第95話 上げてけ!
前回のバトルの続きです。最近2か月で1試合書くペースになっていますね……。
それでは本編どうぞ。
現状に絶句するD2チーム。
対してC4チームはといいますと。
「なあ、四苑。〝タイムスリップ〟する必要ってあったのか? 普通にポイント貯めて〝台風〟を打ってもよかっただろ。」
「いや。あの時、D2チームさんは〝シールド〟分のポイントを持っていましたし、使わせる必要があったんです。〝タイムスリップ〟をすれば数あてで勝ちにきてるって思わせられるかなって。」
「俺の使った〝台風〟は確かS1、防がれやすいもんな。」
「それにたまたまですけど相手が〝霧〟をしてくれたおかげで、こっちの〝タイムスリップ〟終了をうまく勘違いさせることができました。」
「ああ、両手に戻ったって相手には見えないですもんね。」
「でも、〝台風〟でターンを削りきれるかどうかは、相手の下げている指の本数によるでしょ。そこはどう考えてたの?」
「う~ん、この勝負がそもそもパドルを上げるの面倒なので。あと、僕たちが〝雨〟の技板をもってなかったのは大きかったんじゃないかなって思います。要は今回は上げない方がいいって思わせたら勝ちなんですよ。」
多少私の補完も入っていますが、首から上の映像を見るに、C4チームの皆さんは今までの試合の流れや技の意図を共有しているようです。そしてD2チームの映像も見ているようで。
「お、あっちのチーム、焦ってる焦ってる。」
「あの様子だと、俺の攻撃、うまくかかったみたいだな。」
満足げな高さん。それもそのはず、彼は知らないですがD2チームの指は全滅、そして残り2ターンという最大のピンチを迎えているのですから。
「この試合、待ってても勝てますね。」
四苑さんも勝ちを確信しているようです。
さて、D2チームの会話に戻りましょう。
「どうすれば……。あと、2ターンってことは弼君とうちで終了。ターンが切れたら……。」
「勝負を続けられなくなって負けだな。」
「落ち着いてください、尾関山さん。落合君もネガティブなこと言わないで。」
「ネガティブ? 事実だろ。もう終わりだ。」
「弼ど……」
「まだだ、こういうのはそう、1つ1つ解決するんだ。」
千草さんの言葉を遮って言う一誠。
「あと2ターンでか? 無理だろ。」
「まだ2ターンある。終わりじゃない。」
弼さんと一誠、2人は数秒見つめ合います。目で何かを語っているよう。
やがて弼さんは「正直あがいても無駄だと思うが。」と愚痴をこぼしながらも
「【るせーどーで〝タイムスリップ〟】」
と掛け声付きの宣言。
「俺一人の判断では終わらせられないからな。」
「「落合君。」」「弼殿。」「弼君。」と皆さんも声を上げます。
全滅している以上、まずは回復。そして次につなげる判断は冷静ですね。しかし私がやったように〝ツインパワー〟を狙って宣言した〝タイムスリップ〟、そううまくはいきません。
それどころか。
「でもただ待つよりは最後まで攻めないと、ですね。」
「だな、四苑。【オーエス〝3〟】」
Turn 34
D2 team 1pt C4 team 0pt
【〝3〟】
R○●●○○ R●●●●●
L L×××××
「しっ、当たった。」
当てられた!
