第四話「旅人と少女」(Ⅳ)
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「それで、山賊の人たちはどうなったんですか?」
翌日、二人で山菜を取りに山へ向かう途中でマリアに昨日のあらましを聞かせていた。
「あぁ、きちんと手当して空き倉庫の中で拘束している。感謝祭が終わったらギムが馬車を借りて北都の組合に届ける手はずになった」
「それじゃあ、お兄さんもその馬車に乗って行くのですか?」
「……まぁ、そうなるな」
更に言えば、本来のランクでは受注できなかった山賊退治の依頼を、ギムとパーティを組んで討伐したということにして、依頼金の半分をヒューイが受け取ることになったので北都まで行った後の資金問題もある程度解決したのである。
その後、無一文なことを話したところ、前金としてギムがいくらかお金を融通してくれたため、ヒューイが抱えていた問題の大半は解決したと思ってもいい。
そして山賊退治から一晩明けた今日、ヒューイはある決断を下した。
ギムから融通してもらったお金を元手に、自身も露店を出して感謝祭に参加することを。
その露店でヒューイが売ろうとしているのは――
「まさか、お兄さんがご飯作れるとは思わなかったのです」
「何を隠そう、師匠からは『……まぁ、食べられなくはない』という最大級の賛辞をいただいた程の腕前だからな」
「……それ、褒められているんですか?」
――そう、料理だ。
感謝祭では、たくさんのおいしいものが出るとはマリアの弁。ならばそれに便乗しようというのだ。
ヒューイはこう見えても創作料理に手を出せるくらいには熟練者だ。エルフないしヒューイ独自の料理は、物珍しさだけでも人が呼べるのではと踏んだのだ。
それにはまず食材の確保。まずはタダで手に入る野草に目を付けた。
地元の山に疎いヒューイは案内役をマリアに頼みここまでやってきた。無論、マリアへの報酬は試作したおいしいご飯だ。
「事情を話したらセリアさんとライオネルさんが最低限の調理具を貸してくれるっていうし、ここの人たちが親切で助かった」
「えへん、なのです」
ヒューイは正直、自分が落ち延びたのがこの村で――セリアたちに助けられて本当に良かったと思っていた。
比較的平和だとしてもこのご時世、“村”というのは閉鎖的なイメージが強くあった。事実、そういった村もこの半年間でたくさんヒューイは見てきた。
人の出入りが多い大きな街と比べて、出入りの少ない村は顔なじみだけで回っていて、かつ生活が苦しかった頃の名残か、人々の心に他者を受け入れる余裕がない。
そんな中でこの村は、驚くほどヒューイに優しい。――仮面をつけた怪しい
よそ者であるはずのヒューイに。
それはこの村がもともと持っていた気質かもしれないが、ヒューイにはセリアとマリアの存在が大きいように感じていた。
この数日暮らしていて分かったが、彼女らがこの村の精神的支柱であると思った。
誰もかれもが、如何にも怪しげな風体のヒューイを『セリアさんとこに世話になっている人』だから、『マリアがこんなになついている』のだからと警戒を解いて接してくれている。
ライオネルと初めて会った時だってそうだ。あの時マリアがそばにいた意味は非常に大きい。
マリアに信用されていたからこそライオネルに信用され、ライオネルにも信用されたからこそ山賊討伐の時にあれだけの村人が協力してくれたのだろう。
そう考えると、セリアには頭が下がる思いだとヒューイは思った。
「お兄さん、ついたのです」
「そうか、ありがとうな」
そんなことを考えてるうちに、山菜の取れるポイントに到着したようだ。
「この辺でとれる野草には無知だから、マリア先生、ご教授お願いします」
ヒューイが知っている野草とは、“聖域”である黒剣の杜で独自の進化を遂げた固有種ばかりなので、他の地域では参考にならない。
その為、山菜探しはマリアが頼みとなった。
「うむ、任されたのです」
ヒューイの言葉にマリアが調子よく答えて、さっそく山菜集めが始まった。
