↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十八歳、触れないまま恋をする〜重すぎる愛と、静かな恋の間で~  作者: ail38


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/97

ナツメルート後日談EX:箱の中から

桜の花が散って葉桜になった頃、空はよく晴れていた。


朝食を終えて、スマホを触っていたマリアが呟く。


「クレーンゲーム、やってみたい」


「いいな、たまには賑やかな場所も行くか」


「うん。ナツメ、これ見て」


そう言ってマリアはスマホの画面をナツメに向ける。

そこにはマフユからのメッセージが。


『ゲーセンでお迎えした子です。可愛いでしょう!』


笑顔のスタンプの後に、画像が添えられていた。

ご機嫌な様子のマフユの手には、可愛い犬のぬいぐるみが収まっている。

なるほど、これを見てクレーンゲームをやりたくなったらしい。

微笑ましくて、ナツメは自然と笑みを浮かべていた。


「じゃあさっそく、挑戦してみるか」


「うん」


近所にあるゲームセンターは、家族連れで賑わっていた。

人の多さに加えて、機械の賑やかな音声などもあるが大丈夫だろうか。

ナツメはそっとマリアの様子を伺う。


「小さいのや大きいの、いろんな機械があるんだね」


「これ、マフユさんが入手したぬいぐるみだ」


マリアはクレーンゲームの機械や景品を観察するのに夢中になっていた。

とりあえず安堵の息を吐く。


一通り歩き回った後、マリアがある機械の前で立ち止まった。


「この子、可愛い」


「そうだな。挑戦してみるか?」


「……うん。やってみたい」


両手に収まるサイズの猫のぬいぐるみだった。

店によって景品を獲得する難易度はかなりバラつきがあるが、最初はマリアの好きにやらせてみようと思う。


「うう、ダメだね。アームからすりぬけちゃう」


どうやらアームの力が弱い筐体のようだ。

そうすると、景品の入手は難しくなる。

ナツメはアドバイスをすることにした。


「マリア、真ん中を狙うより、ぬいぐるみに隙間があるだろう。あそこをアームで刺すんだ」


「アームで刺す?そっか、あそこにアームを通して持ち上げるんだね」


「そう。やってみろ」


マリアが再度試してみる。

だが、なかなか狙った場所にアームを通せない。


「ダメみたい。この箱から出してあげたかったけど、残念」


ぬいぐるみを筐体から出してあげたい。

マリアらしい感想をきいて、ナツメは口角を上げる。


「じゃあマリア、今度は私に任せてみないか」


「いいけど、難しいよ」


「まあ、見てろって」


今度はナツメがチャレンジしてみる。

真剣な表情でアームを動かして、慎重に下降ボタンを押す。

マリアも緊張した顔で見守っていた。


「ここまで来たら、こう……よし!」


アームは狙った隙間にちょうど通った。

ぬいぐるみが獲得口に近づいていく。

マリアは固唾をのんで見ている。


『おめでとうございます!景品ゲットーーー!』


筐体からひときわ賑やかな音が鳴る。

獲得口に景品が落下していた。

チャレンジ成功だ。


「ほら、マリア。目当ての子だ」


「すごいね、ナツメ。こんなにあっさり獲得するなんて」


「まあな、実は昔クレーンゲームかなりやり込んでた時期があって」


「今もネットで、個人の配信チャンネルとかチェックしてるしな」


以外な情報にマリアは目を瞬く。

ナツメがクレーンゲームが得意なのは、初耳だった。


「知らなかった。それであんなに簡単にとれたんだね」


「実はアームを通すときもコツがあるんだ。下降ボタン押すだろ」


「そのとき、もう一回押すとアームの下降が止まるんだ。それでうまく通ったってワケだ」


「なるほど。そんな技があるんだ」


「これは技ってほどじゃないけどな」


ナツメは苦笑する。

マリアの尊敬の眼差しがこそばゆくて、視線を逸らす。


「あ、次はあれに挑戦してみるか?」


「うーん、今日はこの子だけでいいかも」


「そうか?まあマリアが楽しめたならいいけど」


「ナツメがくれた子が可愛いの。ありがとう、ナツメ」


「……どういたしまして」


気恥ずかしいが、ナツメも純粋な感想が嬉しかった。

人混みも増えてきたし、店を出るならちょうどいいとも思った。


「それじゃ、この後どうするか」


「この子を汚したくないから、家に帰る」


どうやら、ナツメが獲得したぬいぐるみをいたく気に入ってくれたようだ。

ナツメは口元がゆるむのを自覚しながら、マリアの手にそっと触れる。


「帰ろう、マリア」


「うん」


短い返事の後、触れた手が少し握られる。

やわらかく手を繋ぎながら、帰り道を歩く。


穏やかな風に揺られた葉桜が、ゆっくりと散っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。