第100話 不足
ついに100話の大台へ。読んでくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。
そして100話目がこの話か……。
それでは本編どうぞ。
「何の技板だ。」
1つだけ色の違う技板、俺はそれを持ち上げて、腕輪で確認する。
「〝シールド〟か。」
腕輪の画面に現れる〝シールド〟の説明。絵柄も条件も効果も、見慣れているものだ。ただ一つのアイコンを除いて。
「使用、不可……。」
「何が起こったって顔だな。」
フード男は俺の様子をあざ笑うかのように種を明かし始める。
「封殺の番犬は死滅状態の指が発生した場合に発動する。効果は、相手の技を1つ指定し、これ以降勝負が終わるまで、使用不可とする。」
……そういうことか。
「つまりお前の〝流星〟で俺の右親指が死滅したことが引き金になって、俺の〝シールド〟を封印したってことか。」
「理解が早くて助かるぜ。」
厄介だな。
死滅状態の指が現れるたびに俺の使える技がどんどん減っていくって言ってるようなものだぞ。長期戦になるほど不利だ。
ここは、流れを変えないと。
「【いっせいのーで〝晴れ〟】」
今までの〝雨〟続きからの〝晴れ〟、これでかかると思ったのに。フード男はすべての指を下げて、〝ツインパワー〟となる。
「なんでかからない!」
「お前、やはり気づいていないのか。わかりやすいんだよ。ジェスチャーが。」
フード男は自分の手首を振りながら言う。そして俺も、はっとした。
〝晴れ〟をするときに思いっきり手を振り上げる俺の癖。近田先生との戦い以降、ノーデとの練習試合はもちろん、普段やるときも出ないようにはしていた。だけど、この極限の状況でそこまで意識が回らなかった。フード男は俺の手癖を見て、〝雨〟か〝晴れ〟か判別をしていたんだ。
「【〝トリック〟】」
フード男は次の一手を繰り出す。俺がさっき〝ツインパワー〟で得た5ptが球となり、それを奪おうと魔の手が迫る。
「【〝シー……」
「おっと、それは使えないはずだ。」
そうだった。
頭ではわかっていても、いつもの感覚で口走ってしまう。ポイントが奪われるのは受け入れるしかない。
だけど、いつまでもフード男の手のひらというわけにもいかない。考えろ、次の手を。
フード男は今の〝トリック〟で再び5ptに。となると狙いは、第2の〝流星〟、それによる技の封印だろう。ただ、〝流星〟は一度使うと、その次に使えるのは3ターン経過後だったはず。つまり、俺のこの死滅の指が元に戻った後。
それまでにせめて。
「【いっせいのーで〝雨〟】」
Turn 16
Issei 0pt hood man 5pt
【〝rainy〟Lv.1(S1)】
R×○○○○ R○●●●●
L●●●●● L○○○○○
一誠は手首を大きく振っての〝雨〟。フード男は様子見したのでしょう、右手4か所が固まります。しかしこの〝雨〟は相手を固めるためのものではない。
「なるほど、技を封印される前に、ポイントをためておこうという腹積もりか。ご丁寧に自ら5か所、固めて。」
やはり読まれていますね。
「【いッしんのーで〝2〟】」
フード男の数あては当たり、彼は右手を抜きます。
「【〝最高の手術〟】」
それでも一誠は強硬。これで一誠の左手は全回復し、お互い5ptの状況。ただ、一誠は〝シールド〟を封じられている以上、たった一度の数あて的中で命取りとなります。
そして迎えた18ターン目。
「〝流星〟の効果はこのターンまで。次でお前の右親指は元に戻り、俺は再び〝流星〟を使える。この意味、お前でもわかるだろ。」
「また、封殺の番犬で技を封印される。」
「そうだ、だけど、それじゃつまらないよな。だからチャンスをやろう。」
そういって彼が宣言するのは。
「【〝ルーレット〟】」
Turn 18
Issei 5pt hood man 5pt
【〝roulette〟Lv.5】
R×●●●● R
L○●●●● L○○○○○
「この技で出た技を次のターン使ってやる。もし、〝ルーレット〟がでたら数あてでありえない数字でも宣言しよう。さあ、お前の運命はお前自身で決めろ。」
回る運命の〝ルーレット〟。
分かれている区画は16、17くらい。〝ルーレット〟は効果で最低4枚以上の、自分の使える技すべてを枠に収める必要がある。これだけの選択肢ならば、フード男にとって有利な技を俺が選ぶ確率はかなり低い。
望みをかけて、俺は言う。
「ストップだ。」
回る勢いが落ちていく。そして回転は止まり、上の針がある区画を指し示す。フード男はそれを確認しぼやく。
「残念、外れだ。」
よし、これでまだ希望はある。
「【いっせいのーで〝大雨〟】」
Turn 19
Issei 5→10pt hood man 5pt
