第五話「ヒューイの料理」
陽刻の十三(午後四時)、セリアが外出先から教会に帰宅すると食堂の方から香ばしい匂いが漂ってきた。
「――まぁ、いい匂い」
荷物を自室に置いたセリアはさっそく食堂の扉を開く。
そこではキッチンに立つ仮面の青年――ヒューイと、その手元をキラキラした瞳で見つめる獣人の少女――マリアの姿があった。
「いい匂いですね、どんな料理を作っているのですか?」
その問でようやくセリアの帰宅に気が付いた二人は同時に振り替える。
「あ、お姉さまお帰りなさい」
「お帰りなさい。今、露店で出す料理を試作しているところです」
そういえば今日の朝にそんな話をしたことをセリアは思い出した。
「今できたところなんで、よかったら味見をどうぞ」
そういってヒューイが皿に載せてセリアに差し出したのは、セリアの見たことのない小麦色の料理だった。
小さく切った野菜や山菜をまとめて一塊にした後に、油で揚げたのだろうと思われた。
「少し塩をふってあるので、食べてみてください」
「それでは、いただきます」
一口ほおばると、サクサクとした小気味の良い食感とともに独特な山菜の香りが鼻をすり抜ける。そして、噛めば噛むほど野菜のうまみが口いっぱいに広がった。
「――これは、おいしいですね」
「ありがとうございます」
「お姉さま、これマリアも手伝って集めたのですよ」
マリアがはしゃいでセリアに微笑ましい報告をする。
「そう、よく頑張りましたね」
「えへへ」
そういってセリアは、マリアのふわふわとした髪を優しくなでる。
「あ、あとこれもうひとつあります」
そういって今度は楕円形の小麦色の塊だった。
外見では何がどういう風に調理したのかがわからない料理だった。
「こ、これは?」
流石のセリアも少ししり込みする。
この料理もまた、セリアの知らないモノだった。
「お姉さま、お姉さま! これはすっごくおいしかったのです!!」
「……本当ですか?」
「ホントーなのです!」
セリアは、このマリアのキラキラした目を信じることにして、一思いにかぶりついた。
するとどうだろうか、かぶりついた瞬間にじゅわっと肉汁が染み出した。肉汁たっぷりのジューシーさもあるが、シャキシャキとした小気味いい食感もある。
――おいしい。
「これは?」
「知り合いからもらった猪肉を細かく刻んで、同じく刻んだ北方玉ねぎと混ぜて、パンの粉をまぶして揚げたものです」
「――こんな料理が」
これにはセリアも驚きを隠せない。
自分も台所を任されて長いが、こんな料理は全くと言っていいほど知らなかった。
種族は同じ森人であるから、森人伝統の料理とかならセリアも知らないはずはないのだ。
「これは、誰から教えてもらった――いえ、どこの料理なんですか?」
もしかしたらこれは“聖域”独自の料理――恐れ多い神聖な料理なのではないかとも思い、ヒューイに問いかける。
「いえ、自分でいつの間にか作れました」
「――!!」
これが才能か!!とセリアに衝撃が走った。
セリアもアレンジ位はできるが、自身の感性だけでこんな斬新で新しく、そしておいしい料理を創作するだけの腕前はなかった。
これが神にも等しい時を生きる古森人のなせる業か、とセリアは戦慄した。
「祭りで食べやすいように、これをパンにはさんで売ろうと思います」
セリアの心境を知らないヒューイは、とどめとばかりに更なる改良案を提示する。
――なるほど、パンに、はさめば歩きながら食べやすいですわよね、とセリアは自身の自信が完璧に打ちのめされた状態で思った。
気高い身分でありながら優しく親しみやすく、そして腕っぷしも強ければ料理の腕もプロ並み。セリアは、本当にこの青年は何者なのだろうかと感じた。
「――ちなみにこの料理の名前は何と言いますか?」
「『かき揚げ』と『メンチカツ』です」
……to be continued
次回、第六話「感謝祭と影」(ⅰ)、6/24更新




