第111話 神への挑戦①
予感はしてました、話が壮大になりそうだと。
それでは前回に引き続きカナデ視点メインで本編、どうぞ。
午後4時、邪薔薇山ロープウェーの山麓駅改札前。屋根に打ち付ける雨音がこだまするその場所に、神は立っている。
「やはり来たな、我の予言通り。」
「チーム内ではお互いの位置はまるわかりなの。この腕輪を使えばね。」
「なるほど。まだこの時代の腕輪に使い慣れておらんのでな。それはこやつらを我が傀儡とする前に聞くべきだったな。」
やっぱり……。
有弦のそばには私と同じチームの本庄君、東城君、伊原君が生気を失ったように呆然と立っている。
いや、それ以外も。この駅にたどり着く前にさっき滝で私たちD1チームに負けたA組の人も、ぞろぞろとここに向かっているのを見た。
「駅員さん! ここに不審者が……。」
私は大声を出した。改札前のチケット売り場で待機している駅員さんに聞こえるように。だけど。
「無駄だ。彼らももう、我の手中にある。」
うすうす予想していたけれど、どおりで反応がないと思った。
「それにしても神に対して不審者とはな。」
「私たちにとっては不審者よ。あなたは、無関係な人の魂を奪ってまで、何がしたいの? どこへ向かうつもりなの?」
すると有弦は人差し指を上に向け、こう言った。
「頂上さ。この山の……いや、この世界の。」
世界の、頂上?
「お前は仲間を救いに来たんだろう。よくここまでこれたと、褒めるべきか。」
有弦は私の心理を見抜いている。
「ついてこい。ゆっくり話そうではないか。現代の駕籠の中でな。」
見抜いたうえで誘っている。ここから先は明らかに危険。だけど、できる限りの手は打っておいた。
いくしかない。
私は有弦についていき改札を通る。ここは昔ながらのロープウェー。本来ならさっきの売り場で買ったチケットを駅員さんにこの場で切ってもらうのでしょう。しかし、今日は素通り。
「まさかこんな形で無賃乗車するなんてね。」
「安心しろ。これが最初で最後だ。」
もちろんこの先私はするつもりはないけれど。有弦のこの言葉は、私も自分の傀儡にするといっているように聞こえる。
やがて見えてくる、停車した赤いロープウェー。そこに続く階段を一歩一歩上っていく。そして傀儡となった東城君が扉を開け、有弦と私を含むD1チームのメンバー5人が乗り込む。有弦の見つめる先はこのロープウェーの行き先。
「これから山頂に向かう。乗車時間は10分といったところか。あいにくの雨、景色が楽しめないのは残念だな。」
このロープウェー、天気がいい日なら邪薔薇湖やその先の海まで見えることもあるらしい。だけど、今は一面、白い靄に覆われていて周辺の木々が多少見える程度。
「いいの? あなたが魂を抜いた人たちは置いていって。」
「構わん。今はただ肉体に残された力を消化するだけの屍にすぎぬ。それに我に勝たぬ限り、その者たちの魂は永遠に戻りはしないのだからな。」
想定通り、仲間を取り戻すためにはこの男に勝つことが絶対条件。
「素直にその人たちの、D1チームのメンバーの魂を、返す気はないの?」
「そんな未来など、訪れはせぬ。」
やっぱり、戦うしかないか。
おあつらえ向きに投影装置もこのロープウェーの中にある。私は技板を腕輪に通し、臨戦態勢に入った。だが有弦はまだ態勢に入ろうとしない。
「勝負の前にここまで来た礼だ。お前がここにきて最初にした質問をもう少し答えてやろう。」
「最初の質問……。」
「何がしたいか、という問いについてだ。」
そういうと有弦は手を広げ、私の方に体を向けて言う。
「単刀直入に言おう。我の目的は、この世界を十指占、今でいう〝イセノ〟ですべてを決める世界にすることだ。」
〝イセノ〟で決める世界……。
「それは福ノ山の古くから続く慣習でしょ。もう実現してるじゃない。」
「もっと規模の大きい話だ。文字通りすべてを決める、些細ないざこざから、果ては戦の結末、人の生死まで。」
「そんなことできるわけ……。」
「可能だ。この腕輪とこれまでに集めた魂があればな。」
嘘を言っているようには見えない。
「この腕輪の中には我の倒したものの魂が保管されている。お前たち現代人の魂はもちろん、我がかつて倒したものの魂も一部な。といっても後者は千年という月日で大半の魂の力が底をつき、消えたものも多い。だから我は復活を見据え、その中の1つの魂をずっと消えないようにとどめていた。貴重な特性をもつ魂をな。」
貴重な特性?
