第14話 懇談会
これからしばらくは日中更新ですね。
投稿してる現在は春ですが、作中が冬なのはご容赦ください。
それでは本編です。
一誠の懇談は無事終了しました。一時は成績も下がりましたが、事故を乗り越えて頑張ってる姿が評価されたようで、一誠本人も喜んでいました。
「さすがね、一誠。いつにもまして先生べた褒めだったじゃない。頑張ったのね。」
「そりゃ、遅れ取り戻そうと必死で、大変だったよ。今日も何言われるか不安だったけど良かった。杞憂だったね。」
「覚えたての単語をすぐ使うなんて、やるわね。」
「それより母さん、ちょっとトイレ行っていい?」
「いってらっしゃい。母さんはこの階段の踊り場で待ってるから。」
その言葉を聞いた一誠は、一目散に便所に向かいました。どうやら我慢していたみたいです。急いでスリッパをはき替えて、白い便器の前に立ちます。
「降り始めたな。」
窓の向こう側に雪がちらつき始めました。一誠はその様子を呆然と見ながら用を足します。
「ふう、すっきりした。」
そして一誠は便所から出て水道の蛇口をひねろうと手を伸ばし、途中で止めます。
『どうしたのですか?』
「いや、学校の手洗いってさ、冷たい水しか出ないからその、嫌だなって。」
『嫌なことから逃げてばかりではいけませんよ。それに手洗いは病原菌を手に付けない有効な手段です。病気になって後々後悔したくはないでしょう。』
「わかってるよ、それくらい。」
しぶしぶ一誠は蛇口をひねり、冷たい水の感触を嫌そうに我慢しながら手を洗います。そして、さっさと終えようとしますが。
『だめですよ、一誠。ちゃんと石鹸付けて洗わないと。』
「はあ、母さんみたいだな。」
一誠は蛇口にぶら下がる赤いネットの中の石鹸を触って、ちゃんと泡立て始めました。そしてそれを、水で流しながら何やら考えて、脳内空間のほうで口を開きました。
「ノーデ、お前ってさ、男なの? 女なの?」
『答えはそのどちらでもない、最新式の人工知能ですが。』
「いやあ、カナデの姿をしてるし、母さんみたいだし、女なんじゃないか。そしたら、今までこういうトイレするとことか、普通に見られてたことになるよな。」
『なるほど、一誠もそういうお年頃ということですね。安心してください、もし気になるようでしたら今度私が記憶を確認するとき、大事な部分はモザイクでもかけておきます。』
「いや、そもそもトイレする部分まで見るなよ。」
一誠は蛇口をしめて歩き出します。と、ポケットをごそごそやって、濡れた手をズボンに擦り付けて拭きます。
『ハンカチ、忘れたんですね。でも、あまりよくないですよ、ズボン汚れますし、そもそもズボンだって汚いでしょ。』
「こ、これくらいいだろ。手、ぶらぶらして乾かすより。」
「それで奈湯の受験のことですが。」
一誠は思わず足を止め、目の前の教室を見つめました。6年2組のプレートが掲げられた教室。
「近田先生の声、それにここ、ナユユの教室だし。今ナユユが、懇談中なのかな。」
『そのようですね。』
「……気になるな。」
一誠はまるで探偵が考え込むように、顎に手を当てます。
『一誠、だめですよ。盗み聞きはよくありません。』
「わかったよ。」
一誠は瞬きの合間にそんな問答を私として、その場を立ち去ろうとします。
「一般の受験はやめようと思っています。」
マスターの一言に一誠も、私ノーデも相当驚きました。
「どういうことだ、ナユユは普通に受験するって言ってたけど。」
「ええ、急にどうしたんです? 今の奈湯ちゃんの成績が心配なのですか?」
ナユユさんの担任も初耳だったみたいです。
「ええ。広王大附属の特別推薦をもらえるつてができたので。一応簡単な試験が1月にありますが、奈湯の今の学力なら突破できるでしょう。」
広王大附属、たしか鋭人の通っている学校ですね。
「それって、裏口入学ということですか?」
「別にお金を渡してというわけではありませんよ。特別枠で広王大の大学進学まで必ずいくことを条件に附属中学に入学するという最近できた枠です。まあ、勉強に対する熱心さが伝われば合格するという話ですが。」
「でも、今の奈湯ちゃんの成績なら一般でもそれなりにいい線いけると思います。第一志望の近芽台中学もおそらく合格できると思います。」
「おそらく、じゃダメなんですよ。」
マスターはきっぱり断言しました。
「考え直したのです。近芽台は確かに名門で、高校もあります。でも、大学はない。対して広王大附属はこの福ノ山市のなかでトップの難しさを誇る学校ですが、内部推薦は通りやすいと聞いています。それに大学もあるから、将来的に安泰です。だから第一志望を広王大附属に変えるほうがよいと判断したのです。」
「はあ。でもこれまでも奈湯ちゃんは頑張ってきたのは私も存じています。それを発揮できる場がないというのは……。」
「大丈夫です。別に一般の入試すべてを受けないと言っているわけではありません。特に近芽台中学に関しては第一志望として今まで頑張ってきたのですから。記念受験はさせようかなと思っています。それに、ほかの友達には近芽台中は受けたけれど落ちた、といえば言い訳にもできますしね。」
一誠は驚き、困惑、そしてちょっとしたいらだちを混じらせた表情になります。
「その特別推薦使う以上、合格したら必ず広王大附属に行くことになります。それでもよろしいのですか。」
「むしろ、喜んで行きますよ。」
「奈湯ちゃんはどうなんだい?」
担任はナユユの意思を問います。
「お父さんの言うとおりに受けます。もし、受かったら……そこに行くつもりです。」
声に元気がありません。本当にいくつもりなのでしょうか?
「違う、ナユユは俺とトーモと同じ近芽台中を目指してた。三人で合格したいねって話してた。」
病院での面会のときのことですね。
『でも、確かあの時、元気はなさそうに見えましたね。』
「ノーデ……。」
『確か、三人で合格したいねとつぶやいた後、トーモさんが肩に抱き着いたとき、ナユユさんは怪訝そうな顔をしていましたね。おそらくその時からこの話は合ったのだと思いますよ。』
「でも、タイミングがギリギリすぎるだろ。」
『親が学校に来る機会なんて早々あるもんじゃありません。おそらく10月以降では今日しかチャンスはないでしょう。それにナユユさんが反対していた、もしくは担任に言い出せなかったのかもしれません。いずれにしろ、マスターは強硬策に出たということです。』
一誠はしばらく沈黙し、考え込んで言います。
「ナユユってさ、内気っていうか。自分から言い出せないタイプではあると思うよ。俺とトーモが話しかけなかったら、塾で仲良くはならなかったと思うし。ノーデの言ってることもありえなくはないよ。」
その記憶は実は私も拝見しています。ナユユさんは無口で友達の輪に入ることのできずに孤立していました。教室では前の端の席に座り、一人本を読んでいる。それを救ったのはトーモさんと一誠です。
「その本、いつも読んでるよね。なんていうタイトル?」
まあ、そこから一誠の本好きが始まり、いつの間にかラノベへと移り変わっていくのですが。
さて。
『何はともあれ、これは近田家の問題。私たちの出る幕では……』
と話しかけて、一誠がなにやら決心した顔つきであることに気づきます。
「だからさ、確かめてみる。」
えっ。
一誠の瞬きが終わる瞬間、彼は教室のドアに手をかけていました。そこから先は、想像つきますよね。
「本当にそう思ってるのかよ、ナユユ!」
一誠はドアを開けてそう、叫んだのです。
次回は3/19です。
よろしくお願いします。