八幡君の数あてが成功し、C4チームは〝タイムスリップ〟の反動で死滅した左手を抜く。
そして35ターン目、〝霧〟が完全に晴れる。
「いよいよ、次が最後。」
「尾関山さんで当てるしかない。」
「うちが、当てる……。」
何か思いつめたような顔の尾関山さん。相当なプレッシャーだろう。
「宣言できないのなら俺がやる。」
見かねて声を上げる落合君。
「気持ちはわかるが弼殿、チームとして交代で宣言すると決めたはず。」
「そうだよ、次は尾関山さんの番、彼女が宣言するべきだ。」
「だがこんな顔してるやつが宣言しても結果は見えてる。初心者には荷が重いんだよ。」
「それは……。」
改めて尾関山さんの顔を見ると、確かにそう思うのも納得はするが。
「まあ、いったん話し合いましょう。」
ナユユがリーダーとして頑張って収めようとする。そんな中。
「うち、今どんな顔してるん?」
俺の方を向いて聴いてくる尾関山さん。
「えっ、まあ、笑顔は消えてる、かな。」
その答えを聞いた尾関山さんは、急に両手で頬を叩く。
「いきなり何やって。」
「いけんなぁ。これじゃ昔とおんなじや。」
?? 何のことだ。そう戸惑う気持ちが俺の顔にも表れていたんだろう。
「ちょっと昔話してええ?」
そして尾関山さんは語りだす。
一度だけ、家出したことがある。確か小学生のころ。
ちょうどテストで悪い点を取って父さんに叱られた時だ。そのときに「こんなもの聞いてるから。」と音楽プレーヤーを取り上げられ、カっとなって思わず家を飛び出してた。
歩いて歩いて気づいたら、福ノ山駅の近くの小さな広場。
ここは意外と人は来ない隠れスポット。落ち着ける場所だ。それに時々、路上ライブをやっていて心地よい音楽が聞こえてくる。
ほら、こんなに近くにも。
「どないした? そこの嬢ちゃん。」
関西弁、それにギターをもってるぼさぼさっとした黒髪の人。気にはなったけど、知らない人だから最初は目をそらしていた。
「無視か。」
そういってその人は演奏を続けた。歌声は微妙だけど音楽自体はいい曲、それに歌詞も少し元気をくれる。でもそこまで人は集まってこない。
人気、ないんだな。
でもなぜか、聞くのが嫌ではなくて。ふと近くの時計台をみると、いつの間にか1時間立っていて。
「そこの嬢ちゃん、さすがに一時間も一人でこんな場所おったらワイも気になるで。どしたんや?」
「おじさん、音楽やってるの?」
「そう見えんかったか? あと誰がおじさんや。ワイはまだ23やぞ。ピッチピッチのお兄さんや。」
「ごめんっ、お兄さんっ。」
「すまんすまん、そう涙目になるなや。ワイが悪かった。」
泣きそうな私に謝るその人は私を本当に心配してくれているようだった。
「それより、迷子か。迷子なら警察に……。」
「いや。警察言ったら、家に帰ることになる。まだ、帰りたくない。」
「おまえ……。」
何か察してくれたんだろう。ギターを置いてしゃがみ込み、その人は言った。
「ワイでよければ話聞くで。」
そのやさしそうな表情にほっとしたのか、私はことのいきさつを話していた。
「テストの点、悪くて叱られたんか。それに音楽プレーヤー取り上げるって、なんて親や。」
「お父さんの言ってることは本当だもん。悪くないの。」
「ええ、急に擁護するやん。」
「お母さんが出産で大変で、お父さんもお兄やわたしの面倒見るのに大変だった。そんなときに悪い点とって、姉になる自覚はないのかって言われてついカッとなって。悪いこと言ったのはわたし。」
「ちなみになんていったんや?」
「頭でっかち。」
「そりゃ怒るわ。」
「でもね、おねえちゃんになるって言われてもまだピンとこないの。英二兄はすごいキカイの才能があって賞も取ってたけど、わたしには、何も、何も誇れるものがない。」
「小学生で悩むことやあらへんでそれは。今は自分のやりたいこと、純粋に楽しめばええねん。やってることに意味を見出すんはもっと大人になってからでええ。ワイがそうやったし。」
「そう、かな。」
するとその人は私の頬を挟んできた。
「そんな暗い顔するなや、もっと笑い。そうだ、いいものをあげよう。」
「いいものって?」
「じゃじゃーん、ミニギターや、すごいやろ。ワイのお古やけど。」
私でも持てるサイズの、年季の入ったギター。でもその音色はなぜか響く。
「それで音楽でもやってみたらどや? はまると楽しいで。」
でも。
「知らない人からものもらっちゃいけないってお母さんいってたよ。」
