第115話 見えるモノ
たった1日が長いオリエン編、しかしそろそろ折り返しか?
今回は一誠視点です。それではどうぞ。
「今の放送……。」
「むむむ、この放送を行っているのは、有弦だ。それはつまり……。」
千草さんがすべてを口に出さずともわかる。カナデが負けたってことだ。
「こうしちゃいられない!」
俺たちは小屋を飛び出した。雨はさっきより弱まっているが降っている。だがそれよりも。
「何だあの、黒い靄みたいなものは。」
上空を覆いつくす不気味な靄。単に空が曇っているわけじゃない。
「靄? 雨で視界は悪いがそんなものは……。」
「千草さん、見えないのか。あんなにはっきりと漂っているのに。」
俺の目がおかしいのか? いやでも、何度瞬きして確認しても、そこにある。確かカナデは、有弦は見えない謎の力を持っていると言っていた。この靄がそうなのか。ということは――。
もしかして、俺にしか見えてない?
なぜ俺に見えるのかとか気になることはあるがそれはさておいて、いいことじゃないのは分かる。だから一層、カナデの安否が心配だ。幸い、カナデが向かった場所は知っている。
「せめて無事でいてくれよ。」
ノーデ、ごめん。でもまずはそっちの方だ。目指すはロープウェー乗降場。ぬかるんだ道を慎重に、できる限り早く進む。
そして歩くこと30分余り、ようやく目的地にたどり着く。そしてそこに広がる光景は。
「なんなのだ、これは……。」
俺も千草さんも言葉を失うものだった。
「う、ううううううう。」
そこに人と呼べる人はいない。皆ホラー映画のゾンビのように周囲を徘徊している。そしてその大半は青いジャージの体操服を着た人たち。俺たちと同じ、近芽台の学生だ。
「一誠殿、あれは……。」
千草さんの指さす方向には俺たちが今日会った人たちも。
「河佐君に、比婆君、B2チームの皆。」
俺たちがこのオリエンで一番最初に戦ったチームの人たち。
「河佐君!」
俺は近寄って声をかけたが、
「う、ううううううう。」
まともな返事は返ってこないどころか、話が通じない。こっちに興味も示さない。
「河佐殿、拙者の声が聞こえるか。」
そういって千草さんは河佐君の肩に触れるが、払いのけられる。
「大丈夫?」
「拙者は問題ない。しかしこれは――。もしかしてこれがカナデ殿の言っていた、魂を抜かれた人たちだというのか。」
「魂を……。」
カナデは言っていた、有弦は負かした相手の魂を奪っていると。じゃあこれはみんな、有弦に負けて魂を奪われた人たちなのか。
「こんな……。」
そのとき俺の頭の中で、何かが爆発した。
「こんなこと、許されていいはずがない!」
自分でもわかるくらい、恐怖よりも怒りが勝っていた。
カナデはここにもいない。やっぱり山頂の方か。なら、ロープウェーで行くしかない。
「これは、異様だな。」
そこに、俺たち以外のちゃんとした声が聞こえる。
「報告を受けて偵察に行かせたが、通りで戻ってこないわけだ。」
「梶田会長!」
以下、生徒会の面々。今、ここに到着したようだ。
「九山に塩町、だったか。お前たちは無事か?」
「「はい。」」
「状況は分かるか?」
「いいえ、俺たちも今来たばかりで。」
「だが、想像はできる。カナデ殿の言うとおりであれば、ここにいるのはみな、神に負け魂を奪われた人たち、ということだ。」
「そうか、上級生から報告は上がっていたが、あの放送はやはり……。」
会長も状況を把握しているらしい。
「それにしてもこの人たちはなぜ、この乗降場をうろついているのかしら。」
会長の隣にいた万倉先輩が怪訝な表情で言う。そういわれるとそうだ。みんな意識してここにきているようには見えないし。なら、何かについていったのか。なら何に……。
俺たちよりも先に来た人といえば、ゾンビのような人たちを除けばカナデと。
神――。
「これはその、俺の想像になるんですが。少し前、有弦はこの乗降場から山頂に向かいました。この人たちは有限の放つオーラに引き寄せられているんじゃないでしょうか。それでロープウェーに乗れずに、ここでうろついているのではないかと。」
「オーラ? その想像、何か確証はあるのか?」
「確証はないですけど、俺には見えるんです。ここの上空に広がる、黒い靄が。」
「俺には見えないが、九山と同じものが他に見える奴はいるか?」
会長はこの場にいる全員を見渡すが、皆首を横に振る。やはり俺にしか見えないらしい。
「山頂、ニコ……。」
万倉先輩は心配そうに山頂の方を見る。そういえば、上戸先輩の姿が見えない。園内放送はこれまで上戸先輩が流していたが、最後に流したのは有弦だ。ということはつまり、上戸先輩も。
やはり山頂に行かないと。
「先輩、ロープウェー乗ってもいいですか?」
「乗ってもいいも何も、駅員もゾンビのようになっていて、目的地の山頂駅も占拠されている。スキル的にも状況的にも、動かせない。それに仮に動かせたとしても、こちら側から動かすということは山頂方面からもロープウェーが降りてくることになる。そして有弦以外の敵がそれに乗っていれば、二次被害もありうる。何が起こるかわからない以上、うかつには許可もできない。」
さすがは全生徒をまとめる会長だ。この状況を瞬時に分析している。でも。
「それはわかります。でもカナデが、友達が山頂にいるかもしれないんです。」
「だが、山頂には神もいる。この事態を引き起こした張本人がな。山頂に乗り込めば奴は十中八九、勝負を仕掛けてくる。お前は奴に勝てるのか?」
「それは……。」
あれだけ準備をしたカナデも、負けた。そんな奴に俺は――。
勝てる、のか?
