第106話 曇り、のち③
今回は短め、大数君視点です。
それではどうぞ。
「亡、霊……。」
「お前、少し先が見えてるよな。だから、俺がいきなりここに立っても驚く様子はなかった。」
この人、僕の予知に気づいている口ぶり。僕は言葉が出てこない。
「えっと、ボーレイさん。あなた何言っているの? 大数君が未来が見えるわけ……。」
そんな様子を見かねたのか、三好さんがフード男に話しかける。
「いや、見えてる。お前らもうすうす感じているだろ。神杉の小僧の数あて、失敗があったか?」
「それは……。」
「なかったね。」
伊原君の言う通り、今日はこの予知の力をフルで使っていた。外してはいない。
「だからどうしたっていうんっすか。大数っちはあの神杉家、予知能力を持っていても不思議はないっすよ。」
「じゃあなぜおまえたち同じチームメンバーには黙っていたんだ?」
「それは、っすね……。」
本庄君も言葉に詰まって僕の方を見て。
「その力を使えばこれまでも、今の試合ももっと楽に勝てたはずだろう。それでも伝えなかったということはつまり、お前たちを信頼していなかったということじゃないのか。」
「違う!」
思わず大きな声が出た。
怖かったんだ。みんなの見る目が変わってしまうのが。前任者のされた仕打ちを見ているから。
予知能力の前任者、由多さんはその力で〝イセノ〟の不敗神話を作り、〝無限の巫女〟と呼ばれた。普通の人ならそんな彼女を敬い、あこがれる。実際、僕もその一人だ。
でも、裏の実態は人から距離を置かれていた。同じ神杉家、お父さんでさえも当時はどこかよそよそしかった。それだけ周りと違うってことは壁を作られることに等しい。でも家を守るためだの理由をつけて力だけは都合よく利用しようとする、そんな人の醜さを僕は子供ながらに感じ取っていた。
だから自分に力が宿った時、力を試してみたいという好奇心と人に虐げられる恐怖が同居していた。そしてだんだん前者よりも後者の方が大きくなっていった。
「僕はただ――。」
ああ、僕の恐れていたことだ。
D1チームの目が、疑惑の目に染まっていく。
「理解したか? それが有弦の遺した、呪いだ。」
呪い、いや。
「違う。これは神杉家が神様から賜った大切な力。」
こんな状況でも、僕を揺り動かすのはおじいさまの言葉。
「僕は示さなくちゃいけないんだ。このオリエンで一番になって。神杉家の威厳を、福ノ山を引っ張っていくにふさわしい存在ってことを。」
「使命感か、ならこれをつけろ。」
フード男は僕に何かを手渡す。それは年季の入った金色の腕輪。
「これをつければお前の望みはかなう。そしてもう、嫌な思いもすることはないだろう。」
金色の腕輪、その輝きは誰もが見とれるほどだ。でも。
「姫、護身用の剣を使う許可を。」
「美零、急にどうしたんですの。」
「あの腕輪は危険。あんな邪悪なオーラ、必ず何か災いが起こる。」
「オーラ、は見えませんけど。」
他の人には見えないみたいだけど、秋津さんや僕は感じ取れる。光の内側から漏れ出る負のオーラ。これをつけてはいけない気がする。頭ではわかっているんだ。
だけど体は。自分の腕輪をつけていない右手に通そうと動いている。
「おいおい、ボーレイさんよ。俺たちはそっちのD1チームと勝負中なんだ。話は後にしてくれよ。」
「関係ないやつは、黙ってろ。」
その言葉とともにフード男の拳が小奴可君の腹に直撃、その場に倒れこむ小奴可君。Aチーム連合からキャーと悲鳴が飛び交う。
「姫!」
「許可しますの。」
すぐさま秋津さんが飛び出しフード男に切りかかる。対してフード男も刀のようなもの取り出し応じる。
「最近の若者は物騒だな。」
「物騒なのはあなた。」
飛び交う剣戟。目にもとまらぬ速さで繰り出されている。一進一退、互角の攻防だがフード男は揺さぶる。
「その身のこなし、お前本当にこの世界の人間か?」
「……私は。」
この言葉で秋津さんの動きが一瞬鈍った隙をフード男は見逃さない。秋津さんの剣戟を受け流し、不意の蹴り。
「オラッ」
「くっ……。」
茂みの方まで吹っ飛んでいく秋津さん。
「美零!」
「駄目ですお嬢様。」
七塚さんが飛び出すのを必死に周りの人間が止めている。
「大数っち、駄目っすよ。あんな得体のしれないやつのいうこと聞いちゃ。」
横でも声がする。しかしもう、体は言うことを聞かない。
「大数君、ダメ!」
三好さんは僕を止めようと手を伸ばす。でもその前に腕輪が僕の右手首に到達。まがまがしい邪気が僕を包んでいく。
「うわああああああ。」
その手が触れることはなく。
そばにいた三好さんや本庄君はこの邪気にはじかれる。そしてそのタイミングを見計らったかのように、フード男は僕の方に手を向ける。
「さあ、出番だ。AIよ、お前の力使わせてもらうぞ。」
フード男の詠唱、僕にはこう聞こえた。
「Operation code 再起動。」
意識が闇に飲み込まれていく。
「復活の時です。有弦様。」
有弦、ああそうか、やっとわかった。
未来が見えなかったんじゃない。見せてもらえなかったんだ。
僕の意識が消えていく。
「ふふ、はははははは。」
「大数、君?」
「待ちわびたぞ、この瞬間を。」
豹変――。
次回は2/8までに更新予定です。よろしくお願いします。




