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第4話「造作師の意地」③

「…………何それ?」


 白銀が、心底分からないという顔をしている。


「何って……金剛不壊」

「それは聞いたわよ。その“付いた”って何なの?」

「え?」


 今度は私が止まった。


「精錬鉄に、金剛不壊っていう付与スキルが付いてたんだよ」

「付与……すきる?」

「そう」

「何よ、それ」

「いや、だから……」


 説明しようとして、言葉に詰まる。

 白銀は造作師だ。


 しかも、金剛を見ただけで普通の精錬鉄だけではないと気づいた。


 少なくとも、腕の悪い造作師ではない。

 なのに。


「素材を調べた時に出るだろ?」

「何が?」

「名前とか、特性とか。その下に」

「出ないわよ」

「…………」


 白銀が怪訝そうに眉を寄せる。


「素材を見れば、ある程度の性質は分かるわ。でも、何か文字が出るなんて聞いたことない」

「文字……出ないの?」

「だから、出ないって言ってるでしょう」


 白銀の声に苛立ちが混じる。

 私は少し黙った。

 頭の中に、これまでの出来事が浮かぶ。

 癒し草。

 牙猪の牙。

 鉄鉱石。

 どれも、触れれば名前と特性が見えた。


 付与スキルがあれば、その名前とランクまで表示された。


 そして金剛を作った時には。


【どのスキルを継承しますか(継承可能数:1):金剛不壊】


 あの表示まで出た。


「じゃあ」


 私は白銀を見る。


「物を作る時に、どのスキルを継承するか選ぶ画面は?」

「……何ですって?」

「使った素材に何個かスキルが付いてたら、完成する時にどれを残すか選ぶやつ」

「そんなもの、あるわけないでしょう」


 即答だった。


「そもそも、さっきから何なのよ。その“画面”って」

「…………」


 待て。

 そういえば。


『すきる……というのは、霧江さんにだけ見えているものですよね?』


 篠も、そう言っていた。


 あの時は、篠が造作師ではないから知らないだけだと思っていた。


 でも。

 白銀も知らない。

 造作師なのに。


 素材を見る目まである白銀が、付与スキルという言葉そのものを知らない。


 ということは。


「……まさか」

「何よ」


 もしかして。

 これ。

 私にしか見えてない?

 胸の奥が、少しだけざわついた。

 素材の名前。

 特性。

 付与スキル。

 ランク。

 制作法。

 継承するスキルの選択。

 それだけじゃない。

 ステータス画面だってある。


 前から、普通の造作師とは少し違うのかもしれないとは思っていた。


 でも、確かめたことはなかった。


 篠に見えないのは、篠が造作師ではないからかもしれない。


 制作法が頭に浮かぶのも、造作師ごとに違いがあるのかもしれない。


 そう思っていた。

 でも。


 白銀にも見えていない。

 もしかして。

 これ、本当に私にしか見えてない?