「気持ちは、わかるわ。私も山頂で何が起こっているのか、この目で確かめたい。でも、今は我慢しなさい。返り討ちにあうだけよ。幸い向こうも、今日は何もしてこなさそうだしね。」
「万倉先輩……。」
たぶんこの人も、上戸先輩のことが心配なのだろう。でも、こらえている。
「外から、応援は来ないのであろうか。ロープウェーでなくとも、徒歩やヘリように山頂に行く手段はあるはずであろう。いくら有弦といえどカナデ殿の話を聞く限り、体は大数殿だ。大量の人数で乗り込めばひとたまりもないと思うが。」
「それができたら苦労しないのよ。」
万倉先輩はため息を漏らし、続ける。
「ここら一帯は陸の孤島と化しているの。外部との通信も、いやそもそも外部からの物資も人も、供給は断たれている状況。まるで目に見えない何かに覆いつくされてね。」
「そうなんですか⁉」
あの靄が、通信障害や人の行き来を妨げているのかもしれない。事態は思った以上に深刻だ。
「ひとまず情報を整理し、対策を立てなければだめだな。万倉、お前は先に宿舎に戻り、生徒や教師陣に状況を報告しろ。他の皆はここにいるゾンビたちを縄で縛るなりして動かなくする。うちの学生が大半だ、ずっと徘徊されてけがをされても困るしな。」
「「「「「「了解。」」」」」」
「すまないが、九山、塩町。お前たちも協力してくれないか。」
「「は、はい。」」
こうして俺たちは会長の指示のもと、ゾンビになった人たち一人一人に数人がかりで対応し、捕縛した。そしてこの乗降場から逃げ出さないよう、柱に縄をつないだ。思った以上に人数が多く、気づけば時刻は午後七時、当たりは暗くなっている。
「何とかひと段落、ってところだな。」
「一度、宿舎に戻る。迷子にならないよう、まとまって動くぞ。」
ようやく帰れる。帰れるけど。
帰り道、俺たちは1列で移動する。その道中、俺は悔しさがこみ上げる。
「俺は、やっぱり無力だな……。」
「一誠殿……。」
後ろを歩いていた千草さんも心配させてしまったようだ。だけど、疲れていたのか、気を遣う余裕もなく言葉だけがつらつらと出てくる。
「今日1日、いろんなことがあった。ノーデ、大切な相棒を奪われて、俺も殺されそうになって。それでも前に進もうとしたのに、カナデが追い詰められていく様子を目の当たりにして。目のまえで魂の抜かれた人たちを見て。カナデは見つけられなかったけど、この様子じゃ……。」
結局俺は、大切なものを何も守れないままなのか……。
「やあ!」
「うわああ。」
林の中から急に人が出てきて、びっくりした。仮面をつけた……男?
「急に何ですか。というか、誰ですか?」
「ごめんね。驚かせちゃったかな。」
悪い人、という感じはしない。それにこの仮面、どこかで見覚えが。
「一誠殿、何を驚いているのだ。」
「何をって、そこに人が。」
「むむむ? 拙者には見えぬが、誰かそこにいるのか?」
「千草さん、見えないのか⁉」
戸惑う俺をあざ笑うかのように、仮面の男は口を開く。
「迷える君に一つ、助言を授けよう。」
仮面の男は何を語る――?
次回4/19までに更新予定です。よろしくお願いします。