【〝heavy rain〟Lv.3(S3)】(T.P)
R○○○○○ R
L○○○○○ L○○○○○
「くそっ。」
一誠の渾身の一撃、〝大雨〟。下げている指を3倍固めにする強力な技です。この技を使うため、今まで一誠は〝雨〟を連発してきたのでしょう。しかし。
「当たらなければどうということはない。」
一滴たりとも〝大雨〟は降りません。幸い、〝ツインパワー〟でさらに一誠のポイントは5pt追加されますが、フード男は不気味なことを口にします。
「それと、人の話は最後まで聞けよ。」
「話って? 〝ルーレット〟は外れたんだろ。」
「確かに俺は外れといった。だがそれは――。」
最悪の結末が脳裏をよぎります。
「お前にとってのだ。」
男の技板の一つが、暗黒に染まっていきます。しかし、それは技を封印したわけではない。むしろその逆、これから宣言する技の絵柄がきちんと浮かび上がっているのです。
「【〝ダークマター〟】」
フード男から発せられる暗黒の闇。それは、橋で倒れているD2チームのメンバーを一人一人、飲み込んでいき、一誠に迫ります。
これは、私も、おそらく一誠も知らない技。しかし、強力な技であることは間違いない。
「【〝強化シールド〟】」
一誠は即座に宣言。〝シールド〟2枚分の分厚い光の防壁が一誠の前に出現します。
「ほう、まだ別の防御手段があったか。」
フード男はそう感心していますが。
「果たしてそれで足りるかな。」
〝強化シールド〟は無情にもひび割れて、闇が一誠と私を飲み込むのです。
Turn 20
Issei 10pt hood man 5pt
【〝dark matter〟Lv.8(S3)】
R××××× R
L××××× L○○○○○
防ぎきれなかった。
「〝ダークマター〟はS3、S2の〝強化シールド〟じゃあ防げない。そして、この技を受けた指は、さっきの〝流星〟のように数ターン経って自動で回復することもない。永遠にそのままだ。」
永遠に……。
俺の指は死んだ。
「ついでに、死滅が増えたな。」
見上げれば俺の目の前に番犬が立っている。そして俺の投影された指を、一つ一つ食いちぎっていく。そして俺の技板もまた一つ、黒く染まる。
「できないと思うが〝タイムスリップ〟を封じといてやるよ。そしてお前は既に防御技を使ったから次は俺のターンだ。」
間違いなく数あてをしてくる。俺に上げられる指は1つもないのだから。
「【いッしんのーで〝0〟】」
この数あては必ず当たる。そして数秒後、投影の終了が勝負の決着を告げる。
「負けた――。」
完膚なきまでに負けた。そしてそれを悟った途端、少し力が抜けて。
「Operation code 接続。」
フード男が唱える。
一瞬の頭の痛み、そして脳内空間に現れる巨大な手が、ノーデをつかむ。
「ノーデ……。」
俺は満身創痍、それでも必死にその手をほどこうとしたが、ダメだった。
ノーデは何も言わない。ただ首を横に振る。
来るな、ってことか。
俺の脳内空間には、俺一人だけが残された。でも現実のフード男はまだ、俺の目の前にいる。
「待ってくれ。お願いだ、ノーデを……。」
「敗者に選択肢はない。九山一誠、お前はもう、用済みだ。」
フード男は俺の胸ぐらをつかみ、俺の体ごと持ちあげる。そして、上半身が橋のロープよりも上にくる。
「お前のようなタイプはほっとくと後で何をしてくるかわからないからな。ここで始末する。」
橋から突き落とす気か。
下を見れば怖い。でもそれ以上に、何もできなかった自分が
「悔しい……。」
視界がぼやける。ああ、俺もここまでか。
だが、フード男の手が止まる。
「鍵の分際で、抵抗するか。」
急にフード男が俺から手を放し、俺は橋の上に倒れこんだ。
カギ……、ノーデのことか。
「お前の相棒に免じて命だけは見逃そう。」
そうか。ノーデが今、フード男の脳内かどこかにいるんだろう。そして俺のためにフード男に抵抗しているんだ。
まだ、取り戻せる。
「まて……」
フード男の足元をつかもうと手を伸ばした瞬間、俺は蹴り飛ばされる。
「敗者は敗者らしく、そこでくたばってろ。」
フード男はそう言って橋を立ち去っていく。
追いかけなきゃ。でも、体がいいように動かなくて。
やがてあいつが見えなくなる。
「ノーデ……。」
瞬きをしても、そこには誰もいない。
俺にもうできることが、ない。
そう思ったとたん、涙があふれて。
「うわああああああああああああああああああ。」
ただ叫びたくなって。
こんなこと、ノーデと会う前からわかりきっていたことじゃないか。それなのに、今まで順調に勝ってきて、それで目を背けていた。
なに勘違いしてたんだ、俺は――。
「俺は……弱いッ……。」
少年は気づく、己の無力さを。
次回は12/14までに更新予定です。よろしくお願いいたします。