「ちょっと」


 白銀が私の顔を覗き込む。


「黙ってないで説明しなさいよ。その金剛不壊って何なの?」

「あー……」


 どうする。


 さっきまで私は、何の疑問も持たずに全部喋っていた。


 でも、これが私だけのものなら。


 あまり大っぴらに話すのはまずい気がする。


 前世でも、便利すぎるものを持っていると分かれば、面倒事が寄ってくる。


 この世界ならなおさらだ。


「……私の勘違いかもしれない」

「は?」

「ちょっと変わった素材だったから、勝手にそう呼んでただけ」

「さっきまで随分具体的に話してたじゃない!」

「そうだっけ?」

「そうよ!」


 白銀の眉間に皺が寄る。


「継承だの、その『画面』だの! 聞き慣れない言葉ばかりじゃない! 何なのよ、全部!」

「いやあ」

「誤魔化してるでしょう!」

「気のせいじゃない?」

「気のせいなわけないでしょう!」


 完全に疑われている。

 でも、もう遅い。


 少なくとも今、この場でこれ以上喋るつもりはなかった。


 横を見る。

 篠と目が合った。


「…………」


 篠は何も言わない。

 ただ、小さく一度だけ頷いた。

 それだけで、何となく分かった。

 たぶん、今は黙っていた方がいい。

 篠もそう思ってくれている。


「まあよろしいのではなくて?」


 それまで黙っていた雲居が、ふっと口元を緩めた。


「秘密の一つや二つ、誰にでもありますわ」

「私はよくないわよ」


 白銀が即座に返す。


「造作師として気になるの」

「でしたら、なおさら無理に聞き出すものではありませんわ」

「……雲居は気にならないの?」

「とっても気になりますわ」


 雲居は笑った。


「ですから、今は聞かない方が面白そうですの」

「意味分からないわ」

「ふふ」


 この人。

 なんか怖いな。


 雲居の目が、金剛と私を交互に見ている。


 あれはたぶん。

 値踏みしている目だ。


   *


「でも」


 白銀が金剛をもう一度見る。


「仮に、その……金剛不壊? とかいうものが本当にあるとして」

「ああ」

「それで、この刀が壊れないって?」

「たぶん」

「たぶん?」

「実際、篠が岩に本気で振っても刃こぼれ一つしなかったから」

「岩?」


 白銀の眉が動く。


「岩を斬ったの?」

「正確には、砕いた感じだけど」

「…………」


 白銀が篠を見る。

 篠は少し困ったように笑った。


「本当に?」

「はい」

「それで、これが無傷?」

「はい」


 白銀がまた金剛へ目を落とす。

 明らかに信じていない。


 でも。


 完全に笑い飛ばすこともできないらしい。


 自分の目で見て、金剛の出来が普通ではないと分かっているからだろう。


「……ありえないわ」


 白銀が小さく呟く。


「何が?」

「岩に本気で打ち込んで、刃こぼれ一つない刀なんて」

「でも、なかったぞ」

「だから信じられないのよ!」


 なぜか怒られた。


「それに」


 白銀は金剛を篠へ返す。


「一度や二度無事だっただけで、壊れないなんて言い切れないでしょう」

「それはまあ」


 確かに。


 私も金剛不壊という名前から、勝手に「壊れない」と解釈しているだけだ。


 どこまで本当に壊れないのかは、まだ分からない。


 とはいえ。


「今までの刀より丈夫なのは間違いないと思う」

「それも、ちゃんと比べてみないと分からないわ」

「比べる?」

「そうよ」


 白銀の目に、妙な火が灯っている。


 さっきまでの見下すような余裕ではない。


 造作師としての意地。

 そんなものに見えた。


「私の作ったものと比べればいいでしょう」

「白銀の?」

「ええ」


 白銀が顎を上げる。

 そこで隼が、にやりと笑った。


「だったら、ちょうどいいじゃねえか」

「何が?」


 隼が山背を見る。


「山背。その盾、使わせろよ」

「…………」


 山背の背中には、その身体をほとんど覆うほど大きな盾がある。


 分厚い金属板を幾重にも重ねたような巨大盾だ。


「篠に、その刀でこいつを斬らせればいい」

「は?」


 私は思わず聞き返した。

 篠も目を丸くしている。


「どうせまた剣の方が折れるだろ」


 隼が笑う。


「そしたら、霧江の大口も終わりだ」

「私は大口なんて――」

「なるほど」


 白銀が山背の盾へ目を向けた。


「いいわね」

「あの盾、白銀が作ったの?」

「そうよ」


 白銀は自信たっぷりに答える。


「山背の戦い方に合わせて、何度も調整したわ。大型の魔獣に正面からぶつかられても耐える」

「白銀」


 山背が低い声で呼ぶ。


「何?」

「嫌な予感がする」

「気のせいよ」

「そうか」


 絶対気のせいじゃないだろ。

 白銀は山背の盾へ手を置いた。


「やりましょう」

「本気?」

「その刀が本当に特別だっていうなら、証明すればいいじゃない」


 そして、金剛を見る。


「もっとも」


 口元に自信ありげな笑みを浮かべる。


「私が作った盾が、そんな刀に負けるわけがないけど」

「…………」


 山背だけが、小さく息を吐いた。

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