第2話「壊し屋と金剛不壊」④
小屋へ戻ってからも、篠はいつも通りだった。
「たくさん採れましたね!」
「ああ。おかげで持って帰るのが大変なくらいだ」
床に下ろした素材袋が、ずしりと重い音を立てる。
癒し草。鉄鉱石。牙猪の牙や皮。鎧熊から剥ぎ取った爪や毛皮。
昨日までの私なら、こんなものを一日で集めるなんて考えもしなかった。
篠と一緒なら、素材集めの幅は一気に広がる。
狩人としては、本当に頼りになる。
――狩人としては。
「霧江さん?」
「何だ?」
「今、何か失礼なことを考えませんでした?」
「気のせいだ」
じとっとした目を向けられたので、私は素材袋の口を開いた。
「とりあえず、今日の分を整理するか」
「はい。お手伝いします」
篠もしゃがみ込み、袋から素材を取り出していく。
さっきまでの話など、なかったことにするように。
その隣には、二つに折れた刀が置かれていた。
鞘へ戻すこともできず、布で包まれている。
「それ、どうするんだ?」
私が指さすと、篠は手を止めた。
「刀ですか?」
「ああ」
「町へ戻ったら、使えるところだけ売ろうと思います。少しでも次の武器代になりますから」
「また買うのか?」
「買わないと狩りができませんので」
当然です、とでも言うような口調だった。
「今度は、もう少し丈夫なものを?」
「……できれば」
ほんの少しだけ、返事が鈍る。
「でも、丈夫な武器は高いですから。手持ちで買えるものを探します」
それでは、また同じことになる。
安い武器を買う。
壊す。
また買う。
金がなくなって、さらに安い武器を選ぶ。
そして、また壊す。
さっき聞いた話そのままだ。
「……よく二年も続けてきたな」
「狩りは好きですから」
篠はあっさり答えた。
「それに、私にはこれくらいしか取り柄がありませんし」
「そんなことないだろ」
「ありがとうございます。でも、迷子になって毒キノコを食べる狩人ですよ?」
「自分で言うな」
「ふふっ」
篠が笑う。
今度の笑顔は、さっき森で見たものより少しだけ自然だった。
けれど。
私は折れた刀へ目を戻した。
こいつは、これからも同じことを繰り返すつもりなのだろうか。
武器を買って。
壊して。
金を失って。
誰かと組みたくても、自分から一歩引いて。
それを全部、「仕方ない」で済ませて。
「……なんかなあ」
「はい?」
「いや」
気に入らない。
篠が悪いわけじゃない。
仲間が悪かったわけでもない。
だったら、何が悪い?
答えは単純だ。
篠の力に耐えられる武器がない。
それだけだ。
だったら――。
「…………」
私は目の前に並べた素材を眺めた。
牙。
皮。
草。
石。
鉄鉱石。
今日一日で、いろいろなものを拾った。
触れれば、それが何なのか分かる。
どういう性質を持っているのかも。
そして、その中には――。
「……あ」
「どうしました?」
思い出した。
私は立ち上がり、荷物の端へ手を伸ばした。
他の鉄鉱石と混ざらないよう、わざわざ布で包んでおいたもの。
「これだ」
包みを開く。
中から出てきたのは、何の変哲もない鉄鉱石。
篠には、そう見えるのだろう。
でも、私には違う。
石へ手を触れる。
【素材解明】
【名称:鉄鉱石】
【特性:鉄分含有・精錬可能】
【Sランクスキル:「金剛不壊」付与】
「…………」
やっぱりある。
金剛不壊。
昼間に見た時は、とんでもなく希少そうな素材を拾った――それくらいの認識だった。
使い道までは、まだ思いついていなかった。
けれど今なら、この四文字がやけに魅力的に見える。
金剛。
不壊。
壊れない。
「霧江さん?」
「篠」
「はい」
「お前が武器を壊すのって、どんな武器でもか?」
突然の質問に、篠が目を瞬く。
「え? ええと……今まで使ったものは、ほとんど」
「どれだけ丈夫でも?」
「高いものは長持ちしました。でも、最後には……」
壊れる。
篠は言いにくそうに、折れた刀を見る。
「じゃあさ」
私は鉄鉱石を持ち上げた。
「壊れない武器なら?」
「……え?」
「どれだけ振っても、どれだけ受けても、壊れない武器があったらどうする?」
篠はきょとんとしていた。
しばらくして、困ったように笑う。
「そんな武器があったら、私も苦労していませんよ」
「だよな」
「はい」
「でも」
私は手の中の鉄鉱石を見る。
Sランク。
金剛不壊。
私の頭の中で、ばらばらだったものがつながり始める。
鉄鉱石なら、武器の材料になる。
この付与スキルを活かしたまま形にできるなら。
篠の力に耐えられるものを作れるなら。
試してみる価値は、十分にある。
「霧江さん……?」
黙り込んだ私を、篠が不安そうに覗き込んでいる。
私は顔を上げた。
「篠」
「はい?」
「お前の武器、どうにかなるかもしれないぞ」
「…………え?」
篠の目が、大きく見開かれた。




