯とは合意の上だと。わかってくれたかな。」
一誠は黙りました。そして瞬きをし、この脳内空間にやってきます。
「俺の、思い違いだったのかな。それに俺の手術もなんていうか、ナユユの決断に影響与えてるみたいで。」
『一誠、ナユユさんも決意して懇談に来ているのです。そう簡単に揺らぐことはありません。』
「そうか……。」
一誠は肩を落としてため息をつきながらぼやきます。
『一誠は思い込みが激しいですからね。それに離れたくないのは一誠のほうなのでは?』
「思い込み激しくて悪かったな。」
一誠の表情は不機嫌そうですが、徐々に悲しみが勝ってきます。
「それにお前の言う通りだ。たぶん、カナデの時と重ねちゃってるだろうな。突然目の前から消えるってことが怖いんだ。」
これも、一種のトラウマですか。
「でも、ナユユが決めたことなら……。いい、の、かな。」
一誠の目が潤みだし、でもそれを必死にこらえようとしています。
はあ。
『100パーセント、ナユユさんが広王大に行くかどうかはとなると話は別ですがね。』
「えっ。」
一誠の目の輝きが戻ってきましたね。
『彼女も迷っているのです。行ってもいいと思っているだけできっぱりと断言しませんでしたから。』
「やっぱり、そうなのかな。」
『彼女の本心で広王大と近芽台、どっちの思いが強いのか、確かめる必要はあると思いますよ。ただ今はマスターに逆らうのが一つの壁になっています。このままでは現状は変わりません。彼女の心を揺さぶるような言葉でも言わない限り、無理でしょう。』
「そんな言葉、俺には言えないよ。少年漫画の主人公じゃないんだからさ。」
『別に一から作り出す必要はありません。引用、すればいいのです。』
「引用?」
『誰かの言った言葉で、心に響きそうなものをそのまま言ってみるだけでいいんです。さあさあ、これ以上は目のつむりすぎです。目を開けて、はい。』
また、せかしちゃいましたね。
「そんなの、わからないよ。」
「九山君、まだ、わかってくれないのか。君はあきらめが悪いね。」
そういえば、瞬き前はそういうやり取りをしてましたね。
「なにせ、納豆みたいに粘着質ですから。」
そして五月さんに対する一誠の評価は毎度それなのですね。
「え、いやナユユのことはわかりました。わかったんですけど……。」
一誠はすぐさま目を閉じて。
「なんて、いえばいいんだよ、ノーデ。」
また来ましたか。口笛でごまかしましょうか。
「せめてヒントでも。」
手のひら合わせてお願いポーズされると、うーん。でも、ここは。
『自分で考えてください。』
「そういわずに、キーワード……。」
『自分で。』
それ以上は言いませんよ、察してください。
「そうか――。」
「困難を乗り越えた先に、新しい自分がいる。」
「それって。」
「由多さんが言ってたって前、ナユユが教えてくれた言葉だよ。でも、今のナユユはさ、困難を乗り越えようとしてる?」
一誠、主人公らしいこと、言えるじゃないですか。
「九山君……。」
ナユユさんは一度うつむいて、顔をあげていいます。
「ありがとう。」
そのあと、彼女はまっすぐマスターを見つめました。
「パパ、正直に言うね。今まで近芽台目指して勉強してきて、友達ができて、それを今更あきらめたくない。それに九山君たちと離れたくない。」
「奈湯、気持ちはわかるが、広王大のほうが絶対将来いい。この福ノ山で一番難しいところで、大学の附属中学だからいろいろな経験ができる、個性豊かな学生がいる、学費も国立だから安い、それに私の行ったところだからアドバイスもできる。」
「先生、近芽台にナユユを行かせたくない本当の理由は由多さんの行った学校だからですか?」
「……。」
一誠がおそらくマスターの一番言われたくない部分を突きました。変なところは鋭いですね。
「そうかもしれない、いやたぶんそうだろう。でも、だからこそ譲れない。由多と同じ道を奈湯にたどってほしくない。」
