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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第7章 オリエンテーション編Ⅱ
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第115話 見えるモノ

たった1日が長いオリエン編、しかしそろそろ折り返しか?

今回は一誠視点です。それではどうぞ。

「今の放送……。」

「むむむ、この放送を行っているのは、有弦だ。それはつまり……。」

 千草さんがすべてを口に出さずともわかる。カナデが負けたってことだ。


「こうしちゃいられない!」


 俺たちは小屋を飛び出した。雨はさっきより弱まっているが降っている。だがそれよりも。

「何だあの、黒い(もや)みたいなものは。」

 上空を覆いつくす不気味な靄。単に空が曇っているわけじゃない。

「靄? 雨で視界は悪いがそんなものは……。」

「千草さん、見えないのか。あんなにはっきりと漂っているのに。」

 俺の目がおかしいのか? いやでも、何度瞬きして確認しても、そこにある。確かカナデは、有弦は見えない謎の力を持っていると言っていた。この靄がそうなのか。ということは――。


 もしかして、俺にしか見えてない?


 なぜ俺に見えるのかとか気になることはあるがそれはさておいて、いいことじゃないのは分かる。だから一層、カナデの安否が心配だ。幸い、カナデが向かった場所は知っている。

「せめて無事でいてくれよ。」

 ノーデ、ごめん。でもまずはそっちの方だ。目指すはロープウェー乗降場。ぬかるんだ道を慎重に、できる限り早く進む。

 そして歩くこと30分余り、ようやく目的地にたどり着く。そしてそこに広がる光景は。

「なんなのだ、これは……。」

 俺も千草さんも言葉を失うものだった。

「う、ううううううう。」

 そこに人と呼べる人はいない。皆ホラー映画のゾンビのように周囲を徘徊している。そしてその大半は青いジャージの体操服を着た人たち。俺たちと同じ、近芽台の学生だ。

「一誠殿、あれは……。」

 千草さんの指さす方向には俺たちが今日会った人たちも。

「河佐君に、比婆君、B2チームの皆。」

 俺たちがこのオリエンで一番最初に戦ったチームの人たち。

「河佐君!」

 俺は近寄って声をかけたが、

「う、ううううううう。」

 まともな返事は返ってこないどころか、話が通じない。こっちに興味も示さない。

「河佐殿、拙者の声が聞こえるか。」

 そういって千草さんは河佐君の肩に触れるが、払いのけられる。

「大丈夫?」

「拙者は問題ない。しかしこれは――。もしかしてこれがカナデ殿の言っていた、魂を抜かれた人たちだというのか。」

「魂を……。」

 カナデは言っていた、有弦は負かした相手の魂を奪っていると。じゃあこれはみんな、有弦に負けて魂を奪われた人たちなのか。

「こんな……。」

 そのとき俺の頭の中で、何かが爆発した。

「こんなこと、許されていいはずがない!」

 自分でもわかるくらい、恐怖よりも怒りが勝っていた。

 カナデはここにもいない。やっぱり山頂の方か。なら、ロープウェーで行くしかない。

「これは、異様だな。」

 そこに、俺たち以外のちゃんとした声が聞こえる。

「報告を受けて偵察に行かせたが、通りで戻ってこないわけだ。」

「梶田会長!」

 以下、生徒会の面々。今、ここに到着したようだ。

「九山に塩町、だったか。お前たちは無事か?」

「「はい。」」

「状況は分かるか?」

「いいえ、俺たちも今来たばかりで。」

「だが、想像はできる。カナデ殿の言うとおりであれば、ここにいるのはみな、神に負け魂を奪われた人たち、ということだ。」

「そうか、上級生から報告は上がっていたが、あの放送はやはり……。」

 会長も状況を把握しているらしい。

「それにしてもこの人たちはなぜ、この乗降場をうろついているのかしら。」

 会長の隣にいた万倉先輩が怪訝な表情で言う。そういわれるとそうだ。みんな意識してここにきているようには見えないし。なら、何かについていったのか。なら何に……。

 俺たちよりも先に来た人といえば、ゾンビのような人たちを除けばカナデと。


 神――。


「これはその、俺の想像になるんですが。少し前、有弦はこの乗降場から山頂に向かいました。この人たちは有限の放つオーラに引き寄せられているんじゃないでしょうか。それでロープウェーに乗れずに、ここでうろついているのではないかと。」

