第109話 山小屋にて
祝2周年、ここまで読んでくださっている読者の皆様、ありがとうございます。本当は初回掲載日2/25に掲載したかったのですが、いろいろと仕事が忙しくてですね。間に合わず。
まあでも、何とか2年続けられました。ということで主人公に戻ってきてもらいましょう。では、一誠視点で本編どうぞ。
足が、いや体全体がいつもより重い。揺れる橋、降りしきる雨。足場が悪いこの状況でも、俺は一歩一歩踏み出していく。
俺を突き動かす思いはただ一つ。
「ノーデを、取り戻す。」
フード男はこの方向に消えていった。あれから少し時間は経っているから、この先にいるかどうかはわからない。でも少しでも可能性があるのなら、じっとなんかしていられない。
橋を渡り切った後も道は続く。まだ揺れる感覚が残っていてふらつく。おまけに道はぬかるんでいて最悪だ。でも進み続け、やがて分かれ道が来る。
「どっちだ。」
道しるべをみると、右は山頂方面、左は滝。右か、左か。
「待つのだ、一誠殿。」
後ろから声がする。振り返ると。
「……千草さん。」
息を切らしている。急いで俺を追いかけてきたんだろう。それと隠れる必要がなくなったのか、マークスリーさんも並んでいる。
「どこへいくつもりなのだ?」
「フード男を追いかけて……取り戻すんだ。」
「取り戻す? のーで、とやらをか。」
「そう。」
「一誠殿、少し冷静になるのだ。追いかけても、相手が素直に返してくれる保証はないのだぞ。」
「それでも!」
あきらめきれるわけがない。
まただ。
俺はノーデにまた助けられた。俺が十指選の左手勢を倒して、手術を受けて、それであいつを助けようとしていたのにまた。目の前で奪われた。
それに。
カナデが外国に行った時もそうだ。俺は、肝心な時に何もできてない。
「それでもまた、勝負して。」
勝負して……。
「勝負して、取り戻せるのか? それ以前に、一誠殿はあの男に勝てるのか?」
正論だ。今のまま挑んだんじゃ負ける、そんなことは頭ではわかってる。
でも。いつかノーデと別れが来るんだとしても。
「……あんな別れ方は嫌なんだ。」
足を止めてはいけない。右か、左か選んで進まないと。
その時だった。
「オリエン参加者の皆さんに連絡ですぅ。」
上戸先輩の園内放送だ。
「雨が強まってきましたのでぇ、川や湖は避け、マップに表示されている待機場所に移動をお願いしまぁす。」
俺は腕輪でマップを確認する。山頂方面にはいくつか待機場所が設定されているが、滝の方には1つもない。
この放送はあのフード男も聞いているはずだ。あいつはノーデを奪って何かしようとしていた。少なくとも何か目的を持って動いていた。そんな奴が、人がよりつきそうなところにわざわざ現れるだろうか。今思えば、俺たちがフード男に吊り橋で遭遇したのも、すべてあいつの目論見通りだったんじゃ。
だとすれば。この放送で確実に寄り付かなくなる水辺の方にいる可能性は高い。
「左だ。」
俺は滝のある方角に一歩を踏み出す。その直後、千草さんに目の前に立ちふさがれる。
「一誠殿、さっきの園内放送を聞いていなかったのか?」
「聞いてたよ。だからこそだ。だからこそ、人のいなくなる方にあいつはいるはずだ。」
「川が増水したら、近くにいる者は流される危険がある。今から行こうとしている一誠殿もただでは済まぬ。拙者はチームの皆に一誠殿のことは任せてくれと言ってここまで来たのだ。そんな拙者にとっては、見過ごすことはできない。」
「どいてくれ。事態は一刻を争うんだ。」
千草さんには悪いけど、フード男がいつこの施設を出るかわからない。多少危険でも、とにかく早くあいつを見つけないといけないんだ。
「オジョウサマ……。」
スリーさんが不安そうに見つめる中、俺の目を見て、千草さんは何かを悟ったようだ。
「一誠殿にはこっちの方がよいか。」
彼女は自分の腕輪を少しいじり、説得をあきらめ、代わりにある提案をする。
「今から拙者が一度だけ数を宣言する。一誠殿は右手の5本のみ動かして自分の思った数を上げてくれ。もし拙者がその数を当てられれば一誠殿が拙者のいうことに従う、外れれば拙者はもう何も言わない。それでよいか?」
「……ああ。」
かなり俺に有利な提案だ。一発勝負、おそらく早くいきたいという俺の意も組んでくれたんだろう。でも手加減はなしだ。ここで当てられるようじゃ俺は――。
「ゆくぞ。【いっせいのーせ〝1〟】」
Tigusa Issei
【〝1〟】
R●●●●● R○●●●●
「拙者の勝ちだ。」
現実はそう甘くない。
「拙者に当てられるようでは、一誠殿は拙者が初めて会った時より弱くなっているということだ。当然、あの得体のしれぬフード男にも勝てぬぞ。」
その通りだ。
千草さんと初めて会った時、あの時はノーデがいた。ノーデが千草さんの狙いを予測した。俺は何も――。
俺はまた現実から目を背けているだけだ。
「敗者に選択肢はない。」
あのフード男の言葉を俺はつぶやいた。今さらながら突き刺さる言葉だったから。その様子を千草さんは怪訝そうに見つめ、優しく声をかける。
「当てもなくさまようのはよくない。雨も降っておるし、マップに表示されている近くの山小屋で休もう。」
「……そうだね。」
俺は素直に応じ、俺たちは山頂方面の山小屋に向かった。
そして。
「ついたぞ。」
たどり着いた山小屋は木造で、車が1台入るかどうかの小さいもの。建付けの悪い戸を開けると、中は暗く殺風景、小屋の中はベンチが1つあるだけ。本当に最低限のものしかないが、他と違うところがあるとすれば、そのベンチに見覚えのある人物が一人、座っていることだ。
「カナデ?」
「……一誠?」
俺の声で顔を上げたカナデ。そこで初めて彼女の表情がわかる。それは俺が今まで見た中で一番、感情を表に出した表情。
「泣いて、いるのか?」
涙のわけは――。
次回3/8までに更新予定です。よろしくお願いします。