「パパ、やっぱり、だめなの。」
「私は、そう決めたんだ。」
マスターも頑固ですね。これは、並みの説得では折れない。
「なら、〝イセノ〟で勝負して決めましょう。」
五月さんが提案します。
「互いに譲らない、そういう時は〝イセノ〟で勝負して物事を決める。この町では古くからそうやってきたんでしょう。」
「〝イセノ〟……私はやりません。あのゲームは……。」
「俺に勝てないとでも思っているんですか?」
挑発しますね、一誠。それに、技板を腕に巻いて、やる気満々じゃないですか。たぶん五月さんも一誠が〝イセノ〟だったら飛びつくだろうと、分かってて提案しましたね。
「私はこのゲームが嫌いなんだ。このゲームをするたびに由多を、あのときのことを思い出すんだ。」
「パパがやらないなら、私がやる。」
ナユユさんは手首のあたりを握りしめながら言います。制服の袖の下に隠れて見えませんが、もしかして彼女が身に着けているのは――。
「何言ってるんだ、奈湯。さっきと言動が矛盾している。一誠君が奈湯の推薦受験を取りやめさそうとしているのは奈湯のためを思ってのことだ。奈湯がやる理由はないだろ。」
「うん、でも、広王大中に行ってみたい気持ちもないわけじゃなくて……だから、ここで決めたいの。それに、私も〝イセノ〟をやってみたい。」
感情が高ぶったのか、ナユユさんは少しだけ手を上げて言います。そしてその拍子で袖がずれ、彼女の身に着けていたものがあらわになりました。
「その、腕輪は――。まだ持ってたのか。」
マスターの視線の先はナユユさんの青い腕輪。
「その腕輪、もしかして。」
「ママの腕輪。ママが死んだあと、パパが処分しようとしたごみから拾ったの。ママが巫女姿になるとき必ずつけていたの覚えてて。今は、大事なことを決める時の私の大切なお守り。私にはまだ少し大きいけど、これで。」
「いろいろ言いたいことはあるが、今はよそう。それよりも奈湯、使い方は? それに〝イセノ〟のルールわかるのか?」
「なんとなくは。技板もあるし……やってみたいの。」
ナユユさんはプレートを何枚かマスターに見せます。見たところ少し古い型のようなので、腕輪と一緒に拾ったものでしょう。
マスターはナユユさんの顔を無言で見つめ、一誠はその二人を交互に見て様子を見ています。
「忘れようと思っても、そううまくいくものではないな。」
やがて悟ったのか、マスターは口を開きました。
「私と一誠君が勝負する。奈湯はよく見ていなさい。いつか、せめて受験が終わったころ詳しく教えよう。今日は特別だ。」
「パパ……。」
ナユユさんは嬉しそうな声を出しました
「私はこのゲームをしなくなって五年立つ。そして今日使う技は由多のもの。多少もたつくかもしれないが、それでもいいか。」
「望むところです。」
「なら、決まりだ。」
マスターは技板をナユユさんからうけとり技を確認すると、腕輪の外側の輪に技板の通し穴を合わせて入れていき、手首に腕輪を装着。時間にして10秒、慣れた手つきです。
「これで準備完了だ。先攻は一誠君でいい。手早く済ませよう、こんなゲーム。」
マスターはぶっきらぼうに言います。マスター自身がこのゲーム自体を嫌悪してる気持ちがにじみ出た言葉なのでしょうが、一誠はなめてられていると感じているようです。
「ノーデ、できる限り俺一人の力で戦いたいけど、これはナユユの未来もかかっている。だから、やばいなと思ったら言ってくれ。お前と交代する。」
『今回はそのほうがいいですね。それに、一誠よりも私のほうが関係ありですから。了解です。』
私と一誠はそんなやり取りを脳内空間でしました。
さて、試合開始です。
さて、やっとバトルに入れます。
ちゃんとスマホとかでも表記うまくいってるかチェックして載せます。
次回は3/22です。