「マリア、これは?」
ギザギザの葉をはやした野草をブチブチと取ると、マリアに問う。
「それは野生の北方人参ですね。根っこごとお願いします」
そんな感じで採取を進める。
「こっちのは?」
「えと、甘味ハンゴンソウというのです。旬じゃないのです」
「これは?」
「それはわかんないのでやめときましょう」
「こっちの変なのは?」
「秋ゼンマイもどきです。マリアは苦くて嫌いなのです」
「じゃあこれは採取っと」
「!?」
そうやって採取を始めること約二刻、二人の籠の中にはなかなかの量の山菜が取れた。
「じゃあ、暗くなる前に帰るか」
「ハイなので――」
そこまで行ったところで、がさりと近くの草むらで音がした。
「ひっ」
小さく悲鳴を上げたマリアをかばって、ヒューイは一歩前に出る。
今はいわば実りの秋。冬眠前の猛獣は今こそ活発に活動している。
熊程度なら何とかなるが、万が一にもマリアに何かあってはいけない。
細心の注意を払って、草むらを注視すると、そこから現れたのは大きな猪――
「……あん、ヒューイじゃねえか」
――を担いだギムであった。
見知った顔を見て一気に緊張が弛緩する。
「なんだはこっちのセリフだ。一体こんなところで一人で何してるんだよ」
「――まぁ、ちょっとな。それよりほら見ろ!」
うまい具合に質問をはぐらかしたギムは、大猪を指す。
「突然飛び出してきたんでついでに狩ったんだが、凄い大物だろ?」
今夜は猪鍋だな、といって笑うギム。
しかし確かに凄い大物ではある。マリアよりも一回り大きい猪なんて早々見ることはできないだろう。
この獲物を苦も無く仕留めることのできるギムの実力は、推して知るべしといったところか。
「……でだ。正直道に迷っちまっていたんで助かった。一緒に帰っていいか?」
そんな実力者が間抜けなことを言っているさまに更に脱力するヒューイ。
「いいよ、丁度俺たちも帰るところだったし」
「――ところで、そっちのちっこいのは?」
ちっこいの呼ばわりされたマリアはムスっとふくれてそっぽを向く。
「俺がお世話になっている教会の子のマリアだ」
むくれたマリアに代わってヒューイがマリアを紹介する。
「そうか、オレはギムだ。よろしくな!」
そういってギムはずんずん近づいてきて、マリアの頭をその大きな手でわしわしと乱雑に撫でる。
「や、やめるのですぅ!」
「おいこら、やめてやれよ」
全力で嫌がるマリアだが力の差でギムを振り払えずにいて、流石にやりすぎだと思ったヒューイが間に入る。
ようやくわしゃわしゃ攻撃から解放されたアリアは、素早くヒューイの陰に隠れてフシャーと威嚇する。
「――なんかお前、嫌われてるぞ?」
「そういうお前は、ずいぶんとまぁ気にいられたな」
そこでヒューイはふと疑問に思う。何故自分は短期間でこんなに好かれたのだろうか?
第一印象は、川辺に打ち捨てられた姿だからいいわけないし、その後だって特別何かした覚えはヒューイにはなかった。
実際のところはそうではなっかったが、ヒューイ自身には自覚は丸でない。
結果、その結論は短絡的なところに収まった。
「お前の顔が怖いだけじゃないか?」
「言ったなてめぇ!」
そう言ってじゃれあいながら三人は家路を急ぐ。
思えば、こんなに人と触れ合ったのは故郷以来かもしれないとヒューイは感じた。
そう思うと、ヒューイ自身は人と触れ合うのが好きなのかもしれない。“目的”を果たしたら、そういった職業に就くのもありだなとヒューイは感じた。
――そう“目的”だ。ヒューイは改めて自身が旅に出た理由を再認する。たった四日いただけで、この暖かな陽だまりに埋没したい衝動が沸き上がってはいるが、“目的”がその暖かな心を急激に冷やし、衝動にストップをかける。
この陽だまりに自分が居られるのはあと四日。その間にやれるだけのことは――恩は返さねばとヒューイは心に刻むのであった。
……to be continued
次回、第五話「ヒューイの料理」、6/18更新




