第八話「感謝祭と影」(Ⅲ)
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そしてとうとうやってきた感謝祭当日。
山賊がいなくなったことで、近隣の村からも観光客がやってきて、村はとても活気づいていた。
奇麗な秋晴れの下、ヒューイの店はそこそこ繁盛していた。
理由としては単純にヒューイの出す料理が物珍しく、おいしそうであったこともそうだが、ヒューイの格好の不自然さがこの日に限って言えば緩和させているということだろう。
いや、ヒューイの格好自体は特別変わってはいないのだが、いつもだとどうしても浮いてしまう仮面も、祭りの席というのであれば話は別だ。
まぁ、そんなこんなであらかじめ用意していた三十食のサンドウィッチは瞬く間に売り切れようとしていた。
「おう、あんちゃん繁盛してんな!」
そういって残り数個となったところで、見知った人物がやってきた。
「――あぁ、ライオネルさん、いらっしゃい。一つどうですか?」
「ん?じゃあ肉の方貰うか」
そう言われてライオネルに最後のメンチカツサンドを渡すヒューイ。
「これ、幾らだい?」
「あ、お題は結構です。もう十分稼がせてもらったので」
「おぉ、豪気なこった」
事実、今日これまでの売り上げだけでしばらくは困らないだけの旅費は稼ぐことはできていた。
ギムから前借したぶんも合わせると、必要なもろもろを買っても大分手元に残る計算になる。
「それにお世話になった餞別も兼ねているんで」
「――そっか、あんちゃんは祭りが終わったらもう」
「はい、明後日にはここをたつ予定です」
どこか残念そうなライオネルに対し、そう言い切るヒューイ。
「何も急すぎやしないか?そんなに急ぐ旅なのかい?」
「いえ、そうでもないんですが、山賊たちをいつまでも村の中に置いておくのもリスク高いでしょう?」
そう、ヒューイには今現在、ギムとともに山賊たちを北都の組合に届けるという役割があった。
山賊たちの食べる食料に、寝床の確保、更に脱走した場合に近隣住民に及ぶ危険性など、彼らを長くここに置いておくことに関しては百害あって一利なしといったところだった。
「いやまぁ、そうなんだが、ちょっとマリアのことを思うと残念だなと――」
あぁ、そういうことかとヒューイは納得した。――が、同時に少々解せないと思った。
確かに自分はマリアになつかれているが、マリアは見た感じ誰にだって優しいし、なついているように見える。
自分がマリアにとって、そう特別とは思えなかった。
「――マリアがどうかしたんですか?」
「いやなに、あんなマリア俺は初めて見たんで、そんなマリアを引き出したあんちゃんがいなくなるのは残念だって思ったのさ」
「――あんな、マリア?」
明るく、聡く、みんなに優しく、好かれているマリア。そんな彼女を当たり前だと思っていたヒューイに、その言葉は少々衝撃的だった。
「マリアって、凄く頭のいい子だ。だからか俺らに対してはどこか遠慮してる風な時が多くてよ。それこそ年相応にはしゃぐ姿なんて、あんちゃんが来るまでは見たことがなかった」
ヒューイが当たり前だと思って見ていたマリアの姿が、実は真実ではなかった。
いや、逆か――、ヒューイがマリアの本質を、子供らしさを引き出したのか。
「だから、また今度この辺を通りかかったらマリアを訪ねてくれないか?」
「それは――」
「しがない近所のおっさんの、まぁ親心だと思ってくんな」
そういってライオネルは立ち去る。
ヒューイにまた、果たせそうもない約束を残して。
「――マリア、お前は恵まれているな。色んな人に想われているぞ」
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そして祭りは一日目の夜を迎えた。
中央の広場では村名産のシードルがふるまわれて、その活気は最大級に達していた。
「うわっ、すごい酒気だ」
料理を売り切り、露店のあとかたづけを終えたヒューイがその場に来た頃には縁もたけなわ――あちらこちらに酔っ払いが続出していた。
黒剣の杜で酒とは無縁の生活をしていたヒューイは、広間に充満した酒気に若干顔をしかめた。
そんな祭りの中央ステージではメインイベントである飲みの大会が行われていた。
ルールは単純明快。相手と飲んで潰せば勝ち。
現在は昨年チャンピオンというライオネルさんと、今年ただ酒目当てで飛び込んだギムが独走していた。
「師匠が見たら野蛮なっていいそうなイベントだな、これ」
そうボソッとしたヒューイのつぶやきを聞き逃さなかったものがいた。――ライオネルである。
獣人独自の鋭敏な聴覚でその声を聞き取ったライオネルはステージ上から目ざとくヒューイを見つける。
「おおっと、そこにいるのはヒューイ君じゃありませんか!ヒック、こっちで一緒にのもうぜおい!」
完全に出来上がっていた。
「――いや、俺は酒って飲んだことがないので」
「おおっとそれはいけない!漢たるもの酒を足しなまないと!」
ステージ上から完全な絡み酒を見せるライオネルに、あきれ顔のヒューイ。
昼間はかっこよかったのに、どうしてこうなったと考えざる負えない。
「がはははは、ヒューイは味覚はおこちゃまだったか!」
そこに茶々を入れたのは、同じく大分出来上がっていたギムである。
「あ゛?」
恩のあるライオネルに言われても我慢できたことだが、ギムに言われるとムカッと来る。
ヒューイ自身もだんだん、この場の雰囲気にのまれ始めた。
「――やってやるよ、飲めばいいんだろ飲めば!!」
「お、いいね。ささ、駆け付け一杯!」
「よこせ!」
ギムが寄越した杯をふんだくるようにヒューイは掴むと、それを一気に煽った。
この村特産のリンゴの香りが鼻を抜け、独特の苦みのあるさわやかな味がした。
「うまい!」
「おぉ、森人の癖していける口だねぇ、なら勝負と行こうか!」
ギムのその提案にヒューイは首を縦に振って答える。
「俺も参戦するぜぃ!」
そこにライオネル悪乗りする。
「すぐに潰してやるから覚悟しろよ!」
「――ば、馬鹿nおろろろろろろ」
「――こんなはzおろろろろろろ」
数刻後、ステージ上で醜態をさらす二人のバカがいた。
ライオネルとギムである。
「こ、この俺が負けるだなんtおろろろろろろ」
――と、口から見苦しいものを吐きながらライオネルが言う。
「森人って酒に弱いんじゃなkおろろろろろろ」
――と、同じく醜態をさらしながらギムが言う。
森人は酒に弱い。――これは、鉱人は酒が好きのと同じくらい世の中に浸透している常識だ。
もともと森で自然とともに生きてきた森人は、酒精と縁のない生活をしていた。
その為、種族単位で耐性が付いていないのだ。
しかしながら、何事にも例外っていうのがあるので――。
その二人を見下ろしながら、ヒューイは飄々とした様子でこう言う。
「情けない、大の男が酒なんぞで簡単にのびて」
先ほどの意趣返しとばかりにいうヒューイ。
その顔は、酒豪二人を潰したあとだというのに素面と変わらない様子であった。
――そう、今まで酒を飲む機会がなかった故自覚なかったが、彼は、ザルを超えたワクなのであった。
「――まだまだいけるぞ?」
「やめてくれ! 明日の分がなくなる!!」
そのライオネルの悲鳴をもってして、感謝祭の一日目は終了した。
……to be continued
次回、第九話「感謝祭と影」(Ⅳ)、7/30更新予定