そういえば有弦は前、昔特性は人が持つ特別な力っていっていたけれど。
「その、魂って?」
「認識を書き換える力を持つ魂だ。」
認識を書き換える力――。
「我は、我の倒したあまたの魂を犠牲にこの力を増幅させる。そして、書き換えるのだ。世界の認識そのものを、『すべての物事を〝イセノ〟で決める』とな。明日、その儀式を完遂する。」
こいつの話は正直呑み込めない。普通の人がそんなこと言っていたら、まず相手にしない。でも目の前にいるのは大数君の姿をした、神だ。たぶんこいつの言っていることは本当のこと。そしてもうその未来も見えているのかもしれない。
「魂を犠牲に……。その儀式をやったら魂を抜かれた人たちはどうなるの?」
「残された肉体の力が底をつき次第、死ぬ。」
「そんなことさせない!」
誰かがこの男を止めなければいけない、私の直感がそう叫んでいる。
「私と、勝負しなさい。」
感情高ぶる私に対して、有弦は落ち着いて応じる。
「もとよりそのつもりだ。我が勝てば特性とお前の魂をいただく。」
「私が勝てば、あなたが奪った魂全部、そして大数君も元の体に戻してもらう!」
「いいだろう。なら始めよう。」
有弦も自分の技板を腕輪に通す。
「神に挑むのだ。娘よ、先攻、後攻はお前に決めさせてやろう。」
「なら、後攻で。」
今までの試合、有弦はほぼ数あてしかしていない。だからプレイング自体は未知数、数あてさえ何とかなればいいのか。それとももっと別の切り札があるのか。
だから、様子を見る。
「後悔しないといいな。その選択。」
「後悔なんて、しない。」
私の特性、晴れの神を持っていることは大数君の記憶を読み取れば知っているはず。なら――。
意識のない駅員さんが外から鍵を閉め、ロープウェーが動き出す。それが勝負開始の合図。
最初から全力で行く。
「【一斉ノ手〝晴れ〟】」
Turn 1
Yugen 0pt Kanade 0pt
【〝sunny〟Lv.1(S1)】
R●●●●● R○○●●●
L●●●●● L○○●●●
娘の指4か所が上がる。我の放つ日の光がその指を焦がし始めた矢先。
「晴れの神、発動!」
娘の宣言ととともに、眩い光がこのロープウェーを覆う。そして顕現する、巫女装束の女神。娘の指はかろうじて〝晴れ〟の攻撃を免れる。
「いきなりか。」
上げて固めるを無効化する特性。天候系という縛りはあるが、戦術によってはいかようにでも化ける。この先持っておいて損はない。
「【いっせいなで〝雨〟】」
この攻撃には我は1か所のみ下げておけばよい。得点を与えると、我の数あてが1度防がれてしまうからな。
さて、娘の特性も確認したことだ。早速当てるとしよう。七六七か。
「【一斉ノ手〝9〟】」
娘のあげている指も9本。この数あては防げまい。さあ、さっそく片手を……。
とは、やはりならぬようだ。
娘の前を稲妻が円を描く。この光景。我には見えている。
Turn 3
Yugen 0pt Kanade 0pt
【〝9〟】
R●●●●● R○○○○○
L●●●●● L○○○●○
「【〝電磁バリア〟】」
この技は対有弦用の、数あてのみに特化した防御技。未使用のレベル6以上の技1枚を使用不可にすることで発動できる。事前に入れておいてよかった。
私でも、戦える。
「始まって早々、抜けさせはしない!」
私の思いつく限りの戦術で、この目の前の神に勝ってみせる。
神に、挑め!
ということで次回は3/22までに更新予定です。よろしくお願いします。




