第九話「感謝祭と影」(Ⅳ)
すいません、夏バテしてて遅くなりました!
みなさんも気をつけて下さい!
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そして明けた感謝祭二日目。
この日はマリアと約束したように、朝から二人で感謝祭を歩いていた。
「お兄さん、あっちで売ってる焼き菓子がおいしそうなのです!!」
「マリア、まずは手元のリンゴ飴食べ終えてからにしなさい」
本日もまた晴天であり、活気も昨日より多い会場を巡る。
マリアは、この日の為に貯めたお小遣いを使って、まるでこの感謝祭のお菓子を全種食べつくさんとばかりに食べている。
朝ごはんもしっかり食べたのに、何故そこまで食べれるのかを聞いたら、“甘いものは別腹”なのだそうだ。
「よしマリア、このお菓子は俺が買ってあげよう」
「ダメなのです! お兄さんはビンボーなのですから、逆にマリアが奢ってあげるのです!」
そういってマリアは露店のおっちゃんに、焼き菓子を二つ注文する。
「……」
ヒューイは、酷く悲しい――情けない気持ちになった。
これからは、絶対財布を落とさない、無くさないと固く心に誓った。
「はい、お兄さん焼き菓子なのです」
「――あ、あぁ」
マリアは買ってきた焼き菓子をさっそくヒューイに渡す。
情けない自分はこの際置いておくとして、少女の好意を無下にはできないヒューイは、それを受け取り、パクリと齧る。
小麦色の焼き菓子の中には焼きリンゴが入っていて、特有の甘酸っぱい、懐かしい味がした。
「――なるほど、カスタードのないアップルパイみたいなものか」
「かすたーど??」
「なんでもない。――おいしいよ、ありがとうマリア」
「えへへ、こちらこそなのです」
そういって前を向いて歩きだすマリアについていく。
そういえば、何故この味を懐かしいと感じたのか、それをヒューイが思い出す。
――アップルパイは、確か彼女の好物で昔はよく作ってたな、けどカスタードが入ってないことによく文句をつけていたっけ、と。
(いや、カスタードの作り方お互い知らなかったんだから仕方ないじゃん、むしろ蜂蜜とかで代用しようと試行錯誤してた俺を褒めるべ……き――)
――彼女……。
――彼女とは、誰のことだ……?
その瞬間、ズキリと頭がひどく痛むのをヒューイは感じた。
「――っ!」
失われた過去を思い出そうとすると時々起こる酷い頭痛。
周囲の景色が揺らぎ、目の前が点滅するほどの強い頭痛だ。
思わず立っていられなくなり。片膝をつく。
(――大丈夫だ、落ち着け。こんな時の対処法はわかっているだろう)
目をつぶり、深く大きく深呼吸をしながら、ゆっくりと思考をソコから切り離す。
そして過去から目をそらして、目の前の今を強く意識する。
目を開けると――ほら、元通り。
「――お兄さん、どうしたのですか?」
目を開けると心配そうに見つめる幼い瞳があった、マリアだ。
「大丈夫だ、ちょっと靴紐がほどけてしまってね」
せっかくの感謝祭だ、心配をかけさせまいと嘘を吐いてすぐに立ち上がる。
そしてマリアを連れて歩き出そうとしたその時だ。
「――ん?」
遠くで不自然な人影を見つけた。
それは、人ごみの中できょろきょろと周りを見回しては走るライオネルの姿だった。
――誰かを探しているのか?
「あ、ライオネルさんなのです!」
同時に見つけたらしいマリアがライオネルに向かって大きく手を振る。
するとそれに気が付いたライオネルが――いや、マリアというより、隣に立っているヒューイに気が付いた風のライオネルが、こっちに走ってやってきた。
「おい、あんちゃん大変だ! さん――」
ライオネルはそこまで言いかけて、となりにいるマリアを見て言葉を止める。
マリアの前ではできない話のようだ。
「マリア、少しあっち行っててくれないか? 大事な話があるみたいだから」
「ん、わかったのです」
そういってマリアが少し離れた露店の方へ行ったのを確認して、ヒューイはライオネルに向き直る。
「――で、どうしたんですか?」
するとライオネルはひどく慌てた様子でこう話した。
「どうしたもこうしたもねぇ、山賊どもが逃げ出した!」
そのセリフに絶句するヒューイ。
「何故だ、鍵は?」
「外から壊されていた」
「外にまだ仲間がいたのか!」
「――いや、多分違う」
すると更に深刻そうな顔でライオネルがこういった。
「頭目を含めた一部の山賊が小屋の中で殺されていた。仲間なら多分こんなことはしないだろう」
「……」
ならば、犯人の目的はなんだ?