「うう、厳しい世の中やな。じゃあ、サインつけとこう。こう見えてそこそこに知名度はあるはず。これでええやろ。」
そういいながらその人はギターに黒いマジックペンでサインを書いてくれた。
「えっと、ワニーズ? 名前は……、字汚くて読めない。」
「サインとはこういうものよ。あとはワイはしがないバンド、ワニーズのギター担当、シブヤや。」
「関西弁なのに渋谷って……。」
「おい、なに笑っとんねん。」
そうツッコまれたけど、ツボに入ったように笑いが止まらない。
「ありがとう。音楽、ちょっとやってみる。」
「そうかそうか、これで誇れるものもできたやろうし、帰れそうか? 」
「うん。」
「それでええ。これでもっと、気分上げてけっ!」
その日からうちはその人のまねをしてる。音楽も、関西弁も一人称うちって呼ぶようにして。そして――。
「なんか、語ってしもうたな。それに取り乱してごめんみんな。でも最後、任せてくれへんやろうか。」
「当てられるのか?」
「わからん。でも、四苑があれだけやったんや。お姉ちゃんのうちがやらんでどうするんって話よ。」
「だがな。」
「私も、尾関山さん一人に責任を押し付けたくないというか。」
落合君とナユユは尾関山さんが数を宣言するのに否定派だ。それは、彼女を心配してのことだろう。
でも、本当に彼女を思うなら。
「俺は、尾関山さんの番だから、尾関山さんの思う数字を宣言すればいいと思う。」
「拙者も、同じく。」
千草さんも俺の意見に賛同してくれた。その様子を見たナユユは一息ついて言う。
「3対2ですかね。なら、多数決で尾関山さんに任せます。」
「ありがとう。ならみんな、全部指上げてくれへんか?」
「なぜだ、三香殿。」
「その方が気分が上がるやろ。」
笑顔で言う尾関山さんの一言に張りつめていた空気が少し和らぐ。
「結構、長い間話してるようだが、そろそろ宣言しないと、負けとみなすぞ。」
「すみません、もういけます。」
木戸先生から注意が飛び、尾関山さんが謝罪、そのまま宣言する。
泣いても笑ってもこれで最後だ。
「【せーので……。」
「うああああ。」
尾関山さんの宣言を打ち消す、驚嘆のような、悲鳴のような声。C4チームの方から。
見ると。
せり上がる水面、浮き上がるC4チームのボート。下から何かが来る。
その姿は――。
「巨大な魚?」
C4チームのボートの下にナマズのような、見たこともない魚がいる。明らかに普通じゃない。
その時パッと思い出したのはこの湖に入る前にノーデが言っていたこと。
「まさか、これが言い伝えであった、湖の主!」
「いや、これは。数年前、近くの養殖場から逃げ出した魚かも。確か、体長数メートルと……。」
「解説してる場合か、今助けに行くぞ。」
「ソノヒツヨウハナイ。」
マークスリーさんが木戸先生を制止する。よくよく見ると、魚は動く気配がない。もしかしてあの魚、死んでるのか?
「生体反応はない。害はないだろう。」
英二さんがそういうが、それってどうやってわかるのかは謎だ。まさか、アヒルさんボートにはそういう機械まで積み込んであるのだろうか。
「季節外れの〝台風〟でびっくりしたのかもな。」
落合君の推測は、まあ、映像とは思えぬ迫力だったしそうかも。
「えっと、それでうちの数あての方は……。」
「そうだ、それは。」
宣言した本人の進言で全員、〝イセノ〟の勝負に意識を戻す。
現状、C4チームのパドルはすべて、水面から離れている。これは――。
Turn 35
D2 team 1pt C4 team 0pt
【〝10〟】
R○○○○○ R○○○○○
L L
「うちの宣言した数は、10。」
「そして上空の指も、全部上がってる!」
「これ、あり?」
C4チームから疑問の声も出る中、英二さんは生徒会として判断を下します。
「今回は水面からパドルを上げれば指を上げた扱いとするというルールだ。予想外の事態であってもルールはルール。よってこの試合……。」
「D2チームの勝利だ!」
思わず両チーム耳を塞いでしまうほど、湖に轟く木戸先生の声。そしてすぐ後に響き渡るD2チームの歓声。対してショックを受けるC4チーム、その司令塔はため息交じりにこういいます。
「本当、勝負って、何が起こるかわからないものですね。」
VSC4チーム戦決着! 思ったより長くなってしまいました。
次回は少しお時間をいただきまして11/9までに更新予定です。
よろしくお願いします。




