第116話 助言
今回、またもや掲載ギリギリでの仕上げ。一度身に着いた習慣を変えるのはなかなか難しいものです。
言葉足らずな部分がありそうですが、気づいたら逐次修正します。
それでは本編どうぞ。
「助言?」
暗い闇夜だというのに、仮面の男の周りだけ少し明るく映る。沈んでいる俺に対して、明るそうな口調だからか。
「君は明日の決戦で勝つことだけを考えろ。勝てば、君の大切なものは必ず戻ってくる。」
仮面の男はすごく自信あり気に言う。まるで俺がその決戦に出るのを確信しているかのように。
「あなたも、神杉の人なんですか? 未来が見えるとかそういう……。」
「違う違う、これはただの希望的観測さ。でもね、ボクのこれはよく当たるんだ。」
「おい、お前ら、急に足を止めてどうした? 迷子になっちまうぞ。」
「いったい何を話しているんだ?」
千草さん以外の周りの人も異変に気付いて足を止め始める。それを察するかのように仮面の男は
「じゃあ、ボクはこれで。頑張ってね。」
「え、ちょっと今のはどういう……。」
「ことですか」と俺が言い切る前には目の前から消えていた。
「何だったんだ?」
消えてから気づいたが、仮面の男の背後は開けていた。俺が明るく感じたのも、リアルに後光がさしていたからかもしれない。それに見覚えのある地形だなと思ったら、最初に俺たちD2チームが戦ったキャンプ場のあたりか。もうそこまで戻っていたんだな。
「なぜここで止まる? 貴重な時間をロスするだろ。」
どうやら先頭にいた梶田会長まで後方の俺のところに戻ってきたみたいだ。迷惑をかけてしまった。
「す、すみません。ただ、仮面の人に声をかけられただけです。」
「仮面の人?」
「誰もいないじゃないか。」
俺の話を完全に信じようとする人はいない。ただ一人を除いては。
「ああ、また神辺さんか。」
この発言、会長は思い当たる節がありそうだ。神戸さん……。
そうだ、思い出した。あの仮面の人は。
「神辺さんってあの、神辺さんですよね。現十指選トップ、右親の……。」
「神辺って、弼殿も一度会ったというあの……。」
そういえば落合君も入学する前に会ったって言ってたな。あのときもすぐいなくなったっていっていたし。
「あの人は神出鬼没、特定の人物の前にふらっと現れては一言二言、助言して消える。俺も一回あった。」
梶田会長もどうやら経験があるらしい。
「で、なんて言っていた?」
「えっと確か、『君は明日の決戦で勝つことだけを考えろ。勝てば、君の大切なものは必ず戻ってくる。』って。」
思い返して気づいた。そういえば、明日の決戦って何のことだ? 大切なものっていうのはノーデとか、カナデとか想像つくけれど。
「そうか、なるほどな。なら気には止めておけ。損はない。」
まだ神辺さんの意図を理解できてはいないけど、会長がここまでいうってことは、この助言は信じていいものなのかもしれない。
「でも、これで安心だな。現十指選トップが来たということは、あの神も倒してくれるやもしれぬ。」
希望を見出す千草さんや一部生徒会役員に、梶田会長は諭すように言う。
「いや、よほどのことがない限りあの人は出てこない。それにこれは俺の仮説だがあの人は……。」
そこまで言いかけて会長は一瞬目を見開き、ため息をつく。
「いや、なんでもない。早く戻るぞ。」
「ええ、そこまで言って、気になるじゃないですか。」
という生徒会役員の声に対して、梶田会長はだんまりを決め込んだ。ということはたぶん、会長も見えたに違いない。
「シーッ。」
と、消えたはずの仮面の男が一瞬だけ現れ、人差し指を口元のあたりにもってきていた姿を。
そして、午後七時半。俺たちは宿舎にたどり着いた。
「九山君、千草さん!」
「無事だったんやな、ほんまよかった。」
そして俺たちを出迎えるかのようにナユユ、尾関山さん、落合君達、D2チームの残りのメンバーが声をかける。
「ごめん、心配かけて。」
「本当だぜ。それでこっちも大変だった時に九山、お前は今まで何をしてた?」
「それは、その……。」
答えづらい。それは単純に言葉にしにくいというのもあるけれど、結局俺はノーデを取り戻すことは愚か、カナデ達、大切な人たちをも失ってしまった。ただチームのメンバーに迷惑をかけただけだ。
「再会を喜び合っている中で悪いけど、入り口の広間に集合。いまいる全教員、全生徒ね。」
万倉先輩が入り口でたむろっている俺たちをせかす。幸いにもそれが、俺には助け船になった。
「ごめん、落合君。いや皆にもだね。後でちゃんと話すよ。」
今言えるのはこれくらいだ。でも、頭の中を少し整理してちゃんと言葉にしよう。
と、思って宿舎の中へ入ったのだが、神は整理の暇すらも与えてはくれないようで。
「こんなに人がいないのか。」
始まる前は俺たち1年に生徒会、先生たちを含め100人近くはいたはずだ。しかし今ここにいるのは約半分の50人くらい。残りの人は考えたくもないが、おそらく魂を取られた人たち、なんだろうな。
「これで全員、ではないですが始めましょう。」
万倉先輩が先生たちに目配せし、我らが担任、八田先生がコクリとうなづいて声を大にする。
「えー、まずは教員を代表して八田から。皆さん、不安でしょうが落ち着いて聴いてください。」
そういう先生、いつも穏やかで落ち着きを体現した人なのに、今は眉間にしわをよせ、難しい表情だ。
「皆さん、あの放送を聞いて知っていると思いますが、神杉有弦と名乗る人物がこの邪薔薇林間学校内に現れ、山頂の施設を占拠しました。それと同時にこの施設は外部との通信が取れず、物資の供給も断たれた状況となっています。また、何名かは山頂やその近辺に取り残されている状況です。」
この発言だけでとてつもない情報量、みんな呑み込むのに必死だ。ゾンビ化した人たちのことはさすがに伏せているけれど、皆、徐々に理解する。自分たちは今、絶望的な状況に立たされていると。
「それって……。」
「俺たち、ちゃんと福ノ山に戻れるのかよ。」
まさにパニックが始まろうとした瞬間で
「心配は無用です!」
今日一番の声で先生は言った。
「現在私たちは対策を練っています。またあの放送では神杉有弦は私たちのことを生贄などと言っていましたが、私たちが総力を挙げて皆さんを守り、家まで届けると約束します。皆さんにお願いしたいことはたった一つです。この宿舎から出ず、安静に過ごしてください。それが一番、安全ですから。」
「ただし、それは1チームだけ例外だ。」
「梶田君……。」
会長が八田先生の言葉を遮り、先生も驚いている。たぶん会長の発言は、事前に示し合わせていないんだろう。
「基本は先生たちの協力のもと、生徒会でなんとかする。ただあの神杉有弦は明日、オリエンの決勝をするとも言っていた。もし彼の要求をのまなければ、被害が拡大する可能性もある。そこで形だけでも代表者は選別しておきたい。」
決戦、これはもしかしてあの助言の――。
「このオリエン参加者で生き残っているチームの中から1チームを選別する。もし神に挑む勇気あるものがこの場にいるなら、前に出てきてくれ。」
試される意思――。
次回は4/26までに更新予定です。よろしくお願いします。




