ナツメルート後日談EX:君ありて幸福
空には薄い雨雲がかかっていた。
スーパーからの帰り道、ぽつりと降り出した雨。
ナツメは慌てて傘をさして、マリアを見つめる。
「マリア、荷物重いだろ。こっちの袋に移すか?」
「傘をさしながらだと、少し重いかも」
「豆乳だけ、お願いしようかな」
マリアが持つエコバッグから大容量の豆乳のパックを取り出す。
それを受け取って、ナツメは思わず笑ってみせた。
「ちゃんと頼って、えらい」
「……少しずつ、だけどね。これくらいならって思えるように、なった」
豆乳を自分のエコバッグにしまいながら、ナツメは目を細める。
「マリアは牛乳ダメだけど、豆乳ならいけるのは良かったよな」
「豆乳って、牛乳とはまた違った美味しさがあって、好き」
「ソイラテ、お気に入りだもんな」
「……ナツメが作ってくれるから、好きになった」
「……そっか」
頬が熱い。
マリアの傘が揺れる。
ななめになった傘を直そうとして、マリアはふと道端に目をとめる。
道路沿いにある一軒家の庭には、たくさんの花が咲いていた。
玄関にも、色とりどりの花の咲いた植木鉢がいくつも置いてあった。
見事な光景に、マリアは視線を奪われる。
「見て、ナツメ」
「ん?ああ、こりゃすごいな」
ナツメも花々に視線を向けて、感嘆のため息をつく。
マリアは不審者にならないように気をつけながら、玄関の植木鉢を眺める。
そこでふと、目にとまった花があった。
どこかで見かけた気がするのに、すぐには思い出せなかった。
違和感の正体を知りたくて、隣のナツメを見上げてみる。
その瞬間、脳裏に描かれたもの。
『外すなよ』
ぶっきらぼうな声。
当時はわからなかった、その行動の意味。
マリアは一瞬、息を止める。
「……ねえ、ナツメ。この花、見て」
「おう、白いのも赤いのも、見事だな」
「これじゃない?この、赤い方の花」
「何が?」
「いや待てよ、ああー……」
どうやらナツメも思い出したらしい。
ずっと探していたけれど、まさか道端の植木鉢で見つけるとは思わなかった。
花に視線を戻しながら、マリアは細く息を吐く。
「こんなところで見つけるなんて、すごい偶然だね」
「そうだな……」
「ナツメ、今顔赤いでしょう」
「何で見てないのにわかるんだよ……」
「それくらいわかるよ。夫婦なんだし」
隣でナツメがエコバッグを持ち直すのが視界の端に見えた。
「マリアも、言うようになったな」
「それ、アキラにも似たようなこと言われた」
「おい、この空気で他の女の名前を出すんじゃない」
「はあい」
マリアは口角を上げながら答える。
「この花の名前、調べてみるか?」
ナツメが花にスマホをかざしながら言う。
「いや、いいよ」
「また今度、フラワーパークに行ったら、探してみよう」
「そっか。そうだな、自分たちで名前も見つけよう」
中学時代、マリアの髪に挿された一輪の花。
今度は一緒に名前を探す未来がある。
その花言葉に二人が驚く日まで、あと少し。