「オーラ? その想像、何か確証はあるのか?」

「確証はないですけど、俺には見えるんです。ここの上空に広がる、黒い靄が。」

「俺には見えないが、九山と同じものが他に見える奴はいるか?」

 会長はこの場にいる全員を見渡すが、皆首を横に振る。やはり俺にしか見えないらしい。

「山頂、ニコ……。」

 万倉先輩は心配そうに山頂の方を見る。そういえば、上戸先輩の姿が見えない。園内放送はこれまで上戸先輩が流していたが、最後に流したのは有弦だ。ということはつまり、上戸先輩も。

 やはり山頂に行かないと。

「先輩、ロープウェー乗ってもいいですか?」

「乗ってもいいも何も、駅員もゾンビのようになっていて、目的地の山頂駅も占拠されている。スキル的にも状況的にも、動かせない。それに仮に動かせたとしても、こちら側から動かすということは山頂方面からもロープウェーが降りてくることになる。そして有弦以外の敵がそれに乗っていれば、二次被害もありうる。何が起こるかわからない以上、うかつには許可もできない。」

 さすがは全生徒をまとめる会長だ。この状況を瞬時に分析している。でも。

「それはわかります。でもカナデが、友達が山頂にいるかもしれないんです。」

「だが、山頂には神もいる。この事態を引き起こした張本人がな。山頂に乗り込めば奴は十中八九、勝負を仕掛けてくる。お前は奴に勝てるのか?」

「それは……。」

 あれだけ準備をしたカナデも、負けた。そんな奴に俺は――。


 勝てる、のか?


「気持ちは、わかるわ。私も山頂で何が起こっているのか、この目で確かめたい。でも、今は我慢しなさい。返り討ちにあうだけよ。幸い向こうも、今日は何もしてこなさそうだしね。」

「万倉先輩……。」

 たぶんこの人も、上戸先輩のことが心配なのだろう。でも、こらえている。

「外から、応援は来ないのであろうか。ロープウェーでなくとも、徒歩やヘリように山頂に行く手段はあるはずであろう。いくら有弦といえどカナデ殿の話を聞く限り、体は大数殿だ。大量の人数で乗り込めばひとたまりもないと思うが。」

「それができたら苦労しないのよ。」

 万倉先輩はため息を漏らし、続ける。

「ここら一帯は陸の孤島と化しているの。外部との通信も、いやそもそも外部からの物資も人も、供給は断たれている状況。まるで目に見えない何かに覆いつくされてね。」

「そうなんですか⁉」

 あの靄が、通信障害や人の行き来を妨げているのかもしれない。事態は思った以上に深刻だ。

「ひとまず情報を整理し、対策を立てなければだめだな。万倉、お前は先に宿舎に戻り、生徒や教師陣に状況を報告しろ。他の皆はここにいるゾンビたちを縄で縛るなりして動かなくする。うちの学生が大半だ、ずっと徘徊されてけがをされても困るしな。」

「「「「「「了解。」」」」」」

「すまないが、九山、塩町。お前たちも協力してくれないか。」

「「は、はい。」」

 こうして俺たちは会長の指示のもと、ゾンビになった人たち一人一人に数人がかりで対応し、捕縛した。そしてこの乗降場から逃げ出さないよう、柱に縄をつないだ。思った以上に人数が多く、気づけば時刻は午後七時、当たりは暗くなっている。

「何とかひと段落、ってところだな。」

「一度、宿舎に戻る。迷子にならないよう、まとまって動くぞ。」

 ようやく帰れる。帰れるけど。

 帰り道、俺たちは1列で移動する。その道中、俺は悔しさがこみ上げる。

「俺は、やっぱり無力だな……。」

「一誠殿……。」

 後ろを歩いていた千草さんも心配させてしまったようだ。だけど、疲れていたのか、気を遣う余裕もなく言葉だけがつらつらと出てくる。

「今日1日、いろんなことがあった。ノーデ、大切な相棒を奪われて、俺も殺されそうになって。それでも前に進もうとしたのに、カナデが追い詰められていく様子を目の当たりにして。目のまえで魂の抜かれた人たちを見て。カナデは見つけられなかったけど、この様子じゃ……。」


 結局俺は、大切なものを何も守れないままなのか……。


「やあ!」


「うわああ。」

 林の中から急に人が出てきて、びっくりした。仮面をつけた……男? 

「急に何ですか。というか、誰ですか?」

「ごめんね。驚かせちゃったかな。」

 悪い人、という感じはしない。それにこの仮面、どこかで見覚えが。

「一誠殿、何を驚いているのだ。」

「何をって、そこに人が。」

「むむむ? 拙者には見えぬが、誰かそこにいるのか?」

「千草さん、見えないのか⁉」

 戸惑う俺をあざ笑うかのように、仮面の男は口を開く。


「迷える君に一つ、助言を授けよう。」


仮面の男は何を語る――?

次回4/19までに更新予定です。よろしくお願いします。


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