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三十八歳、触れないまま恋をする〜重すぎる愛と、静かな恋の間で~  作者: ail38


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ナツメルート後日談EX:うたかたと果実

梅雨が去った空には青空が広がっている。

そんな日の昼下がり、ナツメとマリアは喫茶店で肩を並べていた。


バッグ二つぶんの距離をあけて、二人はソファに座っている。

マリアは熱心に目の前の飲み物を見つめていた。


「クリームソーダって、見た目からしてなんかずるい」


「まあ、気持ちはちょっとわかるけどさ」


ナツメの前に置かれているのは、レモンソーダ。

それに口をつけながら苦笑する。


「ここのクリームソーダも、綺麗」


「元はアキラの好物だから気になったってのは、引っかかるけど」


口の中に酸味と苦みが広がる。

ただ甘いだけじゃない、レモンソーダが好きだった。


「マリアの好きなものが増えるのは、素直に嬉しいよ」


「最初に飲んだのは、ナツメと一緒のときだよ」


マリアがやっとクリームソーダに口をつけて、頬をゆるめながら言う。


「そうだったな。飲んだことないって言うから、連れていったんだっけ」


「そう。写真で見るより、実物はもっと綺麗だったから驚いた」


「綺麗、かあ。そういえば最初からそれ言ってたな」


ナツメはおかしそうに笑う。

マリアは大事そうに一口ずつ味わいながら、目を細める。


「もちろん美味しいんだけどね」


「喫茶店で見るクリームソーダって、なんだかきらきらして見えるの」


「そういうもんか」


「私にとっては、そうだよ」


ナツメは何も言わずに、透明な水滴をまとったグラスを眺める。

そのとき、隣から視線を感じた。


「ナツメのレモンソーダも、美味しそうだね」


「おう、美味いぞ。少し飲むか?」


「うん、ちょっともらう」


ナツメはマリアの前にグラスを移動した。

透明な水滴が手に触れる。

冷たくて気持ちいい、と思った。


「……少し酸っぱくて、でも、ちゃんと甘い。美味しい」


レモンソーダを一口飲んだマリアが、そうこぼす。


「ねえ、ナツメ」


「何だ?」


「ナツメは私の、レモンの片割れだね」


意味がわからなくて、思わず聞き返す。


「どういう意味だ?」


「……秘密」


マリアが少し目を伏せる。

長い睫毛が頬に影を落とす。

先ほどより血色が良いように見えた。


その光景に見惚れながら、ナツメは呟く。


「そっか」


「意味はよくわかんないけど、いいな、それ」


ナツメの言葉に、マリアが少し笑う気配がする。


「でしょう。だから、ナツメはレモン」


「甘いだけじゃなくて、苦みもあるの」


「私はマリアのレモンの片割れ、か。なんかすげえ好き」


カラン、とグラスの底で氷が軽やかな音をたてる。

夏はもうすぐそこまで来ていた。

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