第16話 由多の最期
今更ですが、作者名は乙島仟です。
よろしくお願いします。
ここからは私、ノーデの勝手な再現です。
病室のベッドに横たわる由多さんと、その横に座ってイライラした表情を浮かべたマスターの押し問答。
「なんで、この手術のこと言ってくれなかったんだ。」
「だって、あなたは反対するでしょ。」
「当たり前だ、こんなわけのわからない手術はやめるべきだ。体への負担が大きすぎる。」
「そうでしょうね、余命あと半年くらいなところが、一か月くらいになるでしょう。」
「わかってるならなおさらやめよう。今からでも遅くない。」
「それはできないの。」
「どうして! なんでそこまでこの手術にこだわるんだ。」
「今の私が生きた証を残せるからよ。」
「……何言ってる。」
「初めから、それこそあなたと結婚した時からこの未来は視えていた。いつか災いが降りかかるこの未来は。」
「未来は視えていたって、予知能力でそんな未来まで見えないはずだ。」
「ふつうはね、神杉神社の巫女は私含め、瞬きしたら少し先の未来が見えるって言われてるけどだいたいが一週間以内の映像。でもごくまれにあるの。夢の中でぼんやりと見える映像が。」
「それが、この未来だったっていうのか。」
由多さんはこくりと首を縦に振り、続けます。
「その代わり、あの家で巫女の役目、神社の守りだので、家からあまり出られない生活を強いられる。〝イセノ〟だってやる意味を見出せずに一生。でも、不可志さん、あなたに出会って変わったのよ。そう小学校の頃、『お前が天才、百戦百勝ってうわさの神社のとこの女かよ。』って生意気にも勝負を吹っかけてきたときから。」
「そんな前のこと――。」
「あの時の私は、〝イセノ〟を勝つのは予知できる巫女としては当たり前って感じで育てられて、掟も厳しくて、でも逆らう勇気がなかった。ただ、私は流れに身を任せて、それで一生を終えるんだろうなって思った。そんな中、あなたが現れた。あなたは〝イセノ〟でコテンパンに負けても、次の日にはプレイスタイルを変えて再度挑戦してくる。必ず私が勝つのに、それでも、楽しそうに諦めずに挑戦してくる。そんなあなたを見て、いつか私も楽しめるようになってた。次はどうやって勝ってやろうかなって。」
「そう、思ってたのか。」
「あの時からなの、私が積極的になれたのは。家を飛び出して自由に生きてみたい。巫女としてじゃなくて新しい私になってみたい。そんな希望を抱いて、それを親にも主張し始めた。もちろん、反対されて、なかなか家を出れなかったけど。でも、あなたとのお見合いがいいきっかけになってくれた。」
「俺を利用したのか?」
「もちろん、あなただったからってのもある。ほかの人は神杉家って家の名前で来てる人がほとんどでお断りしてたわ。だからあなたが来てくれてよかった。」
「いまさら、照れること言うなよ。」
「そうね、ただ、一つだけ。『神杉由多』としてはいろいろなしたけど、『近田由多』としては何もなしてない気がするの。」
「何もって、奈湯を生んでここまで育てじゃないか。」
「でも、それはあなたがいたから。共同作業でのカウント。不可志さんはそれとは別に医者としてたくさんの命を救ってきた。対して私は、いろいろやろうとしたけど、予知能力が邪魔をして、たいていのことはできちゃうから。神杉としての予知能力がね。どうしてもそれ以外のことで貢献できることって考えてるうちに、病気になって、たまたま手術のことを知って、これしかないと思った。」
「……気持ちはわかる。でも、今は少しでも長く生きて、奈湯や友人と残された時間を一緒に。」
「時間は有限って思ってるでしょ。」
マスターは不意を突かれた表情になります。
「この手術を受けたら、無限になるの。〝無限の巫女〟に似合ってると思わない?」
由多さんは優しく微笑み、言います。
『だからね、新しい自分になってみたいの。生きた証を残せるような。』
「不可志さん、一つだけお願いがあるの。」
「それが妻と交わした最後の会話、手術後はまともに会話できない状態となり、そのまま息を引き取りました。」
マスターは悲しそうに話し終えました。
これが、由多さんの生き様。
「私は悔しさのあまり、彼女の巫女としての象徴でもあった仮面を割ってしまって……いくらAIの一部に彼女の意識が残っているかもしれないとはいえ、由多という人物はもうこの世にはいないってことを受け止めきれずに。」
私になる前の断片的な記憶で見た光景のことですね。
「ただ、肝心の頭のチップは死後取り出され、様々な機械に搭載されましたが起動すらしなかったようです。当時の研究者は頭になじませる時間が足らなかったからだとかほざいていましたが、それからのマスコミ報道も相まって、由多のチップは家族のもとに返されることとなったのです。」
重い空気が立ち込めます。
「そう、だったんですね。では、なんでうちの息子にそのチップを?」
「由多の願い、だったんです。いつか、奈湯の大切な友達が事故にあって生死をさまようことになる。その時に由多のチップを入れるようにと。予知で分かっていたのでしょうね。ただもう5年も昔の話で、私も徐々にそんな日が来るのか疑っていたんです。でも、実際一誠君は運ばれてきた。」
「だから、先生は俺に手術を……。」
「ただ、チップを埋め込むなんて正式な認可がないと普通はできません。それにうちの病院はセキュリティとして監視カメラが無数にありますから、なかなかこのことを話すというのもできない。それで、思いついたのが頭蓋骨のプレートの一部に細工してこのチップを入れることだったんです。」
これが、私が一誠に埋め込まれた真の理由。つまり私は……。
由多さんの生まれ変わりなんですね。
次回は3/21です。
引き続きよろしくお願いいたします。