――いや、それよりもまず。
「ライオネルさん、このことは今誰に話していますか?」
「とりあえずセリアの判断で、若い衆には話して、急いで村中を警戒してもらっている。観光客には伏せてある」
「賢明な判断ですね」
彼らが感謝祭でトラブルを起こしさえしなければ、最悪、山賊は全員逃がしてしまってもいい。
今、一番怖いのはパニックだ。
この感謝祭に来ている観光客全員がパニックに陥れば、大惨事が起こりかねない。
「あんちゃんも手伝ってくれるか?」
「あぁ、でも先にマリアを安全な所へ」
「もちろんだ、今セリアがいる中央の広場が一番安全だと思うから、そこに向かえばいい」
「ありがとうございます」
ヒューイはライオネルにそう礼を告げて、マリアの元へ向かう。
「マリア、なんかセリアさんがマリアを呼んでいるみたいだから、一緒に広場へ行こう」
「? わかったのです」
少々疑問に思ったみたいだが、マリアも納得してついてきた。
その途中でも多くの人とすれ違ったが、パニックの気配はない。
緘口令はしっかりと聞いているようだった。
マリアに事件を気取られないように、それでいて急いで広場へ向かう。
しかし、もう少しで広場ってところでまたしてもヒューイは見知った人物と出会った。
「! 丁度いいところであったな!!」
「――ギムか。急いでいるんだが?」
唐突に会ったギムは、マリアに話を聞かれないようにヒューイに顔を寄せてこういった。
「ライオネルから話は聞いている、山賊共が逃げたんだってな」
「あぁ、マリアを安全なところに届けたら、俺も手伝う予定だ」
「なら話は早い」
そう言ってギムは向こうの路地裏を指刺す。
「向こうの路地裏に、さっき何人かの怪しい男たちが入っていくのが見えた。奴らかもしれない、手伝ってくれるか?」
「……いや、マリアを届けるのが先だ」
「先に奴らをどうにかして、目先の安全を確保したほうがいいんじゃないか?」
「――」
ヒューイは少しの間考える。
逃げるだけの山賊たちはたぶん放っておいても安全だ。
この場合、一番危険なのが、奴らを解放した犯人だ。
山賊たちの仲間ではないにもかかわらず、奴らを解放して、場合によっては殺しも辞さない危険人物。
その路地裏へ向かった中に、その犯人がいたとしたら――。
「――悪い、マリア。少しここで待っていてくれないか?」
「どうしたのです?」
「ギムと少し用事をかたずけてくる」
それに喜んだのはギムだ。
「お、いいのか?」
「あぁ、仕方ない」
そのやり取りに疑問を持ったものの、深く追求ぜずにマリアは――
「わかったのです」
――と返事をする。
「じゃあ行くぞ、ヒューイ」
「あぁ!」
そう言って路地裏に駆け出す二人。
「――あの、お兄さん!!」
その瞬間、ヒューイはマリアに呼び止められる。
「どうした?」
「あの、帰ってきたら、いっぱい、いっぱい埋め合わせしてくださいね、お願いですよ!!」
幼いながらに何か感じることがあるのだろうか、マリアは必至そうにそう言ってきた。
「――約束する」
ヒューイはマリアにそう言って、今度こそ路地裏に入っていった。
二人の入っていった路地裏は不気味なほどに、シンと静まり返っていた。
人の気配などまるでしない。
表の喧騒が嘘のような――、ここに人が入ってきたのが嘘のような静けさだった。
「――なぁ、ギム。ここに本当に奴らが入っていったの――がっ!!」
突如、ヒューイの後頭部に強い衝撃。
一気にヒューイの視界が暗転し、地面に衝突する。
「――悪いな、これも仕事なんでな」
そういうギムの声を聞きながら、ヒューイの意識は闇に飲まれた。
……to be continued
次回、第十話「ギムという男」、8/20更新予定。




